表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/29

●第1章 瑠璃色の乙女  ~3話 緑の旋風

 『緑の旋風』のメンバー3人は立ち上がり「兄貴、うっス!!」と右腕を背中に回し、つむじが見えるまで頭を下げた。


 この世界での、目上の人物に対する庶民向けの簡単な挨拶である。


「こちらにどうぞ」と緑の旋風のメンバーの一人が、他の空いた席から持ってきた椅子を持ってきたので、フェインは礼を言いながら座った。


「いえ!」と元気よく返事をする、緑の旋風のメンバーはどことなく嬉しそうである。


「「昨日はありがとうございました!!」」


 フェインが席につくと『緑の旋風』のリーダーは頭を下げながら礼を言うと、他のメンバーも口を揃える。


 体育会系のお手本のような見事な挨拶であった。





 D級冒険者パーティーである『緑の旋風』は中々C級に昇格することができずに不満が溜まっていた。


 まだ若い彼らであるがこれまで問題なくD級までは問題なく昇格できており、自分達の戦闘の腕には多少なりとも自信があったし、自分たちではC級への昇格の基準もクリアしていると考えていたのだ。


 しかし冒険者ギルド側からは『まだ早い』と昇格試験を受けることすら拒否され、彼らの不満という水は、小さなプライドの器から零れ落ちる寸前だったのである。


 実際のところは、依頼の達成数は基準をクリアしていたが、失敗数も多いため、達成率は低く、危険度も跳ね上がってくる魔獣の討伐依頼も多いC級への昇格をギルド長のガルドが心配して止めていたのだ。




 そんな心配をされていると知らない『緑の旋風』のメンバーは酒に酔った勢いとあふれた不満によって酒場で少しばかりおちゃめをし過ぎてしまったのである。と言っても酒場の可愛い女の子とちょっとお近づきになりたいという、何とも若者らしい理由であったのだが。


 けれど、そういった客に慣れたニモカに軽くあしらわれ、つい「俺たちは、冒険者ギルドの緑のせんぷ」と言ったところで、フェインに酒場からつまみ出され、「なんだおっさん」とけんか腰になって殴りかかるが、更にフェインにも軽くあしらわれ、その後、「冒険者ギルドの名前とパーティー名を簡単に使うな」「永久追放になるぞ」と説教されたのである。


  

 更には、不満に思っていることを言葉巧みに言わされ、何も否定されずにそれどころか自分たちを肯定してくれてた上で、親身になって励ましてくれ、優しくも厳しいアドバイスをもらい、いつの間にか泣かされていたのだ。


 うれし涙で。



 元の世界では、そこそこ大きな会社で、海千山千の顧客を相手にしながら『ゆとり』という価値観の違う世代の部下を、まとめ上げてきたフェインからしてみたら何と異世界の人間は純真で素直なことか。


 結果、フェインを「兄貴」と慕う3人の冒険者が誕生したのである。


 男のみだが……。







「……マルル石が手に入らないですよ」


「何だ困りごとか?」と質問したフェインに『緑の旋風』のメンバーでリーダーの若者は困った様子で答えた。



 大気と大地の魔素を吸収すること育つと言われるマルルの木。


 そのマルルの木に茂るのが赤く透明なマルル石である。それは、特殊な力を帯びており、少しの魔力と使い方さえ知っていれば、剣や鎧などを簡単に整備できるという冒険者には必需品のアイテムだ。


 剣や鎧などの装備品は街であれば鍛冶屋で整備可能である。またフェインの鎧に刻まれている魔術紋の効果で自動修復などの能力を付与する方法もある。なにせ戦闘が発生し数日かかるような依頼の場合、消耗した装備品をその場できちんと整備できなけば、確実に戦力は低下してしまい、それはそのまま死にも繋がってしまう。



だが、依頼先の森の中などで鍛冶屋に整備してもらうことはできないし魔術紋は高額である。なのでマルル石を使用して簡易的に整備する方法が一般的である。値段も安い。


「マルル石か~。今年は不作で、全体的に流通量が減っているからな。というか、お前らギルドから事前に通達があったろうが……」


「買うの忘れてました」と答える『緑の旋風』に一瞬、フェインは呆れた顔をするが『紅鉄の戦牙』でも新人の頃には同じような失敗をし、先輩冒険者に説教されたことを思い出して、懐かしくも何とも言えない気持ちになる。


 軽く説教し、フェインはマジックバックからいくつか持っていたマルル石をひとつ取り出すとポイと投げてよこした。


 きちんと必要な道具を余裕を持って不足なく準備しておくのも、冒険者として必須の能力なのだ。


「え、これって……。いいんですか?」


「ちゃんと金払えよ」


「「ありがとうございます!!」」




 フェインは苦笑いしながらあの時の先輩冒険者もこんな気持ちだったんだろうなと思いながら、目の前ではしゃぐ後輩冒険者を、眺めるのであった。







 その後、「王都の料理人が店を出すらしい」「A級冒険者が隣の街に来ている」「能力が上昇するポーションが・・・」「食事処の娘が結婚した」と世間話という情報交換を行った後、『緑の旋風』のメンバーと別れ、再びフェインは依頼の掲示板の前で眺める。


 しばらく、考えた後、依頼用の掲示板に掛けられた木札を外して受付のカウンターに持っていく。


「この任務受けるんで手続きよろしく」


 受付嬢のラファは、笑顔で木札を受け取り確認した。


「依頼ランクCで依頼品はマルル石です~。低品質の野生のマルル石でも大丈夫です。冒険者ギルドで買取りますね」


「おう」と照れたようにそっけなく返事するフェインをラファは優し気な瞳で見つめた。


 ラファの手にした依頼用の木札の最後。


『※新人販売用のため、買取額は格安になります』



 後輩思いのB級冒険者が耳を赤くしてそこには居た。


読んで下さったあなたに感謝を!!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