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3話 「純度1200%の愛」

あたりは濁った桃色の邪気に包まれていた。

発生源は言うまでもなく目の前の幼馴染。未だにヨウの口からは絶えず愛のメッセージが垂れ流れている。

「はぁはぁテルが触ってくれた、愛おしいなぁ感動的だなぁ」

純愛度1200%の愛情だった。愛が詰まりに詰まってダイヤモンド並みの硬度になっていた。

この状況の抜け出し方がよくわからない。

前みたいに服を差し出すと悪化していまいそうでとても恐ろしい。

しかし、このままでいるのはもっと不味い。

ヨウの口から出た愛はヨウ自身の耳から入り幸福を生み、さらなる愛を生み出す。

いわゆるところの永久装置と化したヨウは自身の中に無数の愛の成分を作り出し、自身の中に取り込めなかったものは妖気としてあたりに振りまかれている。

このまま放っておくとヨウはメルトダウンを起こし暴走が始まってもおかしくない。

「ヨウ、アレやってみないか?」

切羽詰まった僕は指差した先に何があるのかも確かめずに話しかけていた。

ヨウの動きが一瞬止まる。

「あ、あれ?私はいいけど、テルは」

なぜか戸惑っていた。それでも瘴気の噴出は止まったため良しとしよう。

「大丈夫大丈夫、行くよ」

そう言って振り向いた時僕は自分の愚かさを呪った。

指をさした先に構えていたのは豪華な装飾に彩られた船の形をしたゲームだった。

しかし、その装飾とは裏腹に船の頭の部分には海賊帽をかぶった骸骨が目を光らせている。

そして何よりも搭乗口には爛れた文字で『最恐!ホラーシップ〜不死王を目指しデッドラインへと進む者たち〜』と書かれていた。副題のようなものの意味は理科不能だが今はそれどころじゃない。

「テル、オバケとかガイコツとかそういうのだめじゃなかったけ?それでも私を誘ってくれるなんて嬉しい、行こう」

退路は既に断たれていた。

断言しよう僕は心霊系のものに関わると間違いなく撃沈する。

過去に心霊番組を耐性をつけようと見たときは開始三分で意識が飛んでいたらしい。僕にはその三分間の記憶すらなかったが。

あれは人間が踏み入ってはいけない領域だ。なぜヨウはこんなに楽しそうなのだろう。

いやしかし相手はゲームセンターの機械、いくら性能が上がっているにしても所詮は底が知れている。

「あーなんかこれ3Dで幽霊が飛び出るらしいよー」

立体映写機能は昔からあったしな、クオリティは上昇しているらしいが。

「へー『警告:リアルな血が吹き出ます、心臓の弱い方はご遠慮ください』だって。テル本当に大丈夫?」

「ダイジョウブ、ダイジョウブ」

「そっかー『背後から擦り寄るような恐怖ボイス』『船全体が揺れる恐怖演出』『業界最恐の問題作』とか色々書いてるねー」

大丈夫じゃなかった。今すぐにでも逃げ出したい。しかしそれはもうできないようだ。

僕はヨウに手を引かれ既に乗船してしまっていた。

完全な個室となったこの空間にはありとあらゆる心霊現象が詰まっていた。

不気味な光を放ちこちらに近づく不定形の白い物体、耳元で囁かれるうめき声、常に不安な振動をする座席。

もう気絶しそうだった。

それでも意識を保てたのは横にヨウがいたからだろう。

「おおー」

ヨウはきっと初めて見る光景に驚き瞳を輝かせていた。

この難関を乗り切ればヨウは常に今と同じ目をしてくれると信じてお金を機械に入れる。

お金が投入されるや否やで響く絶叫。船の中は一層暗くなる。ただ目の前に設置された派手な銃だけが怪しく光っていた。

このゲームのシステムは至って単純。オバケを撃ち浄化させる、それだけだ。

OKOK。私は霊媒師、私は霊媒師。向かってくる超常現象を無に帰す。感情は無い。無に還れ。感傷は捨てた。

心の中で洗脳するように唱える。

「よしっ」

恐怖を殺して目を開く、数センチの距離にゾンビがいた。

「あ”あ”あぁぁぁああああ!」

引き金を何度も引く。瞬時にゾンビは肉塊へと変わった。変わった先もグロテスクではあったが。

「いやーリアルだねー目の前まで飛び出してくるし」

ヨウは笑顔で向かってくる化け物を撃ち殺していた。

その目に闇は感じられなかったが光も見えない。ここが暗いからだな、うん、そういうことにしよう。

ヨウは昔からそうだった。

何事にも全身全霊で楽しむタイプでその集中力には一種の狂気すら感じることができた。

ん?狂気?

