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土曜日。
少し早めに起きた深雪は、リビングと寝室を行ったり来たりしていた。
それを見ながら、コウは黙ってマグカップに口をつける。
「お昼ご飯は、冷蔵庫にシチューが入っているから、それを食べてね。あと昨日焼いたパンもあるわ」
「わかった」
目が合うと、コウは気まずそうに視線を反らす。
しかし深雪は気にする事なくまた寝室に戻った。
「先から何してるんだよ」
バタバタと忙しない音が気になったのか、リビングからコウの声がした。
「何を持って行けばいいのかなって思って。着替えって必要かしら?」
寝室から答えると、苦笑いをしている様な声が返ってきた。
「いや、別に泊まりに行くわけじゃないんだし、財布があればいいんじゃないか?あとは全部向こうにあると思うけど」
「え?そうなの?」
深雪は目を丸くしてリビングに戻って行く。
肩には、大きなボストンバックをかけたまま。
それを見て、コウは口元に持っていったカップを止めて笑った。
「どこかに旅行するのか?」
なんだか馬鹿にされた様に言われ、勘違いに気付いた。
これは少しやりすぎだったらしい。
「だってタオルとか、色々必要なのかと思ったから」
「それにしても多すぎだよ。無かったら買えばいいだろ?」
「それもそうね」
頷くと、ボストンバックを置いてハンドバックを手にし、その場でポーズをとって見せる。
「見て。この前買った服と鞄。似合ってる?」
今日のコーディネートは、白いドレープワンピに薄いピンク色のジャケットだ。
「似合うよ、可愛い」
素直に感想を言われ、深雪は嬉しそうに笑った。
「良かった。今日はね、全部新しいの。服も鞄も靴も」
「へぇ。それ全部、この前買ったやつか」
「そうよ。こんなに早く着る機会ができるなんて夢みたい」
買い物をしているときは、いつかまたデートに行く機会があればと思っていた。
だが、こんなにも早く、しかも友人と出かけるチャンスが訪れるなんて。
ふと時間が気になり、壁に掛かっている時計に視線をやる。
「あ、大変。遅刻しちゃう。多分6時くらいに帰るから。じゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい」
パタパタと玄関に向かい、靴を履いて出ていく。
コウは深雪がでかけたのを確認すると、携帯を取りだし、ダイヤルした。
少しし、相手の声がする。
「あぁ、俺。来いよ。今からなら大丈夫だ」
一方的に言って切り、椅子に凭れ深い深い溜め息を吐いた。




