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2

「昨日は結局、旦那さんが誰なのかわからなかったなぁ」


その頃、優とさゆりはオープンカフェでランチを楽しんでいた。


最近オープンしたばかりで人気が高いと聞いていた為、買い物のついでに立ち寄ってみたのだ。


「でも家まで行ったんでしょう?写真とか飾ってなかったの?」


白ワインを飲みながら、さゆりは首を傾げる。


「そういや、なかったかな。部屋自体は可愛かったけど。深雪ちゃんらしい感じで」


「そう。中々ガードが固いのね」


呟き、オーダーしたキッシュにフォークを突き刺す。一口大のそれを口元に運ぼうとした時、目の前にシルバーのBMWが爽快に現れた。その運転席を見た瞬間、さゆりは表情を変えて下を向いた。


「さゆり?どうしたの」


「社長!社長がいるのよ!」


「え?」


眉を寄せ、優もそちらに視線をやる。


そこにはいつものスーツ姿の近藤社長が、車から下りて来る所だった。


「うわ、本当だ。休みの日に嫌な奴に会っちゃったなぁ」


優は深い溜め息を漏らしながらぼやき、同じくバレない様に俯き加減に顔を反らす。


社長は誰かと一緒らしく、助手席に向かって何やら話し掛け、反対側に回ってドアを開けた。


そこからサングラスをかけた女が現れる。


「デートかな。なんか派手な女を連れてる」


顔を合わせたくはないが、行動は気になる。


優の言葉に、さゆりは視線を上げてチラリと見た。


社長の隣には、髪をアップにし、白いトレンチを着た女が微笑んで立っていた。


「あら、本当。化粧も派手だし、夜の女かしらね」


社長は仕事上、接待等でキャバクラやラウンジにはよく出向いているらしい。


「かもね。どちらにせよ、カタギじゃない感じはするけど」


社長と女は何やら会話をし、やがて優達が居る所とは逆の方向に歩いて行った。


それを確認し、ほっと安堵する。


「良かった。こっちに来たらどうしようかと思ったわ」


「確かにあの場で出くわすのは気まずいからね」


無視をすれば良いのか、きちんと挨拶をすべきか。


仕事中であれば勿論後者だが、プライベートな上、夜の女と同伴しているならば、恐らく前者が正しいだろう。どちらにしても、出会したくはないシチュエーションには変わりない。


2人の姿がなくなったのを再度確認すると、再び深雪の旦那の話に戻る。


「でさ、私思ったんだけど、多分柊さんじゃないかな」


「え?柊さん?」


なんで急に?とさゆりは首を傾げる。


「ただの勘なんだけど。声がさ」


「声?」


「そう。前に欠勤の連絡受けたって言ったけど、声が柊さんによく似てたんだ。それにあの人なら、人事部だし、自分の妻を入社させられそうじゃない?」


「確かにそうね」


その可能性は多いにある。しかしさゆりは、どこか納得できないような顔をしている。


「私は、なんとなく柏木さんの様な気がするわ。あの2人、前に一緒にご飯を食べてたみたいだし」


「え?そうなんだ。知らなかった」


他に目撃報告はない為、恐らく外食をしたのだろう。


普通ならば、同じ課ならば未だしも、入社1週間で外食をする程仲は深まらない。


話をしていると、ふとさゆりの携帯が鳴った。


「ちょっと待って。もしもし?」


『あ、さゆりさん?大ニュースなんですよ!』


それは瑞穂からだった。なんだか妙に慌てた様子だ。


「どうしたのよ」


『今、華江さんといるんですけど、さっき六本木で、柏木さんと柊さんを見たんです!』


「柏木さんと柊さん?別に見てもおかしくないわよ。確か2人とも、家は六本木なんだから」


『違うんです!2人とも、女の人と一緒だったんです!デートしてたんです!』


「えっ、デート!?」


思わず声を上げてしまった。周りの視線に気付き、声を潜める。


「それってまさか、どっちかは深雪ちゃん?」


『それがよくわからないんです。深雪ちゃんだって言われればそんな気もするし、違うって言われればそうだし……』


瑞穂は言葉を濁す。


「とにかく落ち着いて。今どこにいるの?」


『えっと……今は代々木駅です』


「じゃあ近いわね。私達青山にいるの。こっちに来ない?詳しく聞きたいし」


『あ、はい。私達もちょうど行く所だったんで。着いたらメールしますね』


電話を切り、さゆりは息を吐く。


「瑞穂なんだって?」


「六本木で、柏木さんと柊さんを見たって言ってたわ。女とデートしてたって」


「女の顔は?」


「見えなかったって。でも深雪ちゃんだって言われれば、深雪ちゃんだって」


「へぇ。随分曖昧だね」


「2人ともこっちに来るみたいだから、聞いてみましょう」


「そうだね」


確かに考えてみれば、深雪の背丈は中肉中背だ。


髪形も緩いウェーブがかかった落ち着いた茶色だし、良くも悪くも特徴的ではない。


現にこの街を歩いている2割程の女性は、似たような格好をしている。


それに、近藤社長が連れていた女も、背丈はよく似ていたのだ。


取り敢えず今は、各自の目撃情報を元に考えてみよう。


さゆりはキッシュを食べ終えると、ぬるくなりかけたワインを飲み干した。

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