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「うわぁ広い!ここ、ずっと来てみたいと思ってたんですよ!」
車から降りた瑞穂は、嬉しそうな声を上げながら建物を見上げる。
彼女達がやって来たのは、横浜にあるアウトレットモールだった。
太陽の光がガラスに反射し、キラキラと輝いている。
「やっぱり女が揃えばショッピングですよね!行きましょうっ!」
ハイテンションの瑞穂を先頭に、4人は中に入って行った。
「噂には聞いていたけれど、すごいわね」
たくさんのテナントを見ながら、華江が呟く。
中にはハイブランドの店舗も入っており、休日という事もあってか家族連れやカップルで賑わっていた。
「本当。人酔いそう」
人混みがあまり好きではない優は、行く前から溜め息を繰り返していた。
「なに言ってるんですか。ほら、行きましょう」
「ちょうど新しいスーツが欲しいと思っていたのよね。取り敢えず、片っ端から見て行きましょう」
しかしそんな優をよそに、スイッチが入った瑞穂達は、嬉々として先陣をきっている。
「買い物買い物って、どうして女は買い物が好きかな」
結果的に連れ回される形になり、優はため息をつきながらぼやく。
「あら、あなただって女じゃないの。……まぁ、言いたい事はわかるけれど」
呟き、華江は既にいくつも紙袋を持っている瑞穂・さゆり両名に視線をやる。
「これじゃあ私達まるで、2人の保護者みたいじゃないですか」
「強ち間違ってないかもね。迷子にならないように、しっかり監視していなきゃ」
話しながら後をついて歩いている時、ふと前方に見知った人間を見つけた。
「あれ?あそこにいるの、新道君じゃないですか?」
「え?どこ?」
振り向き、優が指差した方向を見る。
確かにそこには、大荷物を抱えた新道が、紙コップを片手にベンチに座り込んでいた。
「どうかした?……あれ。新道さんだ」
後ろから瑞穂達も顔を出し、目を丸くする。
「こんな所で会うなんて偶然ですね。ちょっと声かけてきます!」
唯一新道と面識のある瑞穂は、そう言って駆け寄った。
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「新道さん!」
「え!?」
ぼんやりしている時に後ろから肩を叩かれ、幸一は驚きながら振り向いた。
しかしそこにいる人物を見た瞬間、更に驚いた。
「こ、近藤!?」
「こんな場所で会うなんて奇遇ですねー。デートですか?」
ニヤニヤ笑いながら聞くが、幸一は浮かない表情で深く息を吐いた。
「デートならいいけどな。今日は家族サービスだよ」
「家族サービス?」
「あぁ。あっちこちに引っ張り回されて、終いには荷物番だ」
そう言う幸一の横には、たくさんの紙袋が置かれている。
「凄い数ですねぇ」
「女ってのはハンパ無いからな。お前こそ何でここに?デートか?」
呟きながら、軽く周囲を見回す。
「違いますよ。今日は同僚と買い物に」
「同僚?って事は秘書課か?」
「はい。ほら、あそこに」
指を差された方に視線をやる。そこにはさゆり達秘書課メンバーが揃っており、目が会うと軽く会釈した。それを見た幸一はふと疑問を抱いた。
「アイツはいないのか?」
「アイツ?」
「新人だよ」
「新人?あぁ、深雪ちゃんですか」
その言葉に頷き、視線を戻す。
「新人だけ仲間外れってのは、なんか酷くないか?」
「別に仲間外れにしたわけじゃないですよ!深雪ちゃんは多分、今頃旦那さんと仲良くしてるんじゃないですかねぇ」
「旦那?あぁ、そうか」
既婚者だという事を忘れていたらしく、幸一は曖昧な笑みを浮かべてぼやく。
「女はすげぇよな。こんな人混みの中でも全然パワー落ちないんだよ。俺なんかもうヘトヘトだ」
「そりゃあ、ショッピングはストレス発散ですからね」
瑞穂は満面の笑みを浮かべ、両手にぶらさげている紙袋を見せる。
「ある意味尊敬するよ。──そろそろ戻った方がいいんじゃないか?待たせたら悪いだろ」
再度、離れた場所に立っている3人をチラリと見ると、紙コップの中身を飲み干す。
「あ、いけない。じゃあまた会社で。家族サービス頑張って下さいね!」
「あぁ……」
溜め息混じりに言うと、立ち去る瑞穂を見送る。
再び1人になった幸一は、ぐったりと体の力を抜いた。




