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小話02 過日~ローレン視点~

国中が湧きかえっていた。

鐘が鳴り響き、街中の人達が主役の2人を一目みようと城につめかけていた。

バルコニーに、まるで絵画のような2人が現れ手を振ると、地面が割れるような歓声が上がった。

そう、今まさに、エディとアリアの婚姻式が行われ市民達の祝福を受けているところだった。


ここに至るまでの、エディとじいさん達の攻防を思い出す。


結局、クワァント公爵家の企みがエディにばれた直後、エディが公爵家へ直談判のため乗り込み事態は収束を迎えた。公爵家で、エディと並んだアリアの「お願い、お祖父様」そう見上げながら放った一言に、じいさんは陥落したのだ。その瞬間のエディの顔は、むかつくほど晴れやかだった。


しぶしぶながらも、クワァント公爵家も婚姻のため動きだし、アリアが18歳を迎えるこの日に2人の結婚式が執り行われたのだ。


ふんだんにレースを使い華やかなドレスを着たアリアは、本当に綺麗で幸せそうだった。

そんなアリアをみていると、幼少時代の事をふと思いだした。


俺、アリアの事大嫌いだったんだよね。


そう、あれは俺が7歳の頃。

俺は、その頃伯爵家に行かされるのが嫌でたまらなかった。

伯爵家と公爵家はほぼ断絶状態で仲は最悪な状態、公爵家の人間が伯爵家にはいることは出来なかったが、俺だけは、たまに伯爵家に招きいれられていた。

多分伯爵家は、当初、俺とエリナの婚姻を企んでいたんだろう。

アリアを盾にし公爵家からの攻撃はなかっただろうが、公爵家に睨まれたままでは伯爵家はうまい汁がすえない。俺とエリナが婚約すれば、一気に伯爵家の立場はあがり、将来の公爵夫人ともなれば上にいるのはあとは王族位なものだ。

宰相達は手ごわいが、7歳の子供ならうまくやれば抱き込めるとでも思っていたんだろう。

でも俺は、我儘でべたべたと甘えてくるエリナも、会いにいっても表情一つ変えないアリアも、あの暗い伯爵家の雰囲気も大嫌いだった。


※※※※※


「なんで、伯爵家なんて行かないといけないんだよ!」

しつこく、祖父や祖母、母や父から伯爵家の誘いにのるように言われ僕は怒っていた。


「伯爵家ごときの誘いなんて出席する義務はない!」

僕が断固拒否すると、お祖母様の目に涙が浮かぶ。

それを横目に僕は走って部屋から逃げた。


「なんだよ!アリアアリアアリア!この公爵家の子供は僕なのに、あんなニコリともしないアリアのどこが可愛いんだよ!」

僕は1人ぶつぶつと呟いた。

僕だってわかってる。アリアが伯爵家でいい扱いを受けていないことは、伯爵家にいけばすぐ気づいた。お祖母様達はその扱いを心配し、僕に様子をみて来て欲しいのだ。

「わかってるけど、面白くない!!」

僕は庭で寝転がりながら叫んだ。


僕があまりに嫌がるからか、しばらく伯爵家に行かない日々が続いた。でも、ある夜、エリザベス叔母様の写真をみて涙を流すお祖母様とお母様の姿をみて僕はため息をついた。

「伯爵家に行ってもいいよ」

僕がそういうと驚いた表情をした後、お母様が僕を抱き締め、有難う。そう呟きながら、頭を撫でてくれた。


でもやっぱり、久しぶりの伯爵家はちっとも面白くなかった。久しぶりに会ってもニコリともしないアリアにうんざりする。

とりあえず元気そうだし、とっとと帰ろ!と暇を告げさっさと玄関にむかう。

ちょうどエリナが何かしたらしく、珍しく見送りはアリア一人だった。


「じゃあな」

僕がそう言って帰ろうとすると、服の裾が引っ張られているのに気付いた。

何事かと裾をみると、アリアの小さな手が僕の服の裾を引っ張っていた。

「…ローレン様。また来て下さいますか?」

小さなそんな声に僕は驚いた。アリアからそんな事を言われるなんて思ってもみなかった。

僕が来ても来なくても興味がないんだと思っていた。


僕がまじまじとアリアをみると、伏せ気味だった目をしっかりと僕の目に合わせて、

「久しぶりにお会い出来てとても嬉しかったです。また来て下さい。」そう言いながら俺の裾を引っ張る手は少し震えていた。

初めてアリアの瞳を間近でみた。

紫の綺麗な瞳だった。


あぁ。そっかぁ。こいつ、僕が来なくて寂しかったのか!