「テル!危ない!」

その呼びかけで僕は現実世界を直視し、そこに広がる光景に声を張り上げながら引き金を引き続けた。


一体どれほどの時間が経っただろうか。

気がつけば目の前に王冠を頭に乗せてサーベルを構えたガイコツがいた。ラスボスというやつだろうか。

道中のことはよく覚えていない。途中からは感情を全て殺し、向かってくる対象に引き金を引くロボットと化していた。

それでもここまで来れたのはヨウのおかげだろう。

ステージが終わるごとに表示されるスコアは僕の十倍以上の点数を叩き出していた。

その集中力は凄まじく、途中からは声すらあげることなく敵を駆逐していた。

『ギャァァァアアア!』

ガイコツが断末魔をあげて倒れた。画面にはエンドロールが流れ始める。

「やったー」

ヨウは両手を上にあげて喜んでいた。

確かにこの系統のゲームでワンプレイでここまでの時間を遊べるのは問題作なのではない、か……ん……不意に意識が朦朧としてきた。

緊張からの解放で溜まっていた苦痛が一気に降りかかったのだろうか。

そう思うと同時に僕の意識は飛び、体は重力に逆らうのをやめた。

「っん、ん⁉︎」

きっと意識を失っていたのは数秒の出来事だったのだろう。

僕は目を覚ます。

ヨウに膝枕をされるかのように寄りかかった状態で。

体を離そうとするが精神的疲労からか動かない。

顔はヨウに太ももに密着した状態であるためヨウの表情はうかがい知ることができない。

再び先ほどのように淀んだピンクの表れを危惧するが体は言うことを聞いてくれなかった。

グラっと不意に揺れる体。ゲーム機の不安定な振動で僕の体はヨウの足の上から転げ落ちたのだ。

そう気づいた時には僕は地面に叩きつけられ痛みが全身を走っていた。冷たい床に体を接しながらヨウの表情を伺おうと視線をあげる。

しかしそこにヨウの姿はなく、足元からは扉の閉まる音がした。

一体どうしたのだろうか。無理やり体に力を込め立ち上がり、ヨウを追いかける。

ヨウはエスカレーターをに乗って下へ行こうとしていた。

「ヨウ」

呼びかけるも反応は無い。早足でエスカレーターを降りるヨウ。

「気を失って悪かった、それとも倒れた時に当たって痛かったのか。とにかく気分を害したなら謝る。ごめん」

追い討ちのように呼びかける。一階についたヨウは動きを止めてゆっくりと振り返って言った。

「い、いきなり、膝枕は、ダメ……もうちょっと、してから……こっ心の準備が……」

頬を赤く染めたヨウはそう言うと振り返り、出口の方へと歩いて行った。

可愛かった。死ぬほど可愛かった。それはもう女神と見間違えるほど可愛かった。

闇を一切含まない純愛だけで構成された照れ顔をしたヨウの姿は記憶に深く刻まれた。

僕はあまりの可憐さにその場を動くことができず、ただひたすらにヨウの居た場所を眺め続ける。

ヤンデレモードの先、ヨウの理解を超えた先に見えた楽園を目指し明日からも頑張っていこう。

そう意気込むと同じくして動けない僕をせたエスカレーターは終わりを迎え、当たり前のように頭から地面に叩きつけられ意識は失われた。

失われるその瞬間まで僕の瞳はヨウの幻影を捉え続けていた。





「っくぅー!なんで叩いてるのに反応しないのよこのポンコツ!」

「うーんタイミングが全然合ってないからだと思うよ、オーガ」

「オーガ言うなぁ!」

『ノルマクリアしっぱーい|フルコンボだドン』

「ああああああ!」

「あはははっ」

対照的な評価を下す太鼓の前でケンタ達はイチャイチャしていた。

すぐ後ろで友人が気を失っていることには1ミリも気がついていない様子である。

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