06
会場の入り口前でエディ様が待っていてくれた。
私をみると、目を細めて、
「アリア。綺麗だね。」そういっておでこにキスをしてくれる。
それだけで、力が湧いてくる。
エディ様の腕に手を添えると、入り口が開く。
賑やかな音楽と光が飛び込んできた。そして、会場の中にいた人達の視線を一身に浴びる。
私は、緊張して顔の筋肉が固まるのを感じ、エディ様に触れてる指先に力を込める。エディ様がそっと私の腰を抱く。
そして、エディ様が声を張り上げた。
「皆様、本日はお見苦しい所をお見せし、申し訳ありませんでした。
しかし、もう懸念事項は全て解決致しました。
私とアリアは、まだまだ未熟者ではありますが、これからも力を合わせこの国の発展に尽力することをここで皆様に誓います。
本日は、わが婚約者アリアのお祝いに駆けつけていただき誠に有難うございました。どうぞ、もうしばしこの時間をお楽しみ下さい。」
エディ様の言葉に合わせて、私も完璧な礼をとる。
私はレディ。大きな声は出せない。
その代わり仕草一つで、感謝の気持ちと騒動の終息を伝えねばならない。優雅に、そして美しく頭を垂れる。
そのまま手を取り合ってエディ様とダンスを踊る。
いつの間にか私のポーカーフェイスも戻っていた。
でも、エディ様の笑顔につられ目元がほんの少しだけ微笑んでいたことに誰か気づいたかしら?
少なくともエディ様は気付いて、更に優しく笑って下さった。
そんな私達を見てざわめいていた周りの人達も、1組また1組とダンスに混ざり始め元の賑やかさを取り戻していく。
そして、エディ様と見送りを終え、宴が終了した。
最後の見送りを終え振り向くと、公爵家のお祖父様とお祖母様、伯父様と伯母様とローレンが立っていた。
ローレンがにやりと笑いながら
「アリア、公爵家に帰ろう」
そういって手を差しだしてきた。私は、エディ様を一度見上げ、首肯くエディ様から手を離し、恐る恐るローレンの手をとった。
ローレンが、心から嬉しそうに笑った。
その笑顔をみた瞬間、緊張の糸が切れて、私は意識を手放した。
目を覚ますと、見たことのない部屋にいた。
そっとベッドから起きると、気配を感じたからか、
「アリア様。おめざめですか?おはようございます。」そういってアリーナが部屋に入ってきた。
「アリーナ!」
私はアリーナに抱きついた。
あらあらといいながら、アリーナが私を椅子に座らせてくれた。
「覚えてますか? アリア様は昨日、宴が終わられると気を失われてしまったのですよ。慌てる皆様を連れて、何とか昨日帰ってきたんです。ここは公爵家です。この部屋は、もとはエリザベス様のお部屋だったそうです。」
「お母様の…?」
私はぐるりと部屋を見渡した。
「カーテンやシーツ等は新しいものにかえたそうですが、家具等はエリザベス様が愛用されていたものそのままだそうです。部屋をみてそのまま使われてもよし、好きな家具に変えてもよしで、ご自分のお好きな部屋にしていって欲しいと奥様がおっしゃられていました。」
私は部屋を見渡したまま、
「私は、このままがいいわ。お母様のもの、私はほとんど持っていないから。お母様の気配が残るこの部屋がいい。」
そう呟いた。
アリーナ様が目を細めて、そうですねと頷く。
「今はもうお昼ですよ。皆様、心配して何度も覗かれてましたが、昨日の後始末で皆出て行かれています。
そうそう!ローレン様が起きたら昼食を一緒しようと仰って、お待ちですよ。」
「ローレンが?」
そうだ!昨日の話を聞かないと!
ぼんやりしていた頭がはっきりと動きだす。
「アリーナ!急いで支度しましょう。ローレンに昼食の件了承の連絡もいれておいてくれる?」
お任せ下さい!アリーナが頼もしく頷いた。
「アリア!もう大丈夫なのか?」
食堂に行くと、ローレンが少し心配そうな顔で聞いてきた。
「はい。ご心配おかけしました。」
私が答えると、いつものにやりとした表情ではなく、そっかぁと嬉しそうに笑うローレンを不思議な気持ちで見つめる。
「まぁ。軽く食べながら話をしよう。昨日の話聞きたいだろ?」
ローレンは、頷く私の頭をぽんぽんとすると、側のメイドに食事の用意を指示した。
「さて、アリアはどこまで知っているんだっけ?」
パンをちぎりながらローレンが聞いてきた。
「…私は、エリナがエディ様に抱きつく所をみて会場を後にしたので、その後の事は全く…」
「じゃあ、その後の事を教えてあげるよ」
そういって教えてくれた内容は驚きでした。
私は思い違いをしていたのです。