#4 彼女は彼がいて迷惑?
彼女らは洋服類などが入った袋を手に持ち、ゆっくりとした足取りで廊下を歩いている。
ミューの家にはどこに何があるのか分からないルートは周囲を見回しながら興味を示しているようだ。
「たくさん部屋があるね。どんな部屋なんだか分からないけど」
「そうね。それらは私の仕事に関する部屋だからよ」
「へぇー……」
「ところで、荷物は重くないかしら?」
「これくらいへっちゃらだよ!」
「あまり無茶はしないで」
「はーい……」
「ルート。ここからは階段だから、足元に気をつけて」
「分かった」
二人は楽しそうに会話をしながら階段の直前で一度足を止める。
ルートは先ほど話していた彼女の仕事場とされる謎の部屋にいつかは入れると淡い期待をしていた。
ミューは彼に注意をし、すたすたと階段を上っている彼女に対して、ルートは小さな身体で一段だけでも上ることに一苦労。
「……ミュー……」
「どうしたの?」
「階段の高さを魔法で変えることはできない?」
「階段が高くて上りづらいのね? 大丈夫。変えられるわよ?」
「本当?」
「ええ。ちょっと待っていてね」
ミューは彼が階段を登りやすくするために、魔法で階段を数cmくらい低くしてみた。
ルートは徐々に低くなっていく階段を見て、その凄さに驚いている。
「うーん……このくらいかしら……ルート、何回か上り下りを繰り返して確かめてみて」
「うん」
彼は試しに階段を上り下りをしたり、駆け上ったり下りたりしてみた。
しかし、ルートにとってその階段は低くなりすぎてしまい、もう少し高さがほしいと――。
「もう少し高くてもいいかな」
「分かったわ。少しだけ高さを上げるわね」
「……ごめんなさい……」
「ん?」
彼女は再び魔法で階段の高さを調整している時、ルートはミューに迷惑をかけたと思ってしまい、下を向いて俯いていた。
「なんかミューにわがまま言ってごめんなさい」
「謝る必要はないわよ?」
「……嘘だ……! 本当は僕がここにきたことによって、迷惑だと思ったくせに!」
彼は俯いたまま、彼女にそのように口にする。
ルートに苛立ちを覚えたミューは荷物を両脇に置き、左手で頬を叩いた。
「私はあなたのことが迷惑だと一ミリも思っていないわよ!?」
「……ミュー……?」
「あなたはまだまだ小さな少年だもの。これからどんどん心も身体も大きく成長するわ。だから、頭を上げなさい」
彼女は彼に視線を合わせるように腰を下ろし、はじめは強い口調で、のちに優しく語りかける。
その時のルートは久しぶりに大人からの愛情を得たような気がしていた。
まるで、自分の母親のように――。
「本当?」
「本当よ。今はわがままをたくさん言ったり、思いっきり甘えてもいいわ。そのことができるのは今しかないから」
「謝ってばかりでごめんなさい。今はミューにたくさん甘えたりしてもいいんだよね?」
「当たり前よ。あなたの親御さんと同じようにはできないけれど」
「……ありがとう……」
「あらあら、ルートったら……」
彼は自分の足元に荷物を置き、ミューにぎゅっとしがみつく。
ルートに彼女の胸の中で泣き出すのであった。
2018/12/19 本投稿




