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●第3章 冒険者として  ~6話 臭いの沙汰も金次第

後編です!

最大の敵。それは臭い!?


「おかしいですね」


 バルバリア城塞都市の地下下水道。不潔な汚水と空気が澱み、変質した魔素である瘴気が溜まりやすいはずの4か所目のポイントに到着したシスターのベルーナが首を傾げつつ呟いた。


「どうした? 何か問題か?」


「ええ。いつもであれば、この場所に瘴気溜まりが発生しているのですが、その痕跡が見当たらないのでおかしいなと思いまして」


 確かにフェインにも瘴気特有の息苦しい嫌悪感は感じない。


「この場所で合っているんだよな?」


「はい。間違いないはずです」


 薄汚れた地下下水道の行き止まりになっている薄汚れた区画には瘴気が溜まりやすいはずなのだ。


「?? フェイン殿。これは」


「どうした?」


 しゃがみこんでレンガの床を指さしたシルファの元に向かう。


「…………なんだこれ。スライムか何かか?」


 薄いピンク色の半透明のゲル状の物質が、べちゃりと床にへばりついていた。


「こっちにも、ありますわ」


 エリメラも同じような物体Xを見つけた様子。


 スライムの様に核も無く、動かない。


「何かの卵とかか?」


 ゲル状の卵を産む獣や貝なども存在するが、よく分からない。


 「ん! にょわ」


 「わっ! きゃん」


 と今度はモモとククルフィールが変な声を上げて、バタバタとフードの上に天井から落ちてきた物体Xを格闘していた。


 フェインが上を見上げると、ゲル状の物質がところどころへばりついている。


「……取りあえず、次に向かうか」


「はいそうですね」


 ここで調べられることも限られている。6人は次のポイントに足を運んだ。




「…………ここもですか」


 そして、次のポイントに到着したがベルーナの呟きが瘴気が発生していないことを物語っていた。


「ん。しかも、なんかひどくなった」


 先ほどの区画よりも物体Xの量が増えていて、床や壁、天井にこびりついているのだ。


「来る途中にも見かけたしね」


「それに、やけに魔獣の姿も急に見なくなりましたわ」


 確かに。とフェインも同意する。何か嫌な予感がする。難しい顔をするフェインの横でシルファがベルーナに尋ねた。


「ベルーナ殿。瘴気溜まりはあと何か所あるのだろうか?」


「あと1か所ですね」


 取りあえず、一通り確認を行う、物体X以外におかしなことが無いことを確認して最後のポイントに向かうことにした。


「どんどん酷くなっていくね」


 きょろきょろと最後のポイントに向かう途中の通路にも物体Xが落ちており、魔獣も姿をまったく見せなくなっていた。フェイン以外もこの状況に違和感を感じ、空気が張りつめている。


「間もなく、到着します」



 最後の個所は、街の下水が集まる汚水の集積地にあたる場所であり、開けた空間であった。


「ここは……変なぶよぶよはありませんわね」


「ん。見当たらない」


「でも、ここも瘴気がほとん―――――」


「「!!」」


 と一歩足を進めたベルーナの言葉を遮り、フェインはベルーナを抱えてその場を飛びのく。瑠璃色の乙女のメンバーも同時に大きくその場から散開する。


 先ほどまでベルーナがいた場所に巨大な肉の塊が天井からぶら下がっていた。


剥き出しのピンク色の肉の塊の表面には皮で無く、半透明のゲル状の物体Xが覆っている。


「くるぞ!!」


天井に張り付いていたそれは重たい音と共に落下し、フェイン達の前に姿を表した。


どこか甘ったるい肉の腐った匂い。


ピンク色の肉はところどころが剥き出しになり白い骨が見えている。


左右のバランスは歪であり、片側は大きく肥大している。


「ぽ、ポポタン? いえポポタンフルンか?」


「いえ! アレはアンデットです。ポポタンフルンのアンデットです」


 フェインの呟きに腕の中のベルーナが叫ぶ。


「……こいつは」


 生物としての、命の灯が消え去り、、無念・執念・怨念などが瘴気によって偽りの命を得て、無差別に命あるものに敵意を向ける存在。


 腐れ果てて既に片側の半身は崩れ去ったのだろう。なにせ、その片側は継ぎ接ぎだらけで、色が薄かったり濃かったりと様々な肉が寄せ集められている。


「魔獣に合わなかった訳だ」


 そして何より目立つのが、剥き出しの肉の表面を走る蠢く赤黒い血管であった。



「麻薬の実験体か何かの不法投棄ってやつか」



先日フェインと瑠璃色の乙女が潰したマルタリオ商会の野望の残滓、置き土産。それが地下下水道の瘴気を丸ごと吸収し、魔獣達をその身に取り込み


「お前ら、手加減はいらない。普段の武器で対応しろ」


フェインが言うが早いか、シルファとエリメラが飛び出した。



 とん、と軽い踏み込み。空気すら揺るがない程の静かな一歩。しかし次の瞬間にはポポタンフルンアンデットの正面で大太刀を構えるシルファがいた。驚くという思考があるのかは分からないがポポタンフルンアンデットは巨体を仰け反らせ、大きな腕を振るう。半身をずらしながら、回転するように鞘から抜き、ゲル状の物質に包まれた肥大した脚を切り付ける。


(早い!? 見えなかったぞ……だが?)



