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●第2章 悪意と乙女  ~8話 終焉

いよいよ大詰め。

そして次で2章終了となります。

少しでも皆様に楽しんで頂ければ幸いです。

「すみません。ポポタンフルンをそっちで1体お願いできますか?」


「1体なら問題ないとは思うかな~。けど残りの4体は?」


「私と彼女で引き受けます」


 離れた場所で弓を構えるククルフィール。


「でも――――」


 麻薬で能力強化された、狂うポポタンフルンを4体。


 A級冒険者のククルフィールが一緒とはいえ、相手にするのは危険ではないか、と心配になりフェインに視線を向けるホルス。


 けれども、視線を向けられたフェインは気負う風でもなく、ニコリと笑顔で頷き返す。拍子抜けするほど、ずるい笑顔だとホルスは思った。






「ホルスさん達は右に。……今です!」


 近づくポポタンフルンを正面に、フェインの合図でホルス、ネネルは右に駆け出すと、釣られて端のポポタンフルンが吠えながら、2人を追いかけていく。


 更に、隣の1体も唾液を撒き散らしながら巨大な角のついた顔をホルス達に向けた。


 だが―――――。



「おいおい、こっちを無視するなよ!!」


 立ち止まり低く唸りながら声の主であるフェインに向き直る。


 残りの3体もフェインから目を離さずに、低い体勢のまま、立ち止まり注視していた。


 体内の魔素を集中させるフェイン。


 B級冒険者で元『紅鉄の戦牙』のメンバー。


 魔法も使えれば、剣、槍、大剣、はたまた弓まで何でも一通り器用に使いこなす男。


・・・けれども本職は・・・



「お前らの相手はこっちだ!!」



『挑発』のスキルを放つ。



・・・巨大な盾と重たい鎧に身を包み敵の攻撃を一身に受け止める、守りの職人・・・



・・・前衛タンク職『重戦士』である。





(大丈夫なのかしら)


 ククルフィールは4体のポポタンフルンと対峙するフェインの背中を見つめる。


 彼女が手に持つのは自身の背丈を超える巨大な弓。


『瑠璃色の乙女』の回復担当であり、遠距離や広範囲にも届かせる、様々な効果のある回復魔法の矢を放つためのものではあるのだが、A級冒険者である彼女が普通に弓として使用すれば、それだけで凶悪なる武器となる。


 更には弓を構えて矢に魔素を練り込んでいく。


 視線の先では、ポポタンフルンのかぎ爪を盾で防ぎ、弾きながらも、その威力に後ずさるフェインの姿。


 突きあげる角が、フェインの鎧を掠めた。


(あ~! もお~!!)


 すぐにでも回復の魔法矢をフェインに飛ばしたくなるが、思いとどまる。


『歩く法の書』とマルタリオ配下達の戦闘が始まった時、フェインとククルフィールは離れた場所で戦況を窺っていたのだが、ポポタンフルンが現れた途端にフェインが作戦を伝えてきたのだ。


 それは「自分に回復はしなくても良いから、確実に倒せる攻撃を」というある意味、回復職の十八番を奪うものであった。


 けれども此処まで問題ないどころか、上手く導いたフェインの言葉である。不満も不安もあったが呑み込んで従うことにしたのである。





 ポポタンフルンを一撃で確実に倒せる様に、焦りながらも魔素を練り込むククルフィール。


 A級冒険者のククルフィールであっても流石に普通に放つ弓ではあの固い皮膚を貫くのは難しかった。もともとただの回復職で弓はおまけみたいなものなのだ。


 そのため、フェインが突破されてしまうと、接近戦になってしまう。魔素を練り込んで威力をあげた弓を放つことが出来ずに一気に状況は悪くなるのではないかと心配する。




(っ………………今!!)



 前方からの突撃を防いでいるフェイン。その真横からかぎ爪を振るおうとしたポポタンフルンに、強力な魔素を練りに練り込んだ矢を放った。


 頭の一部を失い倒れるポポタンフルン。


 

 その時、は違和感を感じた。


 攻撃されそうになっていたのに、横からの攻撃にまったく反応しなかったフェイン。反応できなかったのだろうか?それ程戦闘が得意じゃないのではと不安になっていく。


 けれども戦闘が続くにつれククルフィールは気づいた。

 

 ちょうど魔素が練り込まれた瞬間に、そのポポタンフルンが射やすい位置にいた事。そして、ククルフィールが倒した後も、一瞥すことなく、危なげなく戦闘を継続している姿。


 まさかと思う。


 おかしいとも感じる。


 たった1人でB級以上あるだろうポポタンフルンの攻撃を捌くことができるものなのか。



 再び弓を構え魔素を練り込む。


(わからない。だけど)


 根拠もなく、何となく。


 ポポタンフルンに比べると小さな背中が、何となく大きく見えて。


 自分には絶対、攻撃は届かないのかなあ、と集中する頭の片隅で考えた。









 銀の線が哀れな獣を貫く。


 立っているポポタンフルン残り2体となっていた。


 ククルフィールの感じた違和感の通り、魔素を練り込む時間を逆算して、射線上に誘導すべく計算された動きを見せるフェイン。


 落ち着いた、少し余裕のある、けれども油断はしていない真剣な表情。


 まさに歴戦の冒険者の佇まい。


 すごいと純粋にククルフィールは感じていた。



(手が痛いいいいい!! 痺れるっ~!!)


