●第2章 悪意と乙女 ~4話 乙女said
「ポロの花?」
部屋を整えてククルフィールに服を着せ終わった3人は、治療してくれたB級冒険者であるフェインを室内に招き入れた。
静かに眠るククルフィールを優し気な表情で見つめるフェインにシルファ、モモ、エリメラの3人も嬉しくなる。
そんなフェインが最初に聞いてきたのが『ポロの花』であった。
3人は首を捻り、そろって横に振る。
初めて聞く花の名前だ。
「フェイン殿、そのポロの花とはいったい何なのだろうか?」
シルファが質問すると、フェインは優し気な表情から一転、厳しい表情になった。
「じゃあ、3人とも床に正座して」
迫力のあるフェインになぜか逆らえず、初めて正座をする『瑠璃色の乙女』の面々は予想以上の足の痛さに顔がゆがむ。
なぜこんな格好で座らせられるのか分からない。
そんな3人に構わずフェインは説明を始めた。
「じゃあ、まずポロの花についてだけど、ポロは、昆虫型魔獣のドロップアイテムである臓物石を苗床に成長する花で……その花からは国禁制の麻薬が取れる」
フェインの言葉にもぞもぞと足を動かしていた3人は固まる。
何を言っているのか頭が追い付かない。足が痛いわけではない。
「と、こ、ろ、で、3人はガンダール地下遺跡で誰に何を依頼されて集めていたのかな?」
フェインの言葉を少しずつ、理解し始めて青くなる3人は真剣に話を聞き始める。
「それに、今回ククルフィールさんが倒れて死にかけた原因が、ポロの花の麻薬によるものだろう」
「そんな! わたくし達、麻薬になんて手を出していませんわ!」
「ん!! してない!」
エリメラとモモが必死な顔で訴えるが、フェインはそっと腰のポケットからブロック状の一口齧られた棒状の食料を取り出した。
「覚えているかな。野営の時に君たちから貰ったこれって、バターと蜂蜜の味が濃厚だけど、最後に何か花のすっきりした香りがするんだが……もう分ったかな」
フェインの言葉の意味を理解してしまった3人は、震えながら頷くことしかできなかった。
「マルタリオ商会に呼ばれたのは半年程前のことだ」
シルファは俯きながらぽつりぽつりと話し出す。
「マルタリオ商会が出していたギルドからの正規依頼を何件か受けていて、一度お礼をしたいからと屋敷に呼ばれたのだ」
「ん。食事して話して、魔道具を見せてもらった」
「貴重な魔道具とのことでしたわ」
「ああ、そして商会当主のマルタリオ殿が席を外された時に触って見ていた魔道具が爆発したのだ」
「ん。ぼかん」
「わたくし達は怪我などありませんでしたわ。けれど魔道具は壊れて室内もめちゃくちゃになってしまいましたの」
そこで3人にフェインが呟いた。
「成程な。まあ大体の話の流れは見えてきた。大方、魔道具と爆発に巻き込まれた室内の弁償をすることになったが、弁償額がとんでもな金額で、どうしようか悩んでいた所を、ギルドを通さない高額の直接依頼を提案されたって訳だろう」
こくこくと頷く3人。
「そんでもって、弁償にお金を回すと、何かと大変だろうからと、食料の提供としてアレを渡されたってところか」
「「お~!!」」
見てきたように話すフェインを尊敬のまなざしで見つめながらシルファ、モモ、エリメラは激しく頷いた。
(普通なら、そんな爆発の危険がある魔道具なんかを持たせて危険な目に合わせたことに賠償追及してもいい筈なんだがなあ)
キラキラした目でフェインを見つめる少女3人に何とベタな手に引っかかったんだとため息のフェインであった。
「まずは、ククルフィールさんが助かったという情報は伏せておくこと。そして数日後に偽の葬儀を行って相手の出方を観察して、油断させて罠に嵌める。」
その後は今後の方針に話を移し、フェインが説明を行った。
「了解した」
「それにしても、マルタリオ商会から貰った麻薬入りのコレの殆どを彼女が食べていたとはね。運が良いのか悪いのか……」
大食いで、かつ麻薬に対して強い耐性があったククルフィール。
食事の時に麻薬入りの食料を食べて、ぽやーとしていた3人を思い出すフェインにシルファが正座したまま尋ねる。
「ところで、フェイン殿、貴殿はどうしてそこまで助言や助力をしてくださるのか、いや迷惑と言う訳ではなく、正直私たちではどのようにマルタリオ商会の悪事を暴けば良いのか分からないのだが。ふと疑問に思ってな」
固い口調とは裏腹にあわあわと手をバタつかせながら顔を赤くするシルファ。
「ん? ああ。以前、盗賊団討伐依頼を引き受けたんだが、貴族を巻き込む程の大事になってな。盗賊団は討伐したんだが、その裏で糸を引いていた相手は取り逃した」
「つまり、逃した相手がマルタリオ商会?」
「おそらくな。つまり今回の相手は俺にとってもやり残した相手って訳だ」
「ん。納得」
「わかりましたわ」
理解の色を示した瑠璃色の乙女達。そしてフェインは声に力を込めて少女たちに問う。
「それで、3人共、いや!A級冒険者、瑠璃色の乙女。キミらはどうする? 麻薬を広げる悪党を、仲間が助かってよかったとこれで終わりにするのか、それとも奴らと――――」
ごくりと真剣な目をしたフェインの次の言葉に唾をのみこむ『瑠璃色の乙女』の3人。
「闘うかい?」
A級冒険者『瑠璃色の乙女』シルファ、モモ、エリメラは闘志と冒険者としての矜持を胸に立ち上がる。
「「闘います」」
そして、
「「はんっ!!」」
足がしびれて倒れこんだ。
その後――
思いっきり説教された。
それは、身の危険を覚える程にだ。
けれども3人に取っては耳に痛く、けれども真実を含む内容だった。
「いいかい。冒険者は自由だ。けれど引き換えに責任が伴う。そして君たちは力と名誉あるA級冒険者だ。だからこそ君たちの自由が他の人々の自由を、平和を侵してはいけない。それが責任だと俺は思う。もし、このまま麻薬を取り続けていけば、いずれマルタリオ商会の操り人形として道に外れた行いに加担させられていただろう。考えなさい。思考しなさい。悪意を持った存在を見極めることができる知識と目を養いなさい。」
そして最後に柔らかく笑い言ったのだ。
「なに、大丈夫。仲間が危険な時でも俺を助けて治療に時間を使ってくれた君たちならば、優しく強いA級冒険者として後輩たちを引っ張ていけるさ」
フェインの言葉を胸に刻み付けて、3人は眠りについた。




