07 ~ローレン視点~
ローレンは、昨日の宴の事を思い出す。
「エディ様!」
そういってエディに抱き付いたエリナを、将軍の息子ワインズと侯爵子息のライアンが、
「無礼者!」
そう一喝して、エリナを引き離し床に押し倒す。
エリナは尻もちをついて、大声で喚いた。
「酷い!無礼者ってなによ。私はエディ様の愛妾になるのよ!愛されないお姉様の代わりに子供も沢山産んで、ゆくゆくは王母になるんだからー!こんなことして、ただじゃおかないんだから!」
…えっとー?
何言ってるんだ?身の程知らずも通り越して頭おかしいの?の言い草に周りも静まりかえる。
まず、この第一帝国は女性を大切にする騎士の国だ。男子たるもの女性に優しく丁寧に接するものだと教えこまれる。そんな我が国は、もちろん、一夫一妻制だ。とはいえ大人の世界である。確かに愛人と言われる関係だってある。しかしそれは姦通罪というれっきとした犯罪だ。妻以外を愛した場合、妻に誠心誠意を尽くし許しを請い、離縁することにより初めて義理を通したとギリギリ許容される。つまり妻を顧みず妻を貶める男性は周りから眉を潜められ排他される。
特に王族は、他の貴族の模範となるべくそれは厳しく教育される。倫理的、また、いらぬ後継者争いを避けるために徹底されているのだ。それこそ、愛妾を持つ=降家となってもおかしくないほどだ。
そんな国で、愛妾だー!国母だー!なんて叫ぶなんて…
「…なっ?何を言うのか!お前は王族を貶め、国家を混乱に陥れるつもりなのか!」
真面目なワインズは驚愕している。
いや。間違いなくそんな大層な事は思ってないよー。ただアリアより自分の方が愛されて当然。アリアが王太子の妃になれるなら自分もなれるはずだと信じてるだけだろう。
でも、それがわかるのは多少なりともあの歪な伯爵家と縁がある俺だから。
普通は、ワインズのように思うよなー。
うん。周りもそんな風に見てる。
そこへ、伯爵夫妻がエリナに走りよった。
「申し訳ございません!エリナは、王太子殿下をお慕いしているだけなのです!ただ恋慕う幼い乙女心でございます。下がりますので、ここはどうぞお納め下さい」
そう叫び慌てて場を納めようとする伯爵に、えっー?とエリナが不満げな声をだす。
「お父様はエディ様はエリナに首ったけだと仰ったわ。ニコリともしないお姉様と結婚して寂しいだろうエディ様をお慰めするようにと言ってたじゃない。早く子供を作って、お父様を後見にするんでしょう?」
周りの目が冷たく伯爵を射ぬく。
「だっ!黙れエリナ!」
伯爵が慌ててエリナをしかりつける。
そこへ伯爵夫人が、割り込む。
「わ…私達は、身分を嵩に妹すらも虐めるアリア様が王太子妃となられる事をただただ心配していただけなのです。殿下の事を心配し話していたところ、殿下を慕う娘が少し夢見てしまったようです。心優しくいじらしいエリナにどうぞご慈悲を!」
えっ?慈悲って、、愛妾にしてくれって遠回しにいってる?
ここまで図々しく世間とズレてるとは。。
周りの白い目に気づかないのか?
「…アリアが妹を虐める。身分を嵩にし嫌がらせする。そのように言ってたな?」
エディが低い声で伯爵夫人に問うた。
そうだとばかりに、夫人が首肯く。
「そうです!先程もこの子のドレスにワインを溢すなんて嫌がらせをしておりました!いつもみっともないと身分の低さをバカにしたり、この子の持ち物を壊したり勝手に取ったりとエリナや私を見下すのです!」
声高に夫人は叫んだ。
…きた!俺達はこの時を待っていた。
「ええい!この嘘つきどもを連れていけ!アリアを貶め、何を企んでいるのだ!」
怒りを顕にしたエディに、伯爵夫妻がおののく。
「なっ?何故そんな事を。。アリア様は本当に私達に辛く当たられて…」
「まだ言うか!ならば聞く!
