3
一方深雪達は、横浜のアウトレットに来ていた。
疲れたからと近くのカフェに入り、海を眺めながら暖かいコーヒーを飲む。
「今日は天気も良いし、外出日和ね」
微笑む深雪の横には、既にいくつもの紙袋が重なりあっている。
「外出日和って言うかさ、買い物しに来たようなものだけどね」
ポツリと呟き、コウはアイスティーのグラスを傾ける。
「たまにはいいでしょう?最近は仕事ばかりで、ショッピングなんて全然出来ていなかったのだから」
言い訳の様にぼやき、ソーサーにカップを戻す。
「だけどさ、車出して直ぐに止まらされるとは思ってなかったよ。六本木なんていつでも行けるだろ?」
帰り道なんだからと呟き、ガムシロを足す。
「そんなに入れたら甘くない?」
テーブルには、既に4つの空き容器が転がっており、よく見ると透き通っている筈の液体は酷く濁っている。どうやら既に、クリームも3個入っているらしい。
確かに注文したのはミルクティーだが、クリーム3つにガムシロ5つは入れすぎだ。
しかしまだ足りないのが、一口飲んで顔をしかめている。
「全然甘くならないんだ。カフェインがきつくて。俺がコーヒーとか飲めないの知ってるだろ?」
「それは知ってるけれど」
コウは見た目のわりに甘党で、一番好きな料理はハンバーグという子供味覚だ。
それは結婚してから知ったのだが、未だに大の大人がハンバーグやジュースを口にする姿を見ると、思わず笑ってしまう。
「そんなにカフェインが嫌なら、オレンジジュースにすれば良かったのに」
深雪は湯気の立つブラックコーヒーを飲みながら、意地悪そうな笑みを浮かべる。
「嫌だよ、女が珈琲で男がオレンジジュースなんて。それにこういう店は大体果汁100%だろ。30%以上は飲めない」
「そう……」
メニューを見ると、そこには確かに『100%オレンジジュース』と記載されていた。
個人の好みもあるだろうが、いい年の大人が子供味覚なのも格好いいものではない。
そんな事を考えながら外に視線をやった時だった。
今度はコウが、仕返しとばかりに笑みを浮かべる。
「そういやさっき、秘書課の人達を見たな」
「え!?誰?華江さん?瑞穂さん?さゆりさん?優さん?」
「さぁ。わかんないよ名前を聞かれても」
「じゃあ特徴は?」
「女だった」
「そんなの当たり前でしょう」
うっかりしていた。今日は日曜日で、会社の皆も休みだ。
しかもあそこ近辺は会社の近くでもあり、誰に出会してもおかしくはない。
もしもコウと一緒にいる所を誰かに見られでもしたら大変だ。
顔面蒼白になっていると、流石に可哀想だと思ったのか、コウは慌ててフォローする。
「いや、そんなに気にするなって。大丈夫だよ。見られたのは俺だけだから。深雪はバレてない」
「本当に?」
「うん、多分」
「多分なのね……」
「人も多かったしね。わかるものじゃないよ」
コウはグラスの底に溜まった液体を飲み干すと、袋を持って立ち上がる。
「行こうか。まだ買いたいものあるんだろう?」
「えぇ。次は服を買いたいの」
「服……か。また長くなりそうだな」
ぼやき、2人はカフェを後にした。