●第2章 悪意と乙女 ~9話 新生・瑠璃色の乙女
2章完結!!!
長いプロローグが終了した、といったところでしょうか。
感想を下さった、0x4e71(ノップ)様、評価やブックマークを付けてくださいました皆さま、何気なく読まれた読者さま、これからもよろしくお願いします。
それでは、2章最終話、楽しんで頂けると幸いです!!
「それじゃあ、一応の事件解決を祝って~、乾杯!!」
「「かんぱ~い!!」」
瑠璃色の乙女たちが泊まっている宿屋の1階。
それ程の広さはない食堂に、華やかな声と木製ジョッキの金具部分を合わせる音が響く。
音頭を取るのはB級冒険者のフェインである。
そして色を添えるのは可憐な花々、シルファ、モモ、エリメラ、ククルフィールといった見目麗しき4人の乙女たち。
目の前には宿屋が自信を持って提供する料理が並び、ランプが暖かな光が皆それぞれの笑顔を照らす。
フェインは陽気に笑っていた。
シルファは真面目な表情をしながらも口元のにやにやが抑えられていない。
モモはいつもより少し口数が多く、耳がピコピコ、尻尾がパタパタと忙しい。
エリメラは口に手を添えて、時折角を触りながら、上品に微笑えんでいる。
ククルフィールは澄ました表情だが目がキラキラと輝いて料理に釘付けだ。
今日まで『瑠璃色の乙女』を苦しめていた悪意という暗雲が、偶然にも出会い助けたフェインによって打ち払われた。
3人はチラリと視線を合わせて頷いた。
ジョッキを傾け、エールを呷るフェインをそっと見た。
1人だけはものすごい勢いで料理を食べている。
― 事件解決のお祝いを行う、少し前 ―
『瑠璃色の乙女』の面々は部屋の中で円になりながら丸椅子に座って会議を行っていた。
「今回の件で、我々瑠璃色の乙女には冒険者として足りない部分があることがはっきりした」
「そうですわね。本当にフェイン様がいらっしゃらなかったら、どうなっていたのでしょう」
「ん……大変。麻薬中毒で悪事に加担。そして芋虫型のおもちゃを使われながら、皆でおかさ――――」
「と言う訳で、以前冗談でエリメラが言っていたことを一度真面目に検討したい」
モモのセリフを遮りリーダーで司会を務める黒髪少女のシルファが話を進める。
「フェイン殿に我々瑠璃色の乙女のメンバーになってもらうことを。だが――――」
シルファ、モモ、エリメラは唯一無言のククルフィールに視線を向ける。
「ん? 何だい?」
不機嫌そうに皆の視線から顔を逸らす。
「いや、実際のところ、ほら、あれだ、ククルは色々見られて、うん、どうだ?」
「何が、『うんどうだ?』よ。別にな、なんとも思ってないよ。当然。治療、治療!」
「そう。命の恩人ですわね」
「ん。人命救助」
「では、フェイン殿に打診してみてもよいのだな」
それでも少し耳を赤くしたククルフィールは小さく頷いた。
時は戻り、宿屋の食堂。
急に挙動不審になった『瑠璃色の乙女』の3人にフェインはエールを追加で注文しながら観察する。
シルファをつつく、モモとエリメラ。
シルファは「わかった。わかったから」と小声で呟いているが、フェインには丸聞こえだ。取りあえず聞こえないふりをする。
「エールお待たせしましたあ~」と宿屋の給仕がエールをフェインの前に置いた。
「おう、ありが……えっ!?」
シルファは「えい」と小さな体と手を伸ばしてフェインのエールを奪うと一口飲んで気合を入れる。
「ちょっと!? 子供が酒飲んだらいかんでしょ!」
慌てるフェインにシルファは当然と言わんばかりに言い返す。
「何を言っているのだ、フェイン殿。他の3人はまだ15才になっていない未成年だが、私は既に成人の議をすましているのだぞ」
ふん! とささやかな、本当にささやかな服の上からは分からない蕾のような胸をそらす。
「そうなのか」
顔色を変えることなくフェインは頷く。
(おい、おい、ウソだろ~。まじか、危なかった。一番年下かと思ってたよ。エルフやハーフエルフじゃないよな。呪いか何かか?)
