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「ごめんなさい。待たせちゃって」
暫くし、深雪はたくさんの袋を持って戻って来た。
「そんなに買ったのかよ」
想像以上の量に、コウは目を丸くする。
「だってここ、好みのものが凄くたくさんあったんだもの。これでもいくつかは諦めたのよ」
「へぇ。そりゃ偉いな」
皮肉っぽく答え、預けられていた袋を持って立ち上がる。
「腹減った。飯食いに行こう」
時計を見ると、午後5時を差していた。さっきまでは買い物に夢中で気付かなかったが、そう言われると深雪も、空腹を感じた。
「そうね。後半は飲まず食わずだったものね。どこで食べる?上のレストラン?」
「そんな所行かないよ」
苦笑いを浮かべて言うと、駐車場に向かって歩き出す。
「夕飯くらいはちゃんとした所で食いたいだろ。予約入れたんだ」
「え?いつの間に?」
「さっき、深雪を待ってる間に」
「本当?凄く嬉しいわ。ありがとう」
「いや……別に。お前の買い物が長いから、適当に店を探してただけだよ」
コウは昔から恥ずかしがりやで、お礼を言われると憎まれ口を叩く癖がある。
今回のも恐らくそれだろうと思い、敢えて指摘しなかった。
荷物を全部右手に持ち、空いた左手を深雪に差し出す。
「ほら。迷子にならないように」
「えぇ」
ニコニコと嬉しそうな笑みを浮かべ、差し出された手を握る。
2人は車に乗り込むと、都内のレストランへ向かった。
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「ほら、しっかりしろよ」
夕食を終えたコウは、ふらふらな深雪を抱え、車へ向かって歩いていた。
どうやら久しぶりに飲み過ぎたらしく、店を出る時から、すでに足に力が入っていない様だった。
(こいつ、こんなに酒弱かったか?)
あまり記憶は定かではないが、確か昔はビールを大ジョッキで飲んでおり、ちゃんぽんも余裕だった筈なのに。ワインとシャンパンをいくつか飲んだだけで、こんなに泥酔してしまうなんて。
「もうすぐ車に着くから。気分は大丈夫か?」
ぐったりと俯く深雪に問う。
「大丈夫……じゃないかも。気持ち悪い」
「大した量は飲んでないのになぁ」
なんとか駐車場まで連れて来ると、鍵を開けて助手席に座らせる。
「ほら、シートベルトしろよ。今日は取り敢えず帰るぞ」
「……」
深雪はされるがままになっており、何も答えなかった。
エンジンをかけて車を走らせながら、助手席側の窓を開けてやる。
「はぁ……。気持ち良い。少しだけマシになったわ」
「そうか。頼むから車内では吐くなよ」
あいにく車には、エチケット袋は用意していない。
今の様子じゃ、いつ吐いてしまうかわからない。
深雪の様子を見つつも、急いで自宅マンションへ戻った。
「着いたぞ。おい、深雪」
地下の駐車場に車を止め、肩を揺らす。だが眠ってしまったらしく、全くの無反応だった。
「おい、深雪。起きろって」
さすがに荷物がたくさんある為、このまま深雪を担いで部屋に向かうわけにはいかない。
何度か起こそうと試みるが、すでに深雪は熟睡してしまったらしく、目を覚ます様子はなかった。
「やれやれ。……仕方ない。荷物は後で取りに来るか」
苦笑いを浮かべると、深雪の体を抱き上げ、ドアにロックをしてエレベーターに乗り込む。
ふと、寝顔が気になった。
どうやら夜になって化粧が崩れてきたらしく、頬に痣が浮き出ているのが見えた。
「……」
自分でした事だが、その傷を見るのはやっぱり辛かった。
なぜ自分は、あの時殴ってしまったのだろうか。
しかも、顔を。
「ごめんな……」
もう二度と手を上げたりはしないと誓った筈なのに。
いくら挑発されたからとはいえ、手を上げてしまうとは思っていなかった。
どうしてもこれ以上傷を見ているのが耐えられなくなり、そっと深雪の髪の毛で頬を隠した。




