●第2章 悪意と乙女 ~6話 反撃開始
次回は戦闘回。
書けるか心配です。
マルタリオを先頭に、シルファ、モモ、エリメラの3人は隠し扉から地下へと続く階段を下っていく。
壁に備え付けられた、灯りの魔道具が朱色に足元を照らす。通路は狭く、レンガの壁と階段はどこまでも続いている。
しばらく歩くと、本当に何気ない口調でマルタリオが口を開いた。
「ああ、そうです、皆さん。夜はしっかりと身を清めておいて下さいね」
シルファ達の返答を待つことなく話を続けていく。
「力と名のある少女を好きにできることに、大金を支払って下さる方々む多いのですよ。商品として提供する前に、粗相のないよう、色々と仕込んでおきましょう」
((下種め!))
と心の中で叫ぶが、口は勝手に「「わかりました」」と告げている。
『契約魔術』と呼ばれるそれは、自分の意志とは関係なく行動を制限、強制されてしまう。
様々な形態で『契約魔術』を履行する魔道具が存在しているが、シルファ達を縛る『契約魔術』はマルタリオの懐にしまわれている、魔法陣の書かれた羊皮紙になる。
その全てに最高級の素材や魔石が使用されており、1枚で豪華な屋敷が立つ代物であった。
本来であれば国の正式な許可や複雑な手続きが必要なものではあるのだが、マルタリオは大金を注ぎ込み今日のために用意したのだ。
契約書にサインをしマルタリオを主として名を呼んだことで契約が発動し、現在彼女たちは意思があるだけで行動は制限されている。
階段を降りきると少し開けた場所に出た。湿った水の匂いがする。
大きな鉄製の門があり、見張りについていた武装した数人の男達がマルタリオに気が付き頭を下げる。
マルタリオは門を開けるように指示を出すと、扉は重たい音を立てて開いていった。
巨大な地下空間。
自然が悠久の時間を掛けて作り出したであろう天然の芸術は、しかしながら、マルタリオの欲望によって蹂躙されていた。
数え切らない灯りの魔道具が乱雑に壁に打ち込まれ、広い空間を煌々と輝き照らす。
光の先には、鍾乳洞を切り開いて、人工的に造られた一面に広がる白い花畑。
それは敷き詰められた、臓物石と呼ばれる昆虫魔獣の結晶化した内臓に、びっしりと根を張るポロの花であった。
血のような赤い内臓石と純白の大輪の花はおぞましくも美しい。
花畑以外にも、建物があり、周囲には木箱が積み上げられている。
中に入っているのは、ポロの花特製のポーションか食料である。
更には豊かな水量をたたえる地下水脈もあり、そこには船着き場が設置され、育まれた白い悪意を外へと広げる為の舟が浮かんでいた。
「すごい」
シルファが呟くと気を良くしたのか、マルタリオは雄弁に説明を続けていく。
「ん・・・すごい」
マルタリオは、劇役者のごとく踊るように身振り手振り大げさに、これからの展望を語った。
「本当にすごいですわ」
「うん、うん。気分がいいので、今日は色んな道具を使って遊んであげましょう。南の国から取り入れた腕の太さほどもある芋虫型の――――」と、弾む声でのたまう。
ついにA級冒険者『瑠璃色の乙女』という力が手に入り、外の流通させる商品も揃っている。
手始めに、小さな村から、そして冒険者を手なずけ、貴族を掌握し、行く行くは国の中枢に食い込んでいく。
マルタリオの野望は留まることをしらない。
けれど麻薬中毒者のようなただの化粧をしたA級冒険者の3人にはそんな言葉は届いていなかった。
(フェイン殿は)
(おにーさんは)
(フェイン様は)
((すごい!!))
