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製造人間十三号  作者: ノナカ マサミツ
8/8

はじめの一日目

O3(オースリー)か。なるほど、たしかにあそこならヒトとモトビトと接触する機会はあるし、モトビトが自ら護衛を雇っていたというのも納得がいくな』


編集長は納得した表情を見せる。そしてホバックスが買ってきた指定のエネルギーカートリッジをマイキセルに装着し、おいしそうに吸った。


『ええ、正直知り会うことができるとは思ってもみなかったのですが』


開けたエネルギー缶を両手持ちでホバックスは答える。さりげなく体感屋とのプライベートな話から上手くそらすことができたと内心ほくそえんでいた……が


『で、具体的に二人でどんな買い物したんだ?まぁ大方あの子が先導していく形で出店を回ったんだろう?』


しかしそうは問屋が卸さなかった。編集長は先ほどのお返しとばかりにニヤニヤしながら聞いてくる。まったくこの編集長というヒトは……そう思いながら楽しくもつらい記憶を目の前の幼き年長者に語りはじめた。




その会場は出入り口の門の外から中を見るだけでも非常に広大であり、その周りはここまで来るのにいやというほど見た頑丈な塀で四方形に覆われている。


出入り口は大きな門が対称的に二つずつ、合計四つほどあり、中央の巨大な建物を中心として広がる出店や建物群、そして大量のヒトで賑わい、まるでここがひとつの王国のように見えた。


門前には数人の門番らしきヒトに守られており、簡単なチェックを受けたあとに然るべきヒト、つまり周りに危害を加える可能性があるモノを装備内蔵されているヒトに関しては許可を申請するか、もしくは一時的に預けるなり内蔵なら封印のシールを貼られることになる。幸い俺は刑事としての証明証を提出することで許可を取ることができた。こういう時は本当に便利な代物だ。


「ねえねえ見てくださいよこのお店!色々なパーツが置いてありますよ!」


はしゃぐ体感屋に荷物を持たされた腕を無理やり引っ張られて連れ込まれた四件めのテントは、主に腕周りに関してのパーツを扱っていた。手首部分から換装するものから腕丸ごと替えるものまで様々な腕パーツが一つ一つ綺麗に陳列されている。


「いらっしゃい、こっちからこっちまでがうちで作ったオリジナルパーツで残りは汎用性のパーツだよってあれ、あんたは……」


そう言って出迎えてくれた店主は、髪はショートカットでツナギ姿と服装や髪形に違いはあれど体感屋にそっくりな姿であった。


「あら、同型に会うなんて珍しいですね」


「てことはあんたも"AI(エーアイ)シリーズ"かぁ」


「そうなんですよー最近は前ほど見ないですよねぇ」


嬉々として話に花を咲かせる二つの同じ顔。昨今ではあまり珍しい光景ではないが何となく面白い気がするのは自分だけだろうか。少し疲れたしせっかくだから端で座って見ていよう。


「そういや後ろのアンタは見たことの無い型をしてるんだな」


数十分後一通り体感屋との話を終えて、店主はそう言ってこちらに近づいてくる。


「あの……俺になにか」


「色や見た目に一貫性があるから、様々なパーツからのカスタムではなく元からこういうデザインで造られているようだね」


なめ回すように俺を全体的に眺めると今度はいきなり腕を取り、顔を近付けてまじまじと観察する。


「なるほど、腕部分の装甲が分厚いのは防御を上げるだけではなく中に武器が仕込んであるからかーいいなぁ、分解(バラ)したいなぁ」


目をキラキラさせながら勝手に解説する店主。AIシリーズのヒトは皆こんな風に何かに集中すると周りが見えなくなるのだろうか……そんなことを思いながらしばらく成すがままにされていた。


なんだろう、非常に気まずい……あと分解はやめてください。


 何笑いを堪えながらこっちを見ているんだ体感屋よ。少しは止める素振りを見せてもいいんじゃないかな? しかしながら誉められることは……まぁきらいじゃあないし、恐らく体感屋に似ていたからというのも我慢できた要因であろう。気まずさと気恥しさを紛らわすために何となくオリジナルパーツのショーケースを眺めていると一つのパーツに目が止まる。あれはもしかして


「ゴルド-ロボ……ゴルド-ロボじゃないか! 」


「へぇ、よく気がついたね。もしかして"シンワ"に詳しいクチ――っておっと!? 」


腕の構造を観察していた店主がニンマリとした顔を上げてそう答えると同時に自身の身体全体がふわりと浮き、数センチほどショーケース方向へと飛んだ。


 原因は、つい店主が腕をつかんでいる状態で俺がそのパーツ前まで移動してしまったためである。それほどまでに俺はこのパーツに魅入ってしまっていたのだ。詳しい? いや、詳しいなんてものじゃあない。何を隠そう俺はこのゴルドーロボ……正式名称 【正義の使者 ゴルドーロボ(ヒュンフ)】の映像記録を見て育ったのだから。