アリアの瞳の奥に隠しきれない寂しさと、僕にまた来て欲しいと訴える気持ちをはっきり感じて、僕はくすぐったくなった。

「いいよ。また来ても。」

僕がそう言うと、瞳の奥がとても嬉しそうに輝いた。


なんだ、なかなか可愛いとこあるじゃないか。

まぁ。たった1人の従妹だし、少しは可愛いがってやるか!

そう思いながら僕は帰宅した。


それからはアリアの瞳をしっかり覗きこむようになった。

すると照れたように目を伏せたかと思うと、僕の話に瞳の奥が輝いて楽しそうに揺れる。そんな小さな反応がなんとも可愛いらしく、アリアと以前より親しく話すようになった。すると、僕はあっという間に伯爵家から出入り禁止となってしまった。


僕はミスを犯したのだ。


「ごめんなさい。もうアリアの様子がわからない。」そう真っ青になって謝る僕をお母様達は首を振り、優しく抱き締めてくれた。

「いつか必ずアリアを公爵家に取り戻す!その時は、アリアに優しくしてやってくれるか?」

そう尋ねてきたお祖父様の言葉に僕は力強く頷いた。

「アリアのことは僕が守るよ!」

僕の誓いの言葉にお祖父様は目を細めると、嬉しそうに僕の頭を撫でてくれた。


※※※※※


そんな昔の事を思い出しながら、

エリザベス叔母さん、アリアはちゃんと幸せになれたよ。

俺はそう呟いて、青い青い空を見上げた。



祝賀のパーティーも無事に終了し、「やっぱりまだ早かった」とぶつぶつ言っているじいさん達を連れ帰る。


家に着くと、父が思い出したように俺にいった。


「アリアの式も無事に終わったし、次はお前だな。いい年してまだ婚約者もいないんだから」

仕方ない奴だといわんばかりに、矛先が俺にむく。


「心配いらないさ。俺、好きな(ひと)いるから」

俺の言葉に、皆が驚いた。


「どっ、どこの令嬢だ?初めて聞いたぞ!」

父と祖父が慌てて俺を締め上げてくる。母達は、あらまぁと息子の恋話に瞳が輝いている。


「アリーナだよ!」

俺が名前を告げると、じいさん達の顎が外れるかと思うほど大きく開かれ言葉を無くしていた。


あれ?

俺、言ってなかったっけ?



翌日。

祖父と父が並んで座っている所に呼び出された。

「…昨日の話なんだが。」

じいさんがおもむろに話しだす。

「アリーナが素晴らしい娘なのはよくわかっている。しかし、あまりにも身分が足りない。そこの所お前はどう思っているんだ?」

それについては、俺は思うところがあった。


「俺の結婚相手はさ、地位のない人がいいはずだ。アリアがクワァント家の娘として王家に嫁ぎ、将来王妃となる今、クワァント家は力を持ちすぎている。ここで、俺が力のある貴族の娘と婚姻を結べば、無駄に敵をつくり、面白くないと思う貴族達が色々と動きだすだろう。」

俺の言葉に、ふむ。と父が考えこむ。


「アリーナに身分が足りないのはよくわかってる。でも、クワァント家と縁を結びたい力のない伯爵家なら喜んでアリーナを養女にするだろう」


俺の話を聞いてしばらく思案していた父が

「まぁ。今のクワァント家であれば、確かにそう悪くない案かもしれないな」

そう静かに頷いた。


「それにしてもいつの間にアリーナとそういう仲になってたんだ?」

全然気づかなかったと父に言われた俺は、ニヤリと笑った。


「今から、アリーナを落とすんだよ!」


俺の言葉に、二人は顔を見合せ、ため息をついた。


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