 しかしながら、フェインは必死であった。


 大体、最初の突進を受けた時点で、けっこう不味かったのだ。


(やばい……。少し格好をつけ過ぎた)


 それでも、体全体で盾の衝撃を上手く吸収していく。




 盾職は心意気が大切なのだ。


 とフェインに言ったのは、既に引退した先輩冒険者だったと頭の片隅で思い出す。


 その間にも、地形や相手の配置を考慮しながら盾の角度を変えて攻撃を受ける。弾き、そして流して逸らす。



 途轍もなく強力な重たい攻撃。



 が、少し前に戦った昆虫魔獣に比べると、苦痛や絶望感は無い。


(成程、先輩の言った通りだな)


 冒険者になって早い段階で、パーティーを組んだフェインはこれまで、仲間や味方を背に闘ってきた。


 実はソロで戦った経験の方が少ないのだ。そして、今、背後には守るべき、そして共に戦う者がいる。


 だからフェインは、本来の、本来以上の力を発揮できているのだ。


 仲間を守るという心意気。


 それが前衛で体を張る『重戦士』の役目。




 そして、これまでに培った経験と冷静さ。


 

 フェインはふらつく。


 

 相手を罠に嵌めるため。



 力なく膝をついたフェインに、2体の巨大な角とかぎ爪が突進してきた。


(3、2、1・・・今だ!!)


 その2体の内、前方から突進してきた1体の地面を蹴った足元に盾を構えて地に背中をつけてに滑り込む。


 急に動きの速くなったフェインに戸惑ったポポタンフルン。


 あえて動きを押さえていたフェインは、最後の力を振り絞り、盾を両手、両足でポポタンフルンの足が乗った盾を押し上げる。


 勢いづき態勢を崩したポポタンフルンは斜め後方からフェイン目がけて駆けてきていたもう1体と交差する。


「ククルフィールさん!!」


 ちょうど矢に魔素を練り込み終えたククルフィールは、矢から指を離す。


 放たれた矢は魔素を纏いまっすぐに空気を切り裂き飛翔する。

 

 空中でぶつかり重なったポポタンフルン2体を貫く。


「ククルでいいよ!」


 すました表情で叫ぶククルフィールの耳は赤かった。










 マルタリオの配下を鎮圧し、全てのポポタンフルンを倒した『歩く法の書』のホルスとB級冒険者のフェインの前で、連行されていく犯罪者とその主犯であるマルタリオ。


 少し離れた所では、『瑠璃色の乙女』たち4人が笑顔で話している。


 マルタリオの悪事と、彼女たちを取り巻いていた悪意は今、終焉を迎えた。



「ねえ、本当に今回は私たちが解決したことでいいのかな~」


「流石に、事件の規模が大きすぎるんで、俺には荷が重すぎるよ。後始末を含めて、よろしくということで、そのお礼分さ」


「そう。わかったわ~」


「じゃあ、俺はこれで」


 背を向けるフェインにホルスが告げる。


「フェイン君」


「ん? 何だ?」


 真面目な声のホルスにフェインは振り返る。


「真剣に、私はフェイン君を歩く法の書の仲間になって欲しいと思ってます。これは貴方にはそれだけの能力と資質があると考えているからです。貴方の剣を預けてはくれませんか」


 普段とは異なる口調のホルスにフェインは頭を下げる。


「そう言ってもれると……ありがたい――――」


「じゃあ!」


「けれど、自分は、まあ、気楽な冒険者が性に合っているんで、申し訳ないな」


 苦笑いを浮かべてそのまま歩き出す。


「そう、残念ね」


 ホルスも苦笑いぢながら肩をすくめる。





『瑠璃色の乙女に』に何か声を掛けたフェインにわらわらと集まる少女たちが一緒に鉄の扉の向こうに消えていく。




「ホルス隊長、よかったのかい?」


「いいのよ~」


 部下に指示を出しながらホルスはネネルとポロの花を踏みしめ歩く。


(だって諦めてないもの~)


『歩く法の書』隊長ホルスは目を細めて呟いた。





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