 バランスを崩しそうになったポポタンフルンアンデットは脚と同じくらいに大きな元の形状が分からくなった触手の様な前足を振り回し、それをエリメラが迎え撃つ。

手には不釣り合いなほど巨大な二振りの戦斧。頭上からはエリメラの数倍の質量はある触手が重力に逆らうことなく、勢いよく振り下ろされ、エリメラは戦 斧を下から救い上げるように、触手を断ち斬った。


「斬ったというより、破砕した感じじゃねえか。……だけど??」



 片足と片腕を無くしたポポタンフルンアンデットはそれでも動きを止めることは無い。痛覚もなく、意思もない、ただ命に引き寄せられる悲しき怨嗟の化身。だが、突然頭上にモモが作り出した幾つもの巨大な氷柱に体を貫かれ、肉を骨を砕かれてはその体を支えることができない。


 「やっぱり、無詠唱かよ。しかも一度にあんな数の氷柱を作り出すとかとんでもねえな。……やっぱり???」



 ポポタンフルンアンデットはべちゃりと音を立てながら、態勢を崩し、それでも這うように地面を擦り移動しようとするが、ククルフィールの巨大な弓から放たれた矢によって右半身を失い、錐揉みながら壁に激突する。


「相変わらずの矢の威力だな。矢で身体が霧散すると意味が分からんぞ!……こいつら!?」



 その後も、ポポタンフルンアンデットを圧倒するA級冒険者瑠璃色の乙女の少女たち。


 盾を構え、ベルーナを守るフェインはその様子を驚いた表情で注視した。



(なんて――)



心の中で叫ぶ。



(なんて、雑な戦い方なんだ!!!)


なぜシルファを敵の真正面で切り結ぼうとした。最初から死角を突けたはず。後方から首を撥ねることもできたのだ。エリメラはなぜ、別段狙って振り回されたわけではないのに、わざわざ触手を向かい打ったのか。普通に避けて、胴を切り離すことも造作なかった。モモは無差別に氷柱を作り過ぎだ。シルファ達も飛んで行って避けていたぞ。一本を脳天にぶち込めれば終わったはずなのだ。ククルフィールは矢に魔素を練り込み過ぎて無駄に威力を上げ過ぎだ。あの半分でも、顔面を破壊することができた。


つまり――


(あー!! なんて無駄な動きが多いんだ!!!)


少女たちであれば1手、もしくは多くても2手で倒せたはずなのだ。だが、見た限りただの力押しである。


(なにより、てんでバラバラに攻撃してやがる。絶対連携とか考えてないぞ)



 フェインはやっと頭蓋に剣を突き立ててポポタンフルンアンデットを倒した少女たちの姿を見ながら、頭のチェック表に今後の課題として記入するのであった。





 




 カルガモの親子の行列ならぬフェインの後ろをついて歩く瑠璃色の乙女の少女たち。


 微笑ましいはずの光景ではあるが、途轍もなく元気がない。


 目に光は無く。皆一様に無表情で俯いている。



 イレギュラーも多かったが依頼も無事達成ということで、ポポタンフルンアンデットの報告をしに冒険者ギルドに向かう瑠璃色の乙女のメンバー。


 夕飯前の賑わう通りだが、道行く人は、えっ! という顔をして鼻を摘まんで、人の波が割れていく。


 冒険者ギルドのドアを開けると、喧騒に包まれていたギルドが水を打ったように静かになる。


 ざっと人が壁際に避けていく。朝に果汁水を奢ってくれた、ベテラン冒険者もである。


 受付では、防護服のような、全身鎧のギルド職員が受付をしてくれた。


 泣きたい。

 

 花も恥じらう乙女たちから乾いた笑いが零れた。



「と言う訳で、これが今回の報酬だな」


 とフェインはいつもと変わらない様子で、少女たちに報酬を手渡していく。


 銀貨1枚に銅貨が数枚。


「とりあえず、これまでの立て替えた宿屋代は引いておいたからな。無利息だぞ!」


「「は、ははははは」」



 では今日は解散。とフェインの声で本日の冒険者家業は終了となった。


「ねえ、エリメラ。私臭う?」


「分からないですわ。私も同じ匂いしてるでしょうし……」


「ん……」


「だれも近寄ってこないね……あれ? フェインさんそれなんですか?」


 ククルフィールが目ざとくギルド併設の道具販売所にいるフェインを見つけた。手には緑色の液体の入った瓶を持っている。


「これか? これは消臭効果のあるポーションだよ」


 少女たちの瞳が輝き、販売所の職員に話しかける。希望が、希望があった。神は見捨ててなどいなかったのだ!


「はい。消臭のポーションですね。銀貨3枚になりまーす」


 神はいなかった。


「はっはっは! お前ら金が―――うわっ!! やめろこれはおれの」


「「ふしゃー!!!!!」」


少女達に飛びかかられる中年冒険者。


鼻をハンカチで押さえる販売所職員。




今日もいちにち無事平和に終わるのであった。


めでたし。めでたし。

布にシュシュっと~!

偉大ですね。


ブクマ・評価。感想お待ちしております。

既に筆者やる気スイッチを押してくださった皆様感謝でございます。



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