と心の中では失礼なセルフを並べるが、顔には出さない。
大人なフェインである。
「それでだ、フェイン殿!!」
更にエールを一口。
「我ら瑠璃色の乙女に――」
「乙女に?」
けれどもその先が続く事無く、パタリと机に突っ伏した。
黒くしなやかな髪が机の上に広がる。
しまった、といった表情をするモモとエリメラに急性アルコール中毒か!? と心配するフェイン。
ひとり詰め込んだ食事で頬を膨らませたククルフィール。
「お、おい、大丈夫か?」
「あっ……ダメ、おにーさん」
モモの静止よりも先にフェインがシルファの肩に手を置いてしまった。
「だいじょうぶらよ~」
呂律の怪しい声と共に、シルファが真っ赤な顔をあげた。
(いったい何が、どうなってる)
フェインは身動きが取れずに固まる。
「だかりゃな、わらしは思うんだゃ。…………ねえきいてるのきゃ。にゃあ」
ククルフィールは変わらず料理を頬張り、モモとエリメラは苦笑いを浮かべている。
そして何より、他のお客と給仕の娘さんの視線が痛い。
いつの間にかフェインの膝の上にちょこんと腰を掛けている少女。
A級冒険者『瑠璃色の乙女』リーダーのシルファ。
普段は堅苦しい言葉を使う、その少女もとい成人女性。
けれども今は舌足らずな言葉と真っ赤な顔で、ゴロゴロとフェインの胸に頬を寄せたり、太ももをサワサワ撫でたり、脇腹を軽くぐりぐり指で押したりと忙しい。
とんでもない力と素早い動きで、振りほどこうにもフェインには振りほどけない。困ったようで困っていないがやはり困る。
「あの、モモさん、エリメラさん」
困り果てたフェインは2人に声を掛けるが、帰ってきたのは欲しい言葉ではなかった。
「シル……酒乱」
「普段は飲まないように注意しているのですが、こうなると寝付くまでむりですわ」
絶望の表情で天を仰ぐフェイン。
フェインの太ももに膝立ちになり「にゃはは」と笑いながら耳をカプリと噛むシルファ。
それを見て更に笑うモモとエリメラ。
再び食事を喉に詰まらせてむせるククルフィール。
「ちょっと、お客様。ここは食事をするところでして――――」
冷たい声で近づく給仕。
食堂は混沌の様相を見せていた。
小さくて暖かく軟らかい何かがもぞもぞと動く。
フェインは重たい瞼を開けて、窓から見える空をぼんやりと眺めた。
窓枠からは見えるのは雲一つ無い青空。
時間は既に昼前を過ぎているようであった。
二日酔いで痛む頭を起こし、何気なく自分の右腕に視線をやる。
黒く艶のある髪が白いシーツに映える。
にゃむにゃむと寝言を口にする、シルファがいた。
フェインは、窓から見える空を眺める。
青空に悠々と羽ばたく鳥が見えた。
右腕に視線を戻す。
微かに震える長い睫毛と滑らかな薄い唇から寝息を零す、シルファがいた。
フェインは窓を見ながら、自分の服を確認して、シーツに染みやらなにやら無いか確認する。何も無かった様子。ホッとため息。
「ああ。今日はいい天気だな~」
フェインは遠い目をしながら呟いて、再度右腕に視線を送る。
大きな瞳と目が合った。いつの間にか起きたのかシルファがパチパチと瞬きを繰り返す。
数秒間見つめ合う2人。
「いや、大丈夫、何も」
「フェイン殿!」
「はい!!」
シルファが顔を赤くする。
もじもじと指を合わせる、けれども勇気を出して告白する。
(せ、責任か、犯罪か、いやそもそも何もしてないぞ。たぶん)
息をのむフェイン。
「私たち、瑠璃色の乙女のメンバーになって下さい!!」
(えっ~! 今それか!?)
と心の中で突っ込むが、口には出さない。
「いやフェイン殿に助けて頂いてそれも感謝しているんだがいかんせん私たちは戦闘にこそ自信があれその他のことはじつはまったくでぜひ経験豊かなぶつぶつぶつぶつ―――――」
だが、プルプルと震える必死に訴える、真っ赤なシルファの様子につい笑ってしまった。
「ぷっ……あははははは」
「えっ! ちょっとなんで笑ってるんですか」
(何というか、本当にアンバランスだな。あ~全く、見ていられないじゃないか。不器用で強いはずなのにぬけているし)
「ははははは! いやごめんごめん」
涙を浮かべながらフェインは言葉をつづけた。
「パーティー名、今のままじゃ不味いなと思っただけさ」
一瞬意味を理解できずにぽかんとした表情のシルファであったが、、直ぐに喜びに変わる。
「じゃあ!」
「まあ、何だ、よろしくな」
「ん……おめでたい」
突然の声に驚く二人。
ベッドの下から「よいしょ」とモモがコロコロ転がって出てきた。
「確かに、乙女では問題がありますわね」
箪笥の中からエリメラが優雅に出てくる。
「よかった。今度は歓迎会だね!」
最後にドアの隙間から覗いていたククルフィールが部屋に入ってきた。
おそらく心配して様子を見ていたのであろう3人に、からかわれるシルファを見ながら、かつての同じように騒がしかった『紅鉄の戦牙』時代を思い出す。
(はあ。若いっていいなあ。まあ、楽しくなりそうだ)
こうして、少女ばかりのA級冒険者パーティー『瑠璃色の乙女』に30歳B級冒険者のフェインが加わった。
「エロエロエロエロエロ」
「きゃー!シルファ―がフェイン様に吐いきましたわ!」
「ん……おにーさん汚い」
「うわー、雑巾とバケツ!」
そんな騒がしくも慌ただしい昼の出来事であった。




