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●第1章 瑠璃色の乙女  ~4話 魔素

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 猪の胴体に蜘蛛のような足を持つ魔獣の突撃を、体の殆どを隠せる長方盾で弾く。


 顔中にびっしりと角が生えたその魔獣は、弾かれた衝撃により幾本かの角の欠片と血と体液をまき散らす。


 フェインによってコントロールされた盾の角度、弾くタイミングと完璧な力加減。6本の足は地面から離れ、無防備な姿を晒す。


 フェインは無駄の無い動きで、空中で行動不能な状態の魔獣にショートソードを突き刺すと直ぐに抜いて、盾で殴り飛ばした。


 魔獣は地面に叩きつけられ、2度、3度バウンドすると、僅かに土を削りながら止まる。


 黒い血液が地面に広っていく。


 フェインは横目に動かなくなった魔獣を見ながらもすぐに構えを解くことはない。注意深く周囲を警戒し、他に脅威となるものが存在しないか確認する為である。敵を倒した瞬間の隙を突かれるといったことは少なくないのだ。


 目視できる範囲、死角となる場所、音や気配。


「ふう~」


 そして魔獣が音もなく黒い霧となり消滅するのを確認してようやく構えを解いた。


 フェインは先ほどまで魔獣がいた場所に近づくと地面には魔石とドロップアイテムである牙が落ちていた。





『魔素』



 人間を含め、全ての生物がこの世界で生きていく為に必要な物質である。あらゆる場所に『魔素』は満ちており、呼吸することで体内を循環していく。


 血液によって体内を巡り、細胞が吸収することで『魔素』は活性化し、その結果として身体が強化されるのである。


 そのため、生き物は元の体を鍛えることで、相乗して強くなることができるのだ。


 また、『魔素』を無意識ではなく、意識して活用する術が『魔法』となる。




 しかし、有用な『魔素』ではあるが、生物によって循環することなく停滞し澱むことで、生物に有害な『瘴気』へと変質し、その結果『瘴気』に侵された生物は、総じて『魔獣』となってしまう。


 更に細胞は『瘴気』に汚染されることで、元の身体とは異なる変化を遂げるのだ。




 先ほどフェインが倒した魔獣も元は蜘蛛のような足や顔中に角などない猪そっくりの普通の獣であった。しかし瘴気に汚染され、細胞は変質し、瘴気を生み出す『魔核』が体内に生成されることで、凶暴性は増し歪でけれども強靭な肉体へと作りかわる。


 そうして瘴気を纏い周囲を汚染し、生物を脅かす『魔獣』が誕生するのである。





 フェインは魔石とドロップアイテムを拾うとマジックバックにしまった。




 魔獣の生命活動が停止すると、体内の『魔核』は瘴気を生成できない。瘴気によって汚染された細胞はその姿を維持できず空気中の魔素の中に霧散し、後には瘴気の抜けた魔核である『魔石』と瘴気によって強化された角や牙、皮や鱗といったドロップアイテムが残る。




 生物の敵でありながらも、冒険者にとっては収入源の主となる魔石とドロップアイテム、そして討伐の報奨金を得られる魔獣は切っても切れない関係なのだ。








 太陽がちょうど真上に昇ったころ。


 湿った匂いを含む風が草原を駆け抜け、草花が揺れる。


 幾たびかの魔獣との戦闘を危なげなく勝利し、フェインは目的の場所にたどり着いた。


「こりゃあ、ひどいな」


 セラリル交易都市の東に広がる草原。


 そしてその草原の奥、山に接する場所にひっそりと佇むのが、セラリル古代遺跡である。


 古代遺跡と言っても、道もなければ、街から離れると魔獣も出現するため、必要がなければ立ち寄るものなど居らず、すでに探索が済ませれ、めぼしいものは何もない、ただの廃墟である。


 そんな廃墟がさらに酷いことになっている。見事に遺跡の殆どが土砂に埋もれていたのだ。


 マルル石やその他の作物にも影響を及ぼした長雨のせいで山崩れが起き、遺跡を吞み込んでいる。


「おいおい、ここにきて採取できないとか勘弁しろよ」


 周囲の警戒を怠ることなく、速足でフェインは目的の場所に向かった。



「よし、よし。ここは無事だったか」


 一人ごちるフェインの前には、野生のマルルの木々。


 昔調査のため、駆り出された『紅鉄の戦牙』時代、偶然にマルルの木が群生しているのを発見したのだ。


 近づきマルルの木に生っているマルル石を見ると、小ぶりで色は薄いが問題ない。フェインはマジックバック以外の荷物を木の根元に置いてマルル石を収穫していくのであった。






「なんだ?」


 何本目かのマルルの木にて収穫を行っていたところフェインは違和感に気が付いた。


 フェインはすぐに剣と盾を構える。周囲に魔獣の気配は無い。いったいなんだ?


 しかし、違和感の正体を知る前に、何かが崩れる重たい音と身体が浮く浮遊感がフェインを呑み込んだ。


 足元にはぽっかりと空いた大穴。


 古代遺跡の調査で見逃された地下空間がそこにはあった。そしてタイミング悪く、長い時によって劣化した遺跡と長雨と土砂の重みによって崩落したのである。




「ふざけんな!!」


 フェインは落下しながらもショートソードを斜面に突き立てる。


 激しい衝撃と共に肩に痛みが走るが、かまってなどいられるか!!


 がりがりとショートソードは穴のほぼ垂直の斜面を削るが落下する勢いは止まらない。


 

 下を見ると底の見えない闇が広がっていた。このまま落ちれば待ち受けるはぺしゃんこの転落死である。


 

 絶体絶命のピンチの中、穴の奥に何かを見た気がした。


 肩が外れそうな衝撃をこらえて、風圧に構わず、フェインは冷静に『何か』を確認する。


 青白い何か。


 凄い勢いで近づいていく。



青白い――――



青白い文様――――――――



――――――――――――青白く光る魔法陣。




 昔、村のハーフエルフの村長に見せてもらった本に書かれたモノに似ていると瞬時に思い出すと同時にフェインは風の魔法で自分にシールドを張る。


(た……たのむ!!! 俺の記憶よ合っててくれ)


 それは咄嗟の判断だった。斜面に足を掛け、剣を引き抜くと同時に、蹴る。


 青く光る魔法陣に向かって体を空中に躍らせる。


 はげしい風圧と共にものすごい速さで近づく青白い魔法陣の書かれた地面。


 無駄だと分かりながらも頭を腕で庇い、衝撃に備える。


 地面とフェインが重なり合う。


 ほんの僅かに重なったその瞬間。


 真っ赤な肉塊になることなく、フェインは青い光に包まれて消えたのだった。







 そっと目を開ける。


 フェインは小さな部屋にいた。


 足元には赤い光を放つ魔法陣があり周囲には魔法陣を維持するのに必要となるのであろう見たことの無い道具達がある。


「た……助かった。…………ファビイル村長ありがとう」


 この世界にある魔法陣は緑色の光を放つが、古代の人々が使用した転移の魔法陣は青い色を放ち、触れると別の赤い色を放つ魔法陣に飛ばされると、子供の頃に本を読んでもっらたことがあったのだ。



 フェインは痛む肩の様子を確認してポーションで回復して休憩をとる。


 致命的な怪我もなく、九死に一生を得たフェイン。


 落ち着いたところで上に向かう階段を登る。助かった、あー助かったとほっとした表情。







 けれども、のぼったその先で、絶体絶命のピンチを再び迎え、更には加賀真司ことB級冒険者フェインの人生を左右する大きな出会いがあることなぞ、今は知る由もなかった。





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