#3 彼の過去と傷
ミューは少しの間、表情を崩さずにそのことについて考えていた。
今まではどこかの家庭で育てられていたが、とある事情があって家出をし、今は彼女の隣で笑顔を浮かべながら喜んでいる無邪気なルート。
彼くらいの年齢で今から魔法を教えておけば、将来的に使うことができるようになるのではないかと彼女は思っていた。
「やっぱり、ミューは凄いよ!」
「……あ、ありがとう」
ミューが我にかえるとルートはそのようなことを口にする。
その頃の二人は互いに顔を見合わせていたため、頬を赤く染めていた。
◇◆◇
そうこうしている間に彼女らは浮遊魔法でミューの家が近づいてきた。
彼女はルートに「下に降りていくから気をつけて!」と声をかける。
「よっと……ここは?」
「ここは私の家よ」
「なんか綺麗な家……」
「そう言ってくれると嬉しいわ」
彼女らは荷物とともにバランスを崩してコケずにふわりときれいに舞い降りた。
ミューの家は大きな屋敷でも質素なものでなく、ごく普通の綺麗な二階建ての現代的な一軒家である。
彼女は家の鍵を魔法を使わずに開け、「どうぞ」とルートを招き入れた。
「お邪魔します」
「あら。随分と律儀なのね」
「律儀って何?」
「簡単に言うと、真面目かしらね」
彼の出先でのマナーに感心しているミュー。
ルートは彼女が言った「律儀」という言葉は知らなかったようだ。
ミューは彼にその言葉の意味を教えると「へぇー……」と相槌を打つ。
「実は僕、両親から厳しく躾られてきたんだ」
「そうなの?」
「剣や銃を使うことができたから。家に置いてきちゃって手元にはないんだけどさ」
「それらは武器じゃない? 一般教養は?」
「父親は武器を、一般教養は母親から。どちらも厳しかったし、僕は一人息子だから両親に期待ばかりされて耐えられなかった……」
「それはさぞかし辛かったでしょうね」
「うん。僕が失敗したら両親に暴力を奮われたから」
「あなたの全身の傷とかは両親からの……」
「そう。それと、ここにくるまでにできた傷もあるよ」
ルートは厳しい両親に育てられている中、彼らの期待が向けられ、さらには虐待まで受けられていたのだ。
そのような状況で彼は必死に走って彼女のところまで傷だらけになりながら、逃げてきたルートの行為はとても勇気のいることである。
「すぐに手当てをできずにごめんなさい。さっきまでは歩くことも痛かったでしょうし……」
「そ、それはいつものことだったから慣れてる。ところで、荷物はどこに置いたらいい?」
「荷物はそこいら辺に置いて大丈夫よ。まずはあなたの傷の手当てをしなくては救急道具は二階にあるから取りに行ってくるわね」
「ん? これから一緒に過ごすんだから、家の中を案内もしてもらってもいいんじゃないのか?」
「非効率でごめんなさい。一緒に荷物を片付けながら、家の案内しましょうか?」
「うん! ミュー、さっきは僕の暗い過去の話を聞いてくれてありがとう」
「いいのよ。まずは二階から案内しましょう」
「はーい!」
二人は洋服類を持ち、階段で二階に向かった。
2018/12/18 本投稿