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●第1章 瑠璃色の乙女  ~8話 フェインと乙女たち③

 話もまとまり、いざ苦しむククルフィールの元に戻ろうとして、ひとつ問題があった。


 それは移動方法である。


『瑠璃色の乙女』の3人は特段に問題はない。問題があるのは満身創痍のフェインで、走ることはおろか、まともに歩くこともままならないのである。


 武器や盾もなく、鎧もすでに防具としての役割を果たすには酷い有様なので、既に破棄した。


 更にはアイテムバックは紛失、その他の荷物もマルルの木の根元に置いたままであった。


 当然ポーション等の回復薬などフェインは持っていないし、3日間の地下遺跡探索で『瑠璃色の乙女』も意識を失ったフェインを現状まで回復するのに全て使用済。

 

 時間は無いが、闇雲に森に足を向けた所で、どれだけの時間がかかるかわからない。


(さて、どのようにして移動するか。ソリのようなモノをつくって引っ張ってもらうか?)


 180センチを超える長身で体格の良いフェインを『瑠璃色の乙女』の誰かが背負うのは難しいであろう。


「ん。これ」


 考えながらフェインは、モモから手渡された大きなリュックを背負う。


(森を一直線に抜けて街道まで出ればあとは道なりに進むめばいいが……時間との勝負だな)


「こちらをお願いしますわ。ちょっと屈んでくださらない?」


 エリメラが3人分のマジックバックをフェインに掛けていく。


 集中して思案するフェインはされるがままである。


(直進はいいが曲がったり咄嗟の反応に難はありそうだが。そうだ担架の方がいいか?)


「すまないが、急いで丈夫な布と2本棒を――――」


「さあ、フェイン殿出発致しますぞ!!」


 言葉を遮られたフェインは、後ろから聞こえてきたシルファの声に振り向いた。





 視線のその先、そこには騎馬があった。



 


 この世界には『馬』と似た動物は存在しない。最初はフェインも驚いた。


 代わりに、人が移動したり荷車などを運ぶ時に使用される動物が3種類存在している。



 最もポピュラーなのが巨大化したヒヨコのような姿の飛べない鳥『トト』。



 重たい荷を運ぶ際に重宝されるバッファローそっくりな『グリュー』。



 最後にスピードや瞬発力に定評のある、後ろ足の長いスリムなサイが2足歩行している姿の『ポポタン』




 しかしフェインの目の前にはそのどれでもない移動手段が存在しているのだ。



 先頭のシルファの肩に右後方のモモが左手を左後方のエリメラが右手を置いて、それぞれ逆の手は先頭のシルファの手と結ばれている。


 それはまぎれもなく騎馬であった。


 騎馬戦の騎馬ではあるが。





「驚くなかれ! 我ら瑠璃色の乙女が考案した、高速移送術!!」



「ささ。おにーさん。真ん中に座って」


「足はここに掛けてくださいませ。急ぎますわよ」



「「さあ、早く!!!」」



 声を揃えて急かす『瑠璃色の乙女』にフェインは少し遠い目をして騎乗した。


 当然靴は脱いだ。









 空には数えきれない星々。


 青く輝く月の光が木々の隙間から零れ、静かに眠る草花を照らす。


 しん、と虫たちが鳴くのを止める。


 切り裂く影はまるで彗星の様。


 乱立する木々の隙間を駆け抜け、倒木や茂みを飛び越える。


 動物たちは息を潜ませた。


 6つの足は一つの意思を持った獣。


 恐れを知らぬ狼のごとき魔獣は身を低くして飛びかかるが、爪は掠ることすらできずに空を切る。


 圧倒的な速さで、迅さで、捷さで、黒や金や薄紅色がゆらり、さらり、ふらりと闇と光の中でなびく。


駆ける。駆ける。駆ける。跳躍する。駆ける!



「あがががががががががががががががががががががががががががが」


(し、死ぬ~!)


 フェインは必死に小さな肩にしがみつく。


 舌を少し噛んで口の中が鉄臭い。時折木の枝が顔や体を打ち付ける。それにリュックやマジックバックのひもが擦れて痛い。


 股関節が引き裂けそうであった。


 上下に揺れる。


 左右に引っ張られる。


 あっちとこっちの祖父母が川の向こうで手招きしていではないか。


「あがががががががががががががががががががががががががががが」





 流れる景色が不意にかわった。


 森を抜けて街道に出たのだ。


 更に加速する『瑠璃色の乙女』高速移送術。


 すでに半分気を失っているフェインの口元からキラキラ輝く彗星の尾の如き輝きが月に煌めいていた。



 見える星々の数も減り、青き月も薄らいでいく中で前方に巨大な影が見えてくるのであった。




『バルバリア城塞都市』


 王都の盾とも言われる巨大な城壁に囲まれた王国内でも有数の巨大都市である。


 ものすごい速さで近づいてくる『瑠璃色の乙女』に気が付いた門を守護する兵士たちが近づいてくるが、


「A級冒険者パーティー瑠璃色の乙女だ。緊急事態で人命がかかっている」と彼らにシルファは告げる。


(間に合ってくれ。ククルフィール)


「な、なるほど。確かに了解した。門を開ける!! 急ぎ治療院に向かわれよ」


 と瑠璃色の乙女の容姿を知っていた髭を蓄えた兵士の一人が告げる。




 兵士たちの痛々しそうな視線の先にはぐったりとしたフェインの姿があった。


(成程、確かに人命が掛かっている。何と無残な姿に。彼は助かるのだろうか?)


 と勘違いを残しながら瑠璃色の乙女は駆けて行った。


 そのまま、フェインと『瑠璃色の乙女』治療院に向かうことは無く、ククルフィールのいる宿屋に向かう。驚く宿屋のおかみを横目に4人は部屋に飛び込んだ。


 頬近くまで赤黒い血管に侵されたククルフィールが荒い呼吸を繰り返しながらベッドに横になっていた。


「まずい。もうこんなところまで!! 時間がない」


 フェインはシルファ、モモ、エリメラに指示を出す。


「3人はこの部屋から灯りの魔道具を含む全ての魔道具や魔石を撤去してくれ」


「「はい」」


「あと普通のろうそくかランタンを借りてきてくれ」


「「はい!」」


「それと彼女、ククルフィールさんの服を全部脱がしておくように!!」


「「はい!!・・・はい?」」


「俺も準備する!!あっちで服を脱いでくるから、お前たちは準備が終わったら部屋から出てるように!!!」


「「……………………」」


 6つの瞳がジト目に変わった。





















少しずつですが物語が動いていきます。


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