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その後柊からは、一通り一般的な人事の内容が伝えられ、挨拶は終了した。


拍手で労われ、檀から降りていく。彼が座席に着くのを見計らい、司会の女性が口を開く。


「柊さん、ありがとうございました。では、近藤社長にご挨拶をいただきます。よろしくお願いします」


その声に、グレーの生地に、薄いストライプの入ったスーツを着た男性が立ち上がる。


その風貌に、再び皆が目を丸くした。


ゆっくりと雛壇に上がる男は、先ほどの柊と同じく、まだ若い。


が、目つきや雰囲気が鋭く、一般の社員ではないオーラが漂っている。


堂々とした態度で新入社員を一瞥すると、ゆっくり口を開いた。


「新入社員の皆様、ようこそ近藤貿易商事へ。皆様のご入社を心より歓迎致します」


そうして再度、1人1人の顔を確かめるかの様に、辺りを見渡す。


「ご存知かとは思いますが、我が社は大正より4代に渡って続いている貿易商社です。丸の内の本社は、4代目である私の兄が継いでおります。国内では、ここも含め、約5つの支社があり、海外はアメリカを始め、スペインや中国等、約10の支社があります。皆様には本日より、ここの社員として、是非力添えいただきたいと思います」


どうやら彼は次男か3男であり、本社は長男が継いでいるらしい。しかし深雪には、社長の家族構成など、この場で聞くべき情報ではない。 社長は続ける。


「先ほど挨拶をした、柊部長を見ていただければおわかり頂けるとは思いますが、我が社は学歴・年功序列については全く関心はありません。仕事が出来る者、成果を上げる者は、例え高卒であろうと、20代であろうと、昇進可能です。ぜひ皆様には上を目指して頑張っていただきたい。ちなみに、私も現在26歳だ。残念だが社長の椅子を譲る事は、私が何か不手際を起こさない限りできないが、ぜひ皆様には上を目指して頑張っていただきたい」


社長は、若くして社を任されているだけあり、年齢より少し上に見えた。


やはり深雪は黙って話を聞いている。


「あれが近藤社長か。かなり、やり手なんだってね」


前を見ながら、土屋が小さく呟く。


「そうなんですか?あまり詳しい事は、知らなかったわ」


深雪は少しだけ視線を右に反らすと、僅かに唇を動かして囁いた。


「知らなかったの?近藤社長は、色々なビジネス雑誌でも、よく顔を見かけるよ。若手のやり手社長って。語学も堪能で、海外雑誌でもたまに見かける」


「なんだか、うちの社長って凄い人なんですね」


今思えば、自分のボスの事など全く考えずに受けてしまった。


面接の時に、突っ込んだ質問をされなくて良かった。


内定をもらった今だからこそ、ほっと安堵する。


そうして、気付けば社長の挨拶も終わり、いつの間にか事務的な作業が始まっていた。


司会の女性が雛壇に立ち、郵送した書類を取り出す様に説明している。


その作業に従いながら、何気に重役席を見る。


社長を始め、役員は皆、20代後半から30代の若年層ばかりだ。その中に、コウの姿もある。


(大丈夫だとは思うけれど……少しだけ不安だわ)


果たして初めての仕事で、こんな実力主義の社内でやっていけるのだろうか。


小さく溜め息を吐くと、ふと、厳しい表情をしたコウと目が合った。


彼は軽く周囲を見渡すと、深雪に向かい、いつもの穏やかな笑みを浮かべてくれた。

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