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それから3人は、他愛ない話に花を咲かせた。
話題は主に会社の愚痴やファッションの話で、不思議と旦那の話題には触れてこなかった。
深雪はお土産のケーキを食べつつ、表面上は皆と話を合わせ、終始笑顔に努めた。
だが、心情は真逆だった。
「今日は楽しかったわ。またね」
夕方になり、瑞穂達を駅まで見送りに行く。
「はい。また月曜日、会社で。気を付けてくださいね」
ニコニコと手を振る。2人の姿が改札の向こう側に見えなくなったのを確認すると、予め駅の駐車場に呼んでいた車に乗り込む。
自宅マンションに向かいながら、運転手の崎村は笑顔で深雪に話し掛ける。
「あの方達が奥様のお友達ですか。お綺麗な方ばかりですね」
「………」
しかし今は、何の返答をする気分にもなれない。
崎村は不審に思ったのか、そっとバックミラーで様子を伺った。
「奥様?どうかなされましたか?」
「ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたの。──コウは今日、何時に帰るって言っていたかしら」
「旦那様ですか?恐らく8時には帰宅されるかと思いますが」
「そう、8時ね」
呟くと、口を閉ざして時計を見る。時刻は午後6時を示している。
それきり深雪は一言も言葉を発する事がなく、崎村も何かを悟ったのか、マンションに着く間は互いに無言だった。
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8時になり、コウは溜め息を吐きながら迎えの車に乗り込む。
腰を下ろすと同時にネクタイを緩め、大きな欠伸をした。
「やっぱ休日出勤はダルいな」
「だいぶお疲れのようですね」
崎村は笑みを浮かべると、ゆっくりアクセルを踏んで車を発進させる。
「そう言えば旦那様。さしでがましい様ですが、奥様と喧嘩されたのですか?」
「はぁ?」
身に覚えのない問いかけに、キョトンとしながら間抜けな声を返す。
「まさか。するわけないだろ」
なんたって、仲直りをしたばかりなのだから。
今日は朝早く出掛けた為、顔を合わせていないが。
「そうですか……」
そう言ったきり、崎村は黙り込む。
なぜそんな事を聞いたのだろうか。気になり、問い掛ける。
「なんでそう思ったんだ?」
「いえ。なんだか奥様のご様子がいつもと違ったものですから。私の憶測です。失礼致しました」
様子が違うとは何だろうか。
眉を寄せるが、喧嘩をした覚えも、理由も全くない。
憶測だと言われれば、それ以上追及する事もできない。
なんだか嫌な予感がするまま、黙って車に乗っていた。




