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「こっちです。おはようございます」
車で駅にやって来た深雪は、3人を見つけて大きく手を振る。
こちらに気付いた瑞穂達は、驚きながらも手を振り返した。
「待っていてくださいね」
運転手の崎村に伝え、車を降りて駆け寄る。
「さぁ、乗って下さい」
「おはよう……。本当にいいの?」
遠慮がちに車を見る優に、満面の笑みで頷く。
「はい、もちろんです。だって交通費、勿体ないじゃありませんか」
当初は4人で電車を使う予定だったのだが、せっかくだから車で一緒にと提案したのだ。
「ほら、早く。行きましょう」
今日の自分は、テンションが高い。
それは、自分でもわかっている。
瑞穂達の手を取り、引っ張って行く。
駅前に横付けされている車に駆け寄り、後部座席のドアを開ける。
磨かれた真っ黒なボディが太陽の光を反射している。
それを見たとたん、さゆりが溜め息混じりに呟いた。
「ロールスロイスじゃない。すごい車を使ってるのね。私、深雪ちゃんと結婚したいわ」
「これ、なんとかロイスって言うんですか?」
助手席に座り、笑いながら後部座席を見る。
「え?知らないで乗ってたの?」
「はい。あまり車に興味はないので。でももし買うなら、私は軽自動車が欲しいんです。ほら、色々可愛いデザインのがあるじゃないですか」
そう言うと、なぜか3人は笑った。
「または、DEXとかbBか、ハイエースでしょうか」
「一気に男らしくなったね」
そんな会話で盛り上がっていると、ふいに運転手が口を開いた。
「奥様が車を買われてしまうと、私の仕事が無くなってしまいますね」
「そんな事ないわよ。コウが乗るわ」
「しかし旦那様は、奥様が免許をお取りになられるとなれば、反対されそうです」
「どうして?私の運動神経が悪いから?」
「とんでもございません。事故にあわれたらと心配なさってです」
「…………」
「…………」
普通の談笑をしていると、優とさゆりが呆然としながらこちらを見ているのに気づいた。
その中で瑞穂だけが、からかうように笑った。
「奥様に旦那様ってすごいなぁ!やっぱり深雪ちゃんはお嬢様なのねぇ」
「いえ、お嬢様だなんてまさか。本当に、普通の家の生まれなんですよ」
とは言いつつも、瑞穂の評価は嬉しかった。
お嬢様育ちではないが、そう見える様に努力はしてきたからだ。
ふと深雪は、皆の持ち物が気になった。
「あの、皆さんは今日、何を持ってきてますか?例えばバスタオルとか──」
「あはは。銭湯にいくんじゃないんだから。タオルも館内着も、全部あっちで用意してあるよ」
「化粧品もですって。だから私、今日はメイクポーチは置いてきたわ」
優とさゆりの言葉に、深雪は無意識に自分のバックに視線をやる。
やはりボストンバッグを持ってこないで良かった。
心の底からそう思った。