「こいつはどう見ても "ゴルドー(アインス)"のドリルアームそのものだ……! 」


恐らく体感屋のようなボディであったのならば、今の俺は憧れたものを見た時のような恍惚(こうこつ)した表情をしていたであろう。


「いやぁ、びっくりした。しかしまさかこんな所にゴルドーロボ好きがいるとはねぇ。そいつは何度も映像記録を見直して精巧に造ったものだよ。 しかしゴルドーロボは、(いにしえ)からの創造主とヒトとの関係を記した記録、俗に言う"シンワ"でも割とマイナーな部類なのに……」


未だに俺の腕を掴んでいる店主がそう答えた。


「そりゃあ、腕を飛ばしたり、太陽光を最大限に利用できたり、特殊なバリアを貼れたりするシンワ達よりはマイナーだけどさ……良い話なんだよ、ゴルドーロボも良い話なんだよ!もっと有名になってもいいはずなんだ……」


「熱く語りますねぇ、こんなホバックス珍しいです」


「悪いが体感屋、シンワに関しては少しうるさいぞ俺は」


こうしてしばらく三人でのシンワ談義で盛り上がったあと、試装着を経て改めてこのオリジナルパーツの値段交渉にはいった。


たまたま一点モノのパーツだけあって相当な値段ではあったが、値段交渉の結果、何とか財布の致命傷だけで済ますことができた。多めにお金をおろしておいたとはいえ、本丸(ちょきんざんだか)まで被害が及ばなくて本当によかったと思う。しかしその代わり、O3が終わるまでここで展示してから自宅に配送、もしくは直接取りに来て欲しいという約束を交わすこととなった。というのも……


「最近はボディをすぐに変えてしまう輩が多いからなぁ。しかも基本型からかけ離れた型がここ最近流行っているから、お陰で今まで売れてた基本型用の汎用性パーツがちっとも売れないんだよ」


これがO3終了までの展示の理由である。確かに所々に空きのあるオリジナルパーツスペースに比べて、オリジナルパーツより量のある汎用パーツは悲しいくらいに積まれていた。これ以上片方が隙間が空いてしまうと流石に見映えが悪くなるためであろう。


でもオリジナルパーツばかりが売れることはけっして悪いことじゃないよと店主は笑いながら語る。パーツのメンテナンスや修理などは当然ここで行うことが一番なわけで、ほぼ確実に購入者がうちのお得意様になる点はやはり店的にも個人的にも嬉しいものだと答えた。


さらに付け加えると大手4社の下請け、提携先探しも兼ねたこのO3ではパーツ等の購入者は会場に入る際に渡される入場コードを通して買い物を行わなければならない。どのようなモノがどの位、どこのお店で売れているのかを集計するもので、オリジナルパーツが売れるということは客に対してのニーズに答えられると大手にアピールできることから、更なるビジネスチャンスへと繋げることができるのだという。


それから何時間たっただろうか、俺と体感屋がこのテントを出る頃には1日の半分をそれなりに過ぎた頃であった。テントから出る際に店主から


「中央にある、はじまりの像と希少なパーツのオークションが行われるモトビトの館はここに来たなら見ておいた方がいいよ」


との言葉を素直に聞き入れ、早速はじまりの像から見てみることにして歩き出す。数分ほど案内に沿って歩くと目的のモノは遠くからでもよくわかった。


「これがはじまりの像ですか」


「どうやらそうみたいだな」


それはとても大きな長方形に頂上に1つ、側面に二対の三角形がついたオブジェであった。そそりたつそれがどうしてはじまりの像なる大層な名前なのだろうかと気になり説明文を読んでみると、どうやら初めて創造主がこの地に降り立った際に使ったモノを再現したと書いてあった。○と×の模様が印象的なそれは迫力はあるが本当にこれに創造主が乗っていたのは正直疑問ではあったが……


「……創造主なら乗っていたかもしれませんね」


「そうだな……シンワでもよくこんな感じの乗り物出てくるしな」


「と言うことは、やっぱりシンワはキチンとした事実を伝えている記録なんですね」


「そりゃあ、そうだろうよ。 この惑星がこんなに発展したのもシンワのようなことが起きたからだと俺は思うぞ」


「そうかな……そうかも」


現存しているシンワの映像記録のほとんどが絵を動かしたようなものばかりだけど、きっと何か理由があったんだろうなと体感屋は勝手に解釈した。


「そういえばさっき予定表を確認したんですけど明日、オーパーツのオークションがあるみたいなんですよ。 是非取材してみたいじゃないですか、ね? 」


嫌な予感がする。


「というわけなので明日も付き合って貰えませんか?」


俺は無言で頷いた、頷くかなかった。だって目が怖いんだもの。

こうしてゆっくりするはずだった連休2日目は無くなり、O3へ2日続けて行くことが決定したのだった。




今思えばここでまたこの地に来なければあんなことにはならなかったのに……それが本当に悔やまれる。

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