3人はフェインの言葉を思い浮かべる。
「たぶん、マルタリオは3人が麻薬の虜になっていると分かったら、自分の駒にすべく契約魔術を使ってくるだろう。奴が非正規なルートで契約書を手に入れたことは掴んでいる。もし内容が、マルタリオに不利なことは絶対しない、といった内容なら、サインはせずに、何かしら理由を言って断れ。逆らわない、危害を加えない、言うことを聞く、といった内容なら、サインと控えにゴネろ。現物の保管場所に連れて行けとな。おそらく入口は奴の屋敷か店舗だとは思う。他は調べたが何もでなかった。後はこれを渡しておくから、もし奴のアジトについたら……こいつを使え」
シルファ達が知りえない情報をつかんでいるであろうフェイン。
けれどもここまで予想道理にことが進んだことに驚いた。
3人は顔を見合わせて頷く。
ここにきて、躊躇うことない。
隠し持っていた魔道具を取りだした。
それは決してマルタリオを害するものでは無いのだ。
そっと装着していく。
マルタリオの屋敷の門番はあくびを噛み殺しつつ、(やけに今日は人通りが多いな)とボンヤリと考えていた。
老人、職人のようなドワーフ、獣人の青年やエルフの物乞い、立派な服を着た男性や恋人のように戯れる男女。買い物帰りの主婦。
(くそが! あっちいけ)
警戒するが面倒な門番が心の中で悪態をついた瞬間、恋人のように戯れていたホクホク顔のホルスと戯れられていたうんざりした顔のフェインが魔道具の反応を確認する。
シルファ、モモ、エリメラからの合図である。
「歩く法の書! 準備!!」
ホルスが叫ぶと、ある老人とドワーフはマントを、獣人の青年やエルフはコートを脱ぎ捨てる。
脱ぎ捨てた服が、マントが、そしてコートが地面に落ちると、その持ち主たち総勢25名は揃いの曇り一つない、平等を示す青き鎧と鼻下まで隠れる鳥の顔を模した兜を身にまとっていた。
肩には『歩く法の書』の紋章である法律書と剣と羽ペン。
フェインに向かいニヤリと笑うホルス。
早着替えかよ! と突っ込むフェインの声をかき消して、ホルス率いる『歩く法の書』は駆けていった。
「国王の名のもとに、法を任されし、法の書である。逆らうもの、手向かうものは法の代行者として厳罰に処す」
ホルス達『歩く法の書』は門番を黙らせ、メイドを脅し、執事を拘束しながら、マルタリオの書斎に到着すると、事前に『夜の白霧』が手に入れた屋敷の見取り図で本来あるはずの何もない空間を探しはじめた。
「お、おいお前らいった……ぐっ」
気分よく話をしていたマルタリオは不快な声と音に振り返った。
「なにごとだ!」
「侵入者です」
地下空洞入口の門番たちが次々に倒れ伏していく。
鉄の門からは青い鎧に武装した何者かが次々に侵入してきていた。
眉を顰めるマルタリオだが、頭の中では様々な可能性を計算している。侵入者が何者だろうか?
「国王の名のもとに、法を任されし、法の書である。逆らうもの、手向かうものは法の代行者として厳罰に処す」
ホルスが普段の気の抜ける話し声とは異なる、響く透る声で警告する。
(歩く法の書ですか。ついていない。厄介な連中ですね)
だが、マルタリオの顔にそこまで焦りはない。
以前に法の書が追っていた盗賊団から、自分との関係が繋がりそうになった際に、隙を見て盗賊団を全て毒殺して、法の書の手から逃れることもできたのだ。恐れる程ではないだろう。
何よりも今は、盗賊共よりも強力な切り札がある。
「さっそく、働きなさい。命令です。奴ら歩く法の書を血祭りにあげなさい。終われば好きなだけポーションをあげましょう」
マルタリオは笑いをこらえるように命令を下した。
契約書によって人形となった、A級冒険者という駒に。
ぴちぴちぴち
ばたばたばた
ふごふごふご
おかしな音にマルタリオは振り返る。
3人の駒がいなかった。
いや、居たのだが見えなかった。
いやいや、見えていたが意味が分からなかったのだ。
手と足に強力な犯罪者用の手錠をはめて、ボールギャグを咥え 地面に寝ころんでいる3人のA級冒険者の状況に。
ぴちぴちぴち!!
ばたばたばた!!
ふごふごふご!!
遠くでは「歩く法の書、突撃!!」と声が響いていた。
初感想有難う御座いました。
ブクマ、評価を下さいました皆様にも等しく感謝を!!




