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彼女の旦那のことは誰も知らない  作者: 石月 ひさか
どこまで知られているのか
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2

「深雪ちゃんの旦那さんって、柏木さんじゃなかったんですか!?」


昼休み、瑞穂と一緒に昼食をとっていた華江は、今朝聞いた事を話した。


いつもの様に、また瑞穂が旦那論を語り出したからだ。


勿論、口止めされている社長の事に関しては一切言わなかった。


「そうよ。貴方達が人のプライバシーを詮索するから、今朝直接聞いてみたの。彼女、ハッキリ言ったわ。柏木さんじゃないって」


「そっかぁ……。ですよね、柏木さんって深雪ちゃんのタイプじゃなさそうだし」


言葉の選び方はガッカリしている様だったが、その口調はどこか嬉しそうだ。


「もしかして、柏木さんを狙ってるの?」


「狙ってるとか、そういうわけじゃないですけど」


しかしその口調には、否定的な部分が弱い。


「貴方まさか、知らないの?」


「え?」


無意識に一層渋い顔を浮かべる華江に、瑞穂は少し構えた様に身を退いた。


「柏木さんは既婚者よ。もう4年くらい前になるかしら」


「そ、そうなんですか!?」


一変して目を丸くし、叫んで立ち上がる。


周囲の客達が、何事かと振り向く程大きな声だった。


華江は僅かに顔を赤らめ「座りなさい」と促す。


「噂話に敏感じゃなかったの?貴方が入社する前の話だけどね。同じ課にいた斎藤遥って子よ」


「そうだったんですか……。だから華江さん、柏木さんじゃないって言い切ったんですね」


先日の青山のカフェでの会話を思い出す。


あの時、妙に断定的だなとは思っていた。


しかしこの話を聞き、納得できた。


「やっぱりイイ男は売約済みってわけかぁ。あーあ。羨ましい」


「売約済みってねぇ」


家じゃないんだから、と思いながら、軽く咎める。


こういう所は、瑞穂も典型的な20代だ。感情表現豊かな所が長所でもあるのだが。


「とにかく、これ以上詮索するのは止めなさい。貴方だって隠し事を暴かれるのは嫌でしょう」


「そ、そうですね」


正直まだ気にはなる所だが、仲良くなればそのうち教えて貰えるだろう。


考え直し、瑞穂は冷めかけたパスタをフォークで絡めとった。

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