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製造人間十三号  作者: ノナカ マサミツ
4/8

編集長が来る!

「へ、編集長!」


「編集長だって?」


 二人の驚く様を見て、編集長は持っていた杖を地面に突き鳴らす。鳴らした場所がまだ室内であったため、カツーンと床を突いた音がやたらと大きく反響した。そして二人の姿を確認すると、ゆっくりと二人の方へ歩み寄りながら喋りだした……先程の大声で。


「なんだなんだ、ヒトを珍獣のような目で見よってからに」


「す、すみません。あの、どうして編集長がここに?」


体感屋は先程の一声で、すでに身体が縮こまっていた。


「実はな、ウチの身内がここに入院しとるのだ。のう“ウチ”の体感記者殿?」


鋭い眼光が体感屋にむけられる。


「うぅ、そうです……」


「わかったならもっとシャキッとせんか!」


「は、はい!すみません!」


編集長の一喝に体感屋の背筋がこれでもかと言うくらいピンッとのびた。


「し、しかしよくココがわかりましたね。あ、初めまして、私は――」


 ホバックスが名乗ろうとした瞬間、編集長がホバックスの方へ目線を変えると、先程とは打って変わって落ち着いた口調で話しはじめた。


「たしか君は……ホバックス君だったかな?いつもウチの子が世話になって。しかしこの子は迷惑をかけてはいないだろうか?」


「……えぇと、そうですねぇ」


 言葉に詰まったホバックスが、ふと編集長の後ろを見ると必死に目で訴えてくる体感屋の姿があった。直接回線など使わなくとも“メイワクデハアリマセンヨ”そう言ってほしいと明らかに顔に書いてあった。その涙目の訴えに一度ため息をつくと、意を決して答える。


「確かにコイツはまだまだ未熟な面はあります」


「!?」


「しかし、私にとってはかけがえのない友人であり、迷惑であるとは一度も思ったことはありません。それに私もまだ未熟者ですから二人合わせて丁度良い位です」


ホバックスはそう編集長に断言した。その答えに編集長は体感屋の方向をむくと、先程の大声で


「AI8055!」


と叫んだ。その声に体感屋は反射的に反応すると、背筋を伸ばし直立する。


「は、はいぃ!」


 すでにカラ元気に近い返事を返すことだけで精一杯の体感屋であったが、次に編集長からの言葉は体感屋にとって意外なものであった。


「良い友をもったな」


 その先程とのギャップのある静かな言葉は体感屋を数分程棒立ちにさせ、さらに徐々に緊張の糸がほぐれていく様を見ることができた。


「あ、ありがとうございます!」


「我々の職業は繋がりなしでは勤まらん。その繋がり、大事にするんだぞ」


「はい!」


この時見た体感屋の安堵の表情は、今まで見た物の中で一番の表情であった。


『何とかうまくいったな』


直接回線でホバックスが体感屋に離しかける。


『本当に助かりましたよ……ホバックス、ナイスフォロー』


『こいつは一つ貸しだな。あとで何かおごってくれ』


『え、何言ってるんですか? さっきの一件とコレでチャラですよ』


『なん……だと……! なんだよさっきのって』


『あ~さっきはすっごく手が痛かったなぁ~。鈍感には解らないんだろうなぁ~』


『いやいや、あれは自業自得だから、鈍感じゃなくて頑丈なだけだから。それに被害者は俺だし、殴られた方だし!』


『それだけじゃありません、私のガラスの心は酷く傷ついたんですぅ!』


 この二人が実に低レベルな口喧嘩を水面下で展開しているなどとは全く知らない編集長は次にホバックスの方へ向き直すと、素直に謝罪した。


「先程は失礼しました。ここに来る際、どうも口論でうるさい二人組が屋上の方へ行ったと看護師さんの話を小耳に挟んだものですから」


静かに聞いているかに見られる二人、しかし二人の言葉の格闘はまだ終わってはいなかった。


『ガラスの心ねぇ、そんな心だったら傷が付く前に動いた時点で粉々だよ。鋼の間違いじゃないのか?』


『ひどい!コレだから鈍感は……』


『俺は鈍感じゃなくて頑丈なんだって! ダメージが通らなかっただけだ!』


「まさかと思い、もし迷惑を掛けているのなら喝の一つでも入れないと……そう思い屋上へ行くと二人がいたので確信してしまいつい大きな声を……しかし、たまたま居合わせただけで僕の勘違いであったようだ」


