#1 出合い
【作者より】
拙作はTwitterのハッシュタグ「#魔女集会で会いましょう」で書かせていただいた作品です。
とある国の郊外で一人の少年がどこかへ向かって走っていた。
「……はぁ、はぁ……」
彼はボサボサの銀髪とどこか虚ろな紫の瞳。
隠している右目から頬にかけて過去の傷痕が走っているせいか、ちらちらと見え隠れしている。
少年の服は決して小綺麗なものではなく、ボロボロの服に身を纏っており、年齢の割りにはやせ細った身体は転んだりして傷だらけ。
その姿はまるでゾンビが必死になって走っているような雰囲気だ。
「あれ……? ここはどこ?」
彼は周囲を見回す。
今まで夢中になって走ってきた少年の視界には無数の木々が生い茂っていた。
「ははっ……」
彼は乾いた笑みを浮かべる。
しかし、口元は笑っているが、目は笑っていない。
誰もいない森の中で少年の腹の虫がぐぅーっと鳴った。
「腹減った……」
彼はその場でしゃがみ込む。
それと同時に後ろから「あらあら人間の子供かしら?」と聞き覚えのない女性の声が耳に入ってきた。
「こんなところでどうされましたの?」
「…………………………」
少年はその声の主と視線を合わせようと後ろを振り向くと、彼女の立ち姿の美しさに見とれてしまった。
「黙っていましたらわかりませんわ!」
女性は黙って見つめている彼を見て少し苛立ちを覚え始めている。
彼女は癖のない艶やかな黒髪で深紅の瞳。
身長は少年より高く、華奢でスタイルがよく見えるのは女性が身につけている帽子やワンピース、ハイヒールなどはすべて黒で統一されていたから。
「……って、僕のお腹の音を聞いていたのかよ!?」
「ええ」
「そ、それと……」
彼女は彼の視線に合わせるようにしゃがみ、「ん? 何かしら?」と問いかける。
「ま、魔女?」
「そうよ。見ただけでも分かるじゃない。私があなたを見て「人間の子供?」と訊いているのと同じよ」
「そう言わてみればそうだな…………」
魔女は少年の質問に表情を変えずに淡々と答えていく中、彼女はあることに気がついた。
それは彼の名前を訊いていないこと、家はどこなのかといった女性にとってはどうでもいいことを――。
「そういえば、あなたの名前を訊いていなかったわね? 私はミューよ」
「僕はルート」
「ところで、あなたの家は――?」
「……家出した……」
ルートの答えに今まで表情を変えてこなかったミューは悪どい笑みを浮かべた。
「ならば、私の家にこないかしら?」
「いいのか!?」
「いいわよ。ちょうど使用人がほしかったところなの」
「本当か!」
「報酬はないけれど、ご飯は二人で準備して食べましょうね」
「だが……」
「……だが……?」
「あんたが魔女ということは僕は呪われるのか!?」
「安心しなさい。私は余程ではない限り、あなたを殺めたり、呪ったりはしないわよ」
「それを聞いて安心した」
ミューから話を聞いたルートは安堵したのか傷だらけの顔で笑顔を作った。
それにつられて彼女も頬を緩める。
「では改めて。ルート、よろしくお願い致しますわ」
「こちらこそよろしく、ミュー」
魔女と人間の少年が出合い、二人の生活が始まろうとしている――。
2018/02/14 本投稿