●第3章 冒険者として ~2話 初めての営業
一旦解散し、わずかばかりの睡眠と身支度を整えた後、フェインと4人は街の中心である広場に集合する。
長身で体格の良いフェインと4人の見目麗しい少女という組み合わせは、中々に目立つものである。
「じゃあ、これから鍛冶屋街に向かうぞ」
「「はーい」」
フェインを先頭に、元気よく後に続くシルファ、モモ、エリメラ、ククルファールの4人の姿は親鳥について回るひな鳥の様で、どこか微笑ましい。もしくは人攫いか。
5人は通りに面した、一軒の鍛冶屋前に到着する。
特徴のないレンガ造りの建物で、商売っ気の感じられない、簡単な造りの木製の看板には店名と武器と盾の絵が掘られているだけである。
「では、えいぎょうと言うのは指名依頼をしてもらえるようにお願いすることでよいのだな」
「ああ、そうだ。普通は、名前を売りたかったり、指名料目当ての駆け出しの冒険者がするもんなんだがな。あとはお互いに馴染みで信用がある場合だな。相手からしたら指名料分、高い金額を出すわけだし」
「お~」とのんきな声で返事する4人にフェインは話を続ける。
「相手からしたら、指名で依頼を出す分、依頼が放置されて塩漬けになる可能性が減るって利点もある。今回は、営業がどんなもんか覚えるだけでいいからな」
木製の扉を開けて中に入った。
中には数人の客が、飾られている武具を眺めている。人族の若者がカウンターの向こうから「いらしゃいませ~」と声を掛けてきた。
「よお、久しぶりだな」
フェインはカウンターの若者に軽く手を上げた。
「あっ~! フェインさん。お久しぶりです」
「ドーバのおやっさんにちょっと用事があるんだが、大丈夫そうか」
「ちょっと待ってくださいね。……師匠~! ししょお~!!」
しばらくすると奥から「叫ぶな! うっせーぞ」と言いながら一人のドワーフが訝しそうにのっそりと顔をだした。
「なんじゃ? 誰かと思えばフェインじゃねえか。こっちに戻ってきていたんか」
身長こそ小さいが張りつめんばかりの筋肉と自慢の口ひげを揺らしながら、大声で鍛冶屋のドーバがフェインの傍に近づき親し気に話しかけてくる。
いろいろあってなと後ろを振り返りフェインは店の奥に進んだ。
「なるほど。あいつら全員結婚したのか」
しばらくフェインとドーバは近況報告という世間話を行う。この街で活動していた際に贔屓にしていた鍛冶屋である。
「で、今はそのお嬢ちゃんたちのパーティーと一緒に行動してる訳か」
「ああ。まだ、ギルドに登録してないから、正式にメンバーになってる訳じゃあないんだがな」
なにせ今日メンバーの一員に加わったばかりである。
「なんちゅう名前じゃったか・・・・・・A級冒険者パーティーの」
他の客もA級冒険者という言葉に反応して、シルファ達をチラリと見て、会話に耳を澄ませている。
それだけA級冒険者は珍しい。しかもどうやら4人の少女たちがそうだと言うではないか。
「ん・・・るりい」
名乗りを上げようとするモモの言葉をドーバが何かを思い出したのか、大声で遮った。
「そうじゃ! ロリいろの乙女じゃ!!ロリいろ!!」
他の客たちが、汚い物でも見るようにフェインに視線を向けたのだった。
とんでもなく失礼な間違いをしたドーバーと他の客にも聞こえるようにパーティー名を訂正したフェインは、本題を切り出す。
「指名依頼か。ん~。すまんんな。今は特に足りないものはないからな」
「いや、無理に頼むものでもないからな。何かあったらよろしく頼むよ」
「おう、あ、そういえば……魔道具屋のばあさんが、素材依頼を出したが誰も受けてくれないとぼやいていたぞ」
「ソニアさんが?了解。顔を出しておくよ」
「今度酒に付き合えよ」と大声のドーバの声をに軽く手を振り、店から外に出る5人。
「フェイン様、ロリ色、ロリとは一体どういう意味――――」
「知らなくても大丈夫なことだ」と話を打ち切ったフェインは次なる営業先、ソニアの魔道具店に足を運ぶのであった。
路地裏の人通りがほとんどない辺鄙な場所に店を構えるソニアの魔道具店は、本当に商売を生業にしているのか疑問符が付く佇まいをしていた。
蔦の這った煤けた建物に、色あせた看板は辛うじて文字が読める物で、一見店には見えない、下手をすると廃屋ではないかと勘繰りたくなる。
そんな建物に少し引いている『ロリ・・・・・・瑠璃色の乙女』の面々であったが、構わずフェインが入店する。
小さな窓からわずかに日の光が入るだけのひんやりとした薄暗い店内。並ぶ棚には見たこともない不思議で奇怪な形をした魔道具に興味半分、恐怖半分のシルファ達。
「なんじゃあ、客か」
突然人の気配の無い、店内奥の暗がりから、しわがれた声が聞こえてきたため飛び上がるシルファ、モモ、エリメラ、ククルフィール。
そして彼女たちが見たものは、店の奥に佇む一匹の・・・
「「ゴブリン!!!」」
「アホ共!!わたしゃあ、エルフじゃ!!」
しわくちゃの老エルフであった。