語り続ける編集長は感極まっているのだろうか、顔は見えなかったものの少し声が震えているように聞こえる。心を落ち着かせるために少しだけ間を置き、改めて二人に語りだす。


「なぜなら君達はこんなにも固い絆で結ばれているのだから!」


「そんなことはありません!!」


「そんなことはない!!」


 二人はほぼ同時に、そして全力で否定した……先ほどの口喧嘩そのままに。しまった、ばれたと言い放ったあとに後悔し、体感屋はとっさに口を手でふさぐ。何故なら編集長の目がまた鋭くなったのを感じたからだ。


「お前たち……そんなに恥ずかしがることはないだろ~」


どうやら先程の否定を照れ隠しだと思ったらしい。体感屋はすかさず話を合わせる。


「え……と、ほ、ホントなに言ってるんですか編集長~アハハハ……」


「ははは、そう照れるな照れるな」


「アハハハハ」


「はははは」


大笑いしている二人に、ホバックスは……


「……」


ついていけずに完全に蚊帳の外であった。


「ところでお前達、そもそもこんな屋上で何をやっているのだ?」


編集長の質問に二人は顔を見合わせると、改めて編集長に今までの経緯を説明した。


「ふむ、テレビや前にお前からある程度のことは聞いてはいたが――まさかその記憶を失っていたとはなぁ。で、手掛かりはそのメモリーカードだけということなのか?」


 そう言って体感屋のもつメモリーカードを指さす。体感屋が頷き答えようとすると、ホバックスが先に割って入る。


「これは体感屋と一緒にいた自分の記憶なので……手がかりと呼べる代物かどうかわかりません。それと失礼ですがお聞きします。ある程度とはどの位体感屋から聞いていたのですか?」


「この子は昔からやたら“サプライズ”が好きな子でね、凄い特ダネが手に入りますよ~位しか聞いてはいなかったな。正直テレビの方がよっぽど詳しかったよ」


ため息混じりに答える。


「ありがとうございます。ふむ、四日目以降のことを少しでもいいから漏らしていればなぁ。普通なら少しくらい上司に話してもいいだろうに」


「まったくだ」


二人の横目を一身に感じ、


「何も答えられなくて面目ありません……」


今の体感屋にはそう答えることしかできなかった。


「お前には色々と聞きたいことはあるが……とりあえず今はゆっくり休め。そして身体を万全に調整するんだ。こいつは命令だぞ?」


 そう言い渡された体感屋は大人しく頷くかと思われたが、真面目な顔で編集長の顔を見返すと意を決して答えた。


「編集長、私これの中身……今すぐ観ようと思っています。」


編集長をじっと見つめるその瞳は、すでに何かを決意した眼で、編集長はそれをひしひしと感じていた。


「内容が内容たぞ?本当に良いのか?」


「私は真実を知りたい、ただそれだけです。」


 当初、編集長はもう少し間を置いてから観るほうが良いと考えていた。おそらくこの子はカードの中身を観た途端、すぐにでも飛び出していくだろう、そう考えていたためである。しかし一度決めたら妥協せずに進む。これが前々から変わらないこの子の美点であり、欠点でもあった。そしてもうこの子はすでに決めてしまっている。恐らくもう僕でも止める事は難しいだろう。ならば鎖でつなぐ必要がある。


