01
「…君は興味がないの?」
初めて交わしたのはそんな言葉。
私は、何て答えたんだっけ?
私は、アリア・マクラーレン伯爵令嬢。
この第一帝国の貴族令嬢。
別名「人形令嬢」…
薄いピンク混じりのストロベリーブロンドに紫の瞳。
少しつり上がり気味の目と表情が乏しい顔でそんな風に呼ばれてる。
表情が乏しいのは生まれつきと、きっと、王妃教育のせい。
そう、私には婚約者がいる。
この国の王太子エディ様。
綺麗な金髪とちょっとヤンチャな笑顔。ブルーの瞳はいつもキラキラで優しくおおらかで剣の腕前も一流だという。
私には勿体ないほどの婚約者。
5歳で婚約してから、私は王妃教育のため城に通ってる。
はっきりいって、教育は厳しい…
でも、エディ様に近づきたくて頑張ってる。
お互い教育が厳しくて城にいても、ほとんど会えないけど、いつかエディ様の隣に!その思いが私を支えている。。
「はぁ。」
微かにため息をついた私に侍女のアリーナが心配そうに声をかけた。
「お嬢様。気が重いのでしたら、無理されない方が?」
「…大丈夫よ。久々に家族が揃うのですから。」
そう。今日は、異母妹の誕生日。
私の実母は、私を産んですぐに亡くなった。
私が1歳の時父は今の義母と再婚した。私と1ヶ月違いの妹を連れて。
コロコロと表情がかわり義母にそっくりな妹に父はメロメロだ。
私の母も感情が表情にでないタイプで、父とは政略結婚で愛はなかったらしい。義理の母は男爵家出身で身分が低く、ずっと父の愛人だった人だ。
そんな忍び耐えた義母と父の物語は、我が家では、真実の愛!だと父が豪語してる。
そして父は母に似た私はあまりお好きでないらしい。
…そんなに素晴らしい真実の愛なら、私の母と結婚しなければ良かったのに。
私の母は公爵家の娘で縁談を断れなかったというが、母との結婚をごり押ししたのは、父だったという。
当時、財政難だった伯爵家だったため、父が母を熱望し、病弱だった母をほぼ騙すように婚姻したという。
そして病弱だった母は私を出産すると亡くなった。
もしかしたらそれが父の狙いだったのでは?と勘ぐってしまう。
だって、1ヶ月違いの妹よ?
乳児だった私には母親が必要だ!そう言って今の義理の母との結婚を強行した。
私のためだというその言葉に、周りは再婚を認めたという。
まぁ。乳母に育てられた記憶はあるけど、義母に構ってもらった記憶はないけどね?
アリーナは、そんな乳母の娘で私の乳兄妹だ。
屋敷は父と母の影響下にあり、私には腫れ物に触るかのように誰も近づいてこない。アリーナと昨年亡くなった乳母だけが私の味方だった。
普段は、私が王妃教育で城に詰めてるので、夕飯も1人でとっていて家族との接点は全然ない。
ただ今日は妹の誕生日。お祝いの日。
「今日はお姉様も一緒に食べましょうね」
そんな妹の一声で、父母から早い帰宅を言われている。
でも、ねぇ。?
「エリナ様は本当にわかってないんでしょうか?
毎年エリナ様の誕生日は3人で楽しそうに話して、アリア様に誰も話をふらないことに!アリア様の誕生日は、プレゼントが届くだけで誰もお祝いしたことなどないのに!」
アリーナはプンプンと怒っている。
「…仕方ないわ。エリナは家族皆仲良しだと信じて疑っていないのよ。別に私もいじめられてる訳じゃないわ。ドレスも食事も豪華で不自由ないし。。」
「でも!エリナ様のドレスを選ぶ時だけは家族総出で、晩餐もまるで普段はアリア様の存在などないように3人で囲って。。それなのに見せつけるかのようにエリナ様のイベントだけはアリア様を呼んでくるなんて!私は悔しいのです。」
「アリーナ。有難う」
微かに微笑んだ私にアリーナははっとしたように、
「すみません。私ごときが」
「いいえ。私も時々辛く感じることもあります。でも、ほら?このポーカーフェイスでしょう?淡々として動じないように見えるみたい。それが尚更可愛くなくて、お父様にもお義母様にも嫌われるんでしょうね。」
「アリア様。。確かにアリア様は多少表情は分かりにくいですが、気持ちはとても豊かで優しいこと、少しでも一緒にいればすぐにわかります!」
「有難う」
私は少しだけ心を奮い立たせて立ちあがった。
家に帰ると、楽しそうな笑い声が響いていた。
「帰りました」
私がそう声をかけると、ピタリと笑い声が止まった。
「お姉様!お帰りなさいませ。今日は私のために有難う!」
そういってニッコリエリナが笑った。
「アリア。王妃教育はしっかりやっているか?我が伯爵家の娘として恥ずかしい真似はしないように!」
「…」
無言で私を睨む義理の母と冷たい目で話す父の声をききながら、
「ただいま戻りました。本日は、お誕生日おめでとう」
完璧なポーカーフェイスとお辞儀で、私は返事を返した。
その後の食事?
例年通り楽しそうな3人の姿を横目に、ご飯を食べました。
「お姉様!今日は有難う。でも、先月のお姉様の誕生日もこうやってお祝いしたかったわ!私はお父様にもお母様にも言ったのよ?でも、お姉様は妃教育で忙しいのよ!って言われてしまったの。たまにはこうやって早く家に帰ってきてね。家族がバラバラなんて悲しいわ。」
晩餐を終えて部屋に戻ろうとすると妹がそう声をかけてきた。。
「…そうね。」
私の誕生日の話なんてされたことはないわ。
そんなに妃教育のことを気にするのなら、今日のエリナの誕生日も私は放っておいてくれて良かったのに。
頭に浮かんだ言葉をのみこみ、私は部屋に戻った。
妹のことは嫌いじゃない。
でも、、たまに心が悲しくなる。
少しだけ泣きたい気持ちになる。
「私も愛されたい。。生まれてきてくれて有難うっていつか言われてみたいな。。」
ポツンと呟いた声は誰にも響かない。
アリア15歳。