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「深雪ちゃんの旦那さんって、柏木さんじゃなかったんですか!?」
昼休み、瑞穂と一緒に昼食をとっていた華江は、今朝聞いた事を話した。
いつもの様に、また瑞穂が旦那論を語り出したからだ。
勿論、口止めされている社長の事に関しては一切言わなかった。
「そうよ。貴方達が人のプライバシーを詮索するから、今朝直接聞いてみたの。彼女、ハッキリ言ったわ。柏木さんじゃないって」
「そっかぁ……。ですよね、柏木さんって深雪ちゃんのタイプじゃなさそうだし」
言葉の選び方はガッカリしている様だったが、その口調はどこか嬉しそうだ。
「もしかして、柏木さんを狙ってるの?」
「狙ってるとか、そういうわけじゃないですけど」
しかしその口調には、否定的な部分が弱い。
「貴方まさか、知らないの?」
「え?」
無意識に一層渋い顔を浮かべる華江に、瑞穂は少し構えた様に身を退いた。
「柏木さんは既婚者よ。もう4年くらい前になるかしら」
「そ、そうなんですか!?」
一変して目を丸くし、叫んで立ち上がる。
周囲の客達が、何事かと振り向く程大きな声だった。
華江は僅かに顔を赤らめ「座りなさい」と促す。
「噂話に敏感じゃなかったの?貴方が入社する前の話だけどね。同じ課にいた斎藤遥って子よ」
「そうだったんですか……。だから華江さん、柏木さんじゃないって言い切ったんですね」
先日の青山のカフェでの会話を思い出す。
あの時、妙に断定的だなとは思っていた。
しかしこの話を聞き、納得できた。
「やっぱりイイ男は売約済みってわけかぁ。あーあ。羨ましい」
「売約済みってねぇ」
家じゃないんだから、と思いながら、軽く咎める。
こういう所は、瑞穂も典型的な20代だ。感情表現豊かな所が長所でもあるのだが。
「とにかく、これ以上詮索するのは止めなさい。貴方だって隠し事を暴かれるのは嫌でしょう」
「そ、そうですね」
正直まだ気にはなる所だが、仲良くなればそのうち教えて貰えるだろう。
考え直し、瑞穂は冷めかけたパスタをフォークで絡めとった。




