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●第1章 瑠璃色の乙女  ~10話 青と藍と瑠璃色と

何も着ておらず生まれたままの姿のエルフの少女が一人、ベッドに横たわっている。


瞼を閉じ、端正な顔を苦しそうに歪めているその少女の名は、A級冒険者『瑠璃色の乙女』のククルフィール。


「うっ!……くっ………………」


絹のような銀の髪は汗で額に張り付き、本来は雪のように白いであろうその肌は、赤黒く変色し蠢く黒い血管にジリジリと侵食されている。


(まっていろ。お嬢ちゃん。何とかしてやるからな)


そのベッド横には長身でがっちりとした筋肉質の30歳B級冒険者でパンツ一枚のフェイン。


更に部屋の外、少し開いたドアの隙間からは、集中の邪魔になるからと追い出されたシルファ、モモ、エリメラのこっそりと3人が覗いている。


知らない人が見たならば何事かと思われる状況であるが、いたって本人たちは真剣なのだ。







ランタンの温かみのある光がフェインとククルフェールを照らす。


フェインは左の人差し指をそっとククルフィールの小さなおへそにおいた。


自身の身体から魔力を少しずつ指先に集めていく。


ゆっくりと、丁寧に。


徐々に集める魔力を高めていたところで前触れもなく、おへそ周辺の赤黒い血管がフェインの指が触れているおへそを中心に寄り集まりだした。


(よし。ここまでは、順調だ。)


フェインは空いた右手で額の汗を拭うと、今度は右の人差し指に魔力を集めていく。


先ほどよりも慎重に、繊細にだ。


左の指先よりも本当に僅か少ないところで抑える。


(ここからが本番だな)


左の指先はおへそから離さずに、ククルフィールの小さな右足の甲に右の指をあてると、おへそにあてた時と同じように赤黒い血管が生き物の様に指をおいた肌に集まってくる。


つー、と汗の浮かぶ陶器のような滑らかな肌をフェインの指先がゆっくりと移動していく。


「んっ」


ピクンとククルフィールの体が震える。


足の甲から、すね、膝を通過して太ももに。


下腹部を過ぎるた所で、右の足には蠢く赤黒い血管の痕跡など全く見られない、白く透き通るような肌が現れる。


今だ赤黒い血管が蠢く他の部分との対比が痛々しい。


そして右の指をおへそにおいてある左の指先に近づけると、右指を追うように集まった赤黒い塊はおへそ中心の左指先の塊に吸収され更に大きな塊となる。


ゆっくりと右の指先を魔力はそのまま離すと、今度は左足の甲に近づけていく。



「あっ」


「っ!」


「んん!!」


「あん!!!」


ククルフィールの声と、時折聞こえるベッドの軋む音。


ドアの隙間から除く3人は息をのむしかなかった。




(よし、よし。順調だな)


左足も無事に終了し、右腕に移る。


ククルフィールの右手の甲にフェインは右の人差し指を置く。


手の甲、前腕を肘を抜け肩を目指す。


肩から鎖骨を通り頬を撫でると顎から咽、そして緩やかに膨らむ胸部に差し掛かった。


ベッド上のククルフィールの体が抵抗するように強く弾むがフェインは両手の指を離さない。


胸部から脇腹そしておへそで赤黒い塊を集めていく作業に集中する。





「ああっ!」


激しく体を震わせたククルフィール。


駆け寄りたいのを我慢して見守る三人のコブシは固く握られている。なぜか顔は赤い。




左手側も問題なく無事集まった。


赤黒い血管は全ておへそに集まり巨大な痣のようになっている。


(全て本の通りだな。ありがとうおっちゃん)


フェインはおへその指先をぐるぐると動かすと、大きな痣のように集まっていた赤黒い塊は、色を濃くしながら小さくまとまっていく。


それ以上小さくならないのを確認すると今度は左の指をゆっくりとみぞおちから咽に向けて動かしていく。


磁石に引っ張られる砂鉄の様に、指の動きについていく赤黒い塊が、間もなく喉に到着しようとしたところで、今度は右の指の魔力をほんの僅か左の指より高める。


(うまく、いって、くれよ!!)


右の手の指を伸ばしたままククルフィールの口腔内にその手を突っ込んだ。


小さな唇が無理やりにこじ開けられる。


「がはっ」


突然口の中を蹂躙する巨大な塊に呼吸もできず、舌