「わかった、観ることは止めはしない。しかし医者の許可を得るまでは大人しくすること、それが条件だ。もしできなかったら……わかるな?」


「わ、わかりました、大人しくしています!」


『なぁ、おまえあのヒトに何されているんだ?』


何気なく聞いてみたものの、体感屋は黙ったままであった。


『何で黙ってるんだよ?』


その問いにぽつりと一言、


『……世の中知らない方が幸せなことって……あるんですよね』


『よく解らないが……すまない』


『いえ、いいんです』


体感屋の背中からはなぜか哀愁が漂っていた。


「で、中身を観るのか?」


「は、はい」


いそいそとメモリーカードをスロットへと挿入する。


「ホバックス!」


「ん?」


「ちょっと、いってきます」


「……ああ、いってこい!」


 読み込みが始まったのか体感屋はゆっくりと座り込むと、まるで眠りについたような状態となった。これは俗にSOM(エスオーエム)(Stroll Of Memory=記憶の散歩)と呼ばれるシステムで、保存された記憶をそのままデータとして読むわけではなく、記憶の持ち主とほぼ同じ体験をすることができるものである。ただし、観ている者は一切その記憶に介入することはできない。そもそも記憶の中のもう終わっている出来事なので当たり前なのだが、例えるならば五感までも感じるリアルな映画を観ているようなものである。


 元々は何かしらの理由で身体を失ってしまった、もしくは動けないヒトのために開発された代物なのだが、いつしか犯罪の検証から娯楽に至るまで様々な用途に使用されるようになった。実に便利なシステムではあるのだが、いかんせん全てを体験するため、見終える時間が普通に見るよりも約三倍程度の時間がかかることやプログラムの容量が重い点、そして何よりも“体感する”ということは五感をそちらに回さなくてはならないために半分眠ったような状態になってしまう。そのためこのシステムを自らにインストールするということは一般的には敬遠されていた。


 しかし己が体験した事柄、取材内容、時には他人の記憶を独自に咀嚼編集し、講読者に体験させながら伝えることを生業とした体感記者にとっては、必須なシステムであった。


「ホバックス君、すまないがこの子を病室まで運んではもらえないだろうか? 僕ではこの子はちと大きすぎる」


たしかに、編集長の体格では今の体感屋を支えるのが精一杯であろう。


「わかりました。やれやれ、結局はこうなるのか」


 そう言いながら体感屋を背負う。背中に自分とはまったく違う柔らかい感触が伝わり、体感屋と自分はまったく違うタイプのボディなんだなということを改めて感じた。そういえば初めて背負った時はこんなことは思わなかったな……やはりそのような余裕が無かった為だろうか。


「ではそろそろ行きましょうか」


「うむ、よろしく頼みます」


屋上を後にし、ゆっくりと三人は病室へと向かった。









九日目

 昨日は実に大変であった。それにしてもなんという痛みだろう、修理したての身体には実に酷である。でも不思議だ、なんと幸せな気分なのだろうか。この気持ちが誰かしらに伝えたいがどうしたらいいだろう?それにしても……


「おい、な~にセコセコ書いてるんだよ?」


「わぁ!見ないでくださいよ~。プライバシーの侵害ですよ?」


「今さら別にいいじゃないか、減るもんじゃあるまいし」


「全く、相変わらずデリカシーのない奴ですねぇ。嫌がってるじゃありませんか」


「うるせぇ!コレがオレ流の、その……そう、“すきんしっぷ”ってやつだ!」


「……」


「………」


「……コミュニケーション」


「確かに、ププッ、これはコミュニケーションですわね。触れてはいないですし」


「なんでよりにもよっていつも無口なオマエが突っ込むんだよ!」


「……」


「……くそ!また黙りか。まぁ、今に始まった事じゃないけどさ。で、話は変わるけどよおまえ、そう今セコセコ何か書いていたおまえだよ」


「わ、私ですか?」


「そうだよ、他に誰がいるんだ?おまえ、名前はあるのか?」


「え、えぇと、一応ありますけど……」


「だったら今からその名前は忘れろ」


「ど、どうしてですか!?」


「めんどくせぇなぁ、ココではそういう事になってるんだよ!」


「じゃ、じゃあなんと名乗れば……製造番号でしょうか?」


「そいつはもうすでに決まっている」


「今日からあなたの名前は……エイミ」


「よろしくね、エイミちゃん」


「エイミ……」


今日、私に新しい名前がついた。私は、エイミ。



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