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●第1章 瑠璃色の乙女  ~6話 フェインと乙女たち①

人を言葉で表現するのはとても難しいです・・・。



 ゆるりと意識が覚醒していくのを重い瞼の向こうで感じる。


 話し声、焚火の爆ぜる音、揺らめく光。


 フェインは焦点の合わない瞳で夜空に瞬く星達を見つめた後、ギシギシと痛む身体をどうにか起こした。



「気がついただろうか」


 焚火のあかりを背に女性の声で黒い影が話しかけてきた。


「わたしはA級冒険者『瑠璃色の乙女』のリーダーで名はシルファという」


 近づく女性の姿がはっきりするとフェインは息をのんだ。



 夜の闇よりも深く艶やかに黒い腰まで伸びた髪と形の良い眉に僅かにかかる、切り揃えられた前髪。大きく意思の強そうな凛とした瞳に小さく整った鼻と口はまるで穢れを知らぬ花のように可憐であった。


 ただフェインを驚かせたのはその美しさだけではない。



 横になり体を起こしたフェインと横に立つシルファの視線の高さにそれ程差がないのだ。


 言ってしまうと、小さかった。


 背が。


 パッと見11~12歳位の子供と呼べる女の子であった。



(この子が……A級冒険者のリーダー? …………なるほどね)



 姿は幼いが、その佇まいや内に秘めたる覇気はなるほどA級冒険者といったところである。見た目と実力が比例しないことをフェインは嫌というほど知っていた。


「俺は、B級冒険者のフェインだ。このたびは危ないところを助けて、ゴホゴッホ!!」


「よい。無理はせぬことだ」



 年齢に似つかわしく無い固堅苦しい話し方をしながらシルファはフェインの背をさする。


 小さい手だ。



「ん……。お水」


 同じく小さな手がフェインに差し出された。


 そこには水筒が握られている。


 水筒を差し出した人物にフェインは目を向けた。


 凄かった。


 魔法衣に身をくるんだシルファより少し年上の少女で14~15歳といったところ。


 薄紅色の緩やかに大きくウエーブのかかったフワリとはずむ髪に獣人の特徴でもあるかわいらしくピコピコと動く耳。どこか気だるげでポーとした表情に垂れ気味の大きな瞳と涙ぼくろが年齢とアンバランスな印象を与える。


 そして凄かった。


 全身をマントのように包む魔法衣を内から押し上がげる存在感たっぷりの二つの双丘は尋常ではない。



 けれども腐っても経験も豊富で立派な大人であるB級冒険者のフェイン。


 まじまじと婦女子の胸を見ることなどしない。舐めるな!


 相手に気づかれないようにきちんとチラ見できるのは元の世界から持っているチート級のスキルであった。


 水筒を受け取ったフェインは礼を言い名を告げた。


「ん。わたしはモルトリア・ポラムントリアム・モリララモンモ」


「モルトリア・ポラムントリアム・モリララモンモさんですね」


 モモは驚いたように目を見開くと、少し考えて「モモでいい」とつぶやいた。


「貴方、すごいですわね。モモの名を一度で覚えるなんて」


 次に話しかけてきたのはモモと同じ年の頃の少女で3人の中では一番背が高いが、それでも年相応といったところである。


「初めまして。わたくし、エリメラと申します。以後お見知りおきを」


 フェインは固まってしまった。



 それはなぜか。


 エリメラと名乗る少女。


 夜の闇夜も関係ないとばかりに輝く金の髪を両肩に僅かにかかる長さに、左右で纏めている。


 左右対称にしか見えない切れ長の瞳に無駄なものなぞ何もないといった、まるで精巧な人形化と疑ってしまうような程愛らしい少女。


 しかし、フェインが固まったのはそこではない。


 角だ。


 左右で髪をまとめている根元から渦を巻くように角が2本生えているのだ。



「ま、魔族?」


 フェインはつい口に出してしまう。


 小さな手を口元に添えて、エリメラは形の良い口を広げて笑みを浮かべる。


 僅かに口の隙間からは小さな牙が見えた。



 フェインはゴクリと唾をのみこむ。


「ええ……私は魔族。『魔素に愛されし一族』ですわ」



 魔族。


 それは『魔素に愛されし一族」。


 礼節を重んじ、忠節にに厚く、正義を貫くといわれる伝説の一族なのである。


 固まりながらもキラキラと目を輝かせるフェインは、30年目で初めて魔族と話をしたのであった。




 一通り自己紹介を済ませた所でフェインのお腹がなってしまい、難しい話の前にまずは食事にすることになった。


「すまんな。食事までご馳走になってしまって」


 いつの間にかマジックバックを紛失ししまったフェインは『瑠璃色の乙女』から食事を分けてもらうことになった。


 ちなみに分けてもらったのは、きつね色をしたブロック状の食べ物だ。


 フェインはカロリーメ〇トみたいだな。と思いなが一口かじる。


 最初は濃厚なバターの風味と蜂蜜の甘さがあり、しばらくすると花のすっきりとした香りが僅かに口の中にひろがった。


『瑠璃色の乙女』のメンバーもパクパクと同じものを2本、3本と食べている。


「ん。おかわり?」

 

3人が食べている様子を見ていたのをお代わりが欲しいと勘違いされたのか、モモがフェインに1本差し出した。


「どうも」と言って受け取る間も、すごい勢いで3人は食事を行っていた。



 食事のあとはお腹いっぱいになったのか『瑠璃色の乙女』の面々はしばらくのあいだボーとして過ごす。


 どれくらい時間が経ったであろうか。


 気が付くとシルファが少しばかりトロンと眠そうな目で問いかけてきた。


「して、フェイン殿。貴殿はなぜこのガンダール地下遺跡へ?」


「ここは、ガンダール遺跡なんですか?」


 フェインは自分がここに来た経緯を話すと、どこか『瑠璃色の乙女』のメンバーは落胆した表情を浮かべた。


 フェインがガンダール地下遺跡に探索に来ていた冒険者なら『マグザ魔草』を知っているかと思ったのだ。


「フェインさんは、マグザ魔草についてしりませんこと?」


 それでもダメ元でエリメラは聞いてみた。


「あ~。マグザ魔草ですか」


 何か知っていそうなフェインの反応に3人は身を乗り出す。


 期待に胸が膨らみ、心の中に希望の光が僅かに差し込む。



「知ってるもなにも、マグザ魔草なんて存在しませんよ。作り話、デマです」


 しぼんで光は消え去った。

読んで下さったあなたに感謝を!!!

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