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「ただいま」
暫くし、ドアの開けられる音と共に、コウの声が聞こえてきた。
「おかえりなさい」
玄関に出迎えに行くと、差し出された鞄を受け取る。
「んーただいまぁ!!」
「!?」
突然抱き着かれ、後ろに倒れそうになる。
「酔っているの?」
顔を近付けられた時、強いアルコールの臭いがした。
「ワイン、3本空けたからなぁ」
「そんなに?少し飲み過ぎよ。ほら、脱いで」
土足のままリビングに向かおうとするのを止め、なんとか靴を脱がせる。
足元がおぼつかない為、仕方なく肩を貸してソファーまで運ぶ。
コウはそのまま倒れ込むと、クッションを枕にして眠り始めてしまった。
「あ、ダメよ。シワになるわ」
なんとかスーツの上着を脱がせ、ハンガーにかける。
「もう……」
ズボンも脱がせたかったが、既に爆睡している。
呑気そうに眠る顔を見ると、なんだか急に面倒になり、そのまま眠らせておこうと、ブランケットをかけた。
「食べるって言うから待っていたのに」
どうせなら一緒にと、夕飯を食べずに待っていたのに。こんな事なら、やはり出前にしておけば良かった。
(もう夜だし、今から食べるのは体に悪いかしら)
そのまま寝ようかと迷ったが空腹には勝てなかった。
作った物は明日の朝食にしようと冷蔵庫にしまい込む。
代わりにキッチン台の下からカップ取り出すと、蓋を開けて湯を注ぎ込み、コウの間抜けな寝顔を見つめた。
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辺りが白々とし始めた頃。
薄暗いリビングの中で、コウは頭を押さえながら起き上がる。
「あれ?なんでこんな場所で寝てんだ?」
寝惚けながら室内を見回す。
昨夜は取引先の相手と一緒にレストランへ行き、ワインを飲んだ。
そこまでは覚えているのだが、その後どうなったのか、どうやって帰って来たのかは思い出せない。
「痛っ……」
どうやらまだ酒が抜けきっていないらしく、頭の芯がズキズキと痛む。
ソファーから下りると、壁づたいに寝室へ向かった。
ベッドでは深雪が眠っており、時計を見ると9時少し前だった。
珍しく寝坊したらしい。
今からでは完全に遅刻の為、会社に連絡しなければ。
だがまだ酒が残ったこの状態で、今からシャワーを浴びて着替えて仕事に行かなければならない──そう考えただけで嫌気がさした。
(今日は別に会議もないし……。たまには良いよな)
寝室のドアを静かに閉めると、リビングに戻って電話をかける。
「──はい。よろしくお願いします」
穏やかな声で通話を終えると、邪魔なワイシャツとズボンを脱ぎ、のそのそと寝室のベッドに潜り込んだ。
(ダメだ。頭が痛い……)
すやすやと寝息を立てている深雪の体を抱き締め、ついでに目覚まし時計も完全にオフにして再び眠りに就いた。