そこの無礼な娘が身に付けているネックレスは何か!」
周りの人達がエリナの身に付けているネックレスを見る。
それは幾つかの宝石を薔薇の形にカットした、それは素晴らしいネックレスだった。
「それは、私がアリアに贈ったはずのdearestのリガードネックレスだ!それに、その娘のつけている耳飾りも指輪も全て見覚えがある。私が贈ったもののはずだ!」
…顔を青くする伯爵夫妻。
「違うわ!このアクセサリー達は、王家からでも、ましてやエディ様から贈られたものでもないわよ。エドっていうよく知らない貴族が時々お姉様宛てに贈ってきたものよ。貢ぎ物だろうけど、なかなか可愛いものを贈ってくるから貰っとくようにと、お父様とお母様から貰ったのよ。お姉様への贈り物は好きにしてたけど、さすがに、王家から届いた物は一度はお姉様に渡すようにしてたもの。」
「だっ黙れ!」
慌てて伯爵がエリナの口を抑えるが、周りの目はどんどん冷たくなる。
「…エドは私の幼名だ。婚約者のアリアと両親だけが呼ぶ事を許された名前だ。エドの名前で贈っていたのは婚約者のアリアへ、王子としてではなく私個人からの贈り物のつもりで贈っていたのだ。アリアがみればすぐに、私からだとわかるはずだった。それに、そこの娘、私はさっきから軽々しく私の名前を呼ぶな!私は貴様に名前を呼ぶ許可はしていない!」
そうそう。ずーっとエリナはエディをエディ様と呼んでいた。ただの下位の伯爵家の娘のくせに。
アリアがエディ様と呼ぶから真似したんだろうが、王太子の婚約者と自分が同等な訳ないじゃないね?
「それに、そこの伯爵夫人がしている髪飾り…それは、我が国の至宝だ。我が母が親友であるアリアの母君エリザベス様が体調不良の際、元気になって返しにきてね!と預けたと聞いている。
エリザベス様亡き後は、アリアに譲られていたはずだ。嫁いできたその時王家に戻るはずだったのになぜ貴様が身に付けている!」
伯爵の顔が、更に青くなる。。
「…確かにあの女が亡くなる少し前にそのような事をいっていた。王家に返すものがあると。。熱のうわ言で、いつまでお高く止まっているのかと軽く流したがまさか本当だったのか?」
ぶつぶつと小さな声で呟く伯爵の声が近くにいた俺には聞こえた。
伯爵夫人は、青い顔をしながらも、
「…いいえ!いいえ違います!私の髪飾りもエリナの身に付けているものもアリア様から貰ったのです!そうです。アリア様こそ、王家を軽んじているのです。これらはその証拠なのです!」
…おいおい。さっきまでといってること違い過ぎない?
もちろん、エディだってこういうさ。
「ほう?さっきまで貴様は、アリアは持ち物も壊し見下すといっていたたずだ!それなのに、王家縁の、その価値は計り知れないほどの物を、見下しているはずの貴様達に差し出すと?」
「そっ…それは」
夫人がさすがにいいよどむ。
「伯爵家がアリアに冷たくあたっていたのは、誰でもが知っている有名な話だ。そもそも先程のワインの件も、アリアに近づき絡んでいたのはそこの娘だろう。アリアがほとんど動いていない事は周りにいた者が証言するだろう。
今までアリアが何も言わないから見逃していたが、私に対する無礼な振る舞いと将来の王妃であるアリアへのあまりの仕打ち。更に王家の至宝簒奪と国家転覆を企てるとは、反逆の意思ありとみなす!すぐに拘束し連れていけ!」
エディがそう言って、俺をみた。
お前も働けとその目が訴えている。
なんだよ。いいとこを譲っただけなのに。
「畏まりました。」
俺がいうと、エディは庭へと走っていった。
アリアが出ていった方角だ。
ずっとアリアのことが気になっていたんだろう。
俺は、軽く笑って二人の事を思う。
想いあってるのに、スレ違い気味の二人がようやく素直になれるんだろう。
そう思うなら、もっと早く教えてやれって?
そんなのつまらないじゃないか。
せっかく義妹が出来るのに、すぐエディに獲られちまうんだから、エディにはちょっと悩む位はしてもらわないとね?
さて。。
俺は、周りの衛兵達にさっさと伯爵達を連れて行くよう指示をだした。
ついでに、伯爵夫妻とエリナの部屋を捜索し、持ち物や書類等も全て押さえておくように指示をだす。
面白い証拠がザクザク取れるだろう。
俺達公爵家は、伯爵家に手は出せなかったがずっと監視しこの時を待っていた。
夫妻の部屋やエリナの部屋からは、アリアやエリザベス様の持ち物は勿論、不正の証拠も色々みつかるだろう。
伯爵が公爵家が手を出せない事をいいことに、裏で税金の不正搾取や不正取引等を行っていたことも把握済だ。
他にも将来の王妃の親であることを嵩に、借金を重ね、踏み倒す等の詐欺行為も報告されている。まぁ、他にも細々色々やらかしているだろう。
さて、俺の指示と入れ替わるように、お祖父様とお祖母様、父と母がこの宴を再開させるため指示を出しはじめた。
最初は、使用人達も呆然としていたが公爵家の指示に慌てて動きだす。
とまっていた演奏が始まり、まだぎこちない雰囲気に、公爵家が率先して話題を反らし雰囲気を盛り上げていく。
そこへアリアのために呼んでいた珍しい余興やデザート等も一気に提供され、周りから感嘆の声があがる。雰囲気が一気に華やかな賑わいを取り戻す。
そんな様子をみて、俺も庭に走った。
イチャイチャしてるだろう2人をさっさと引き離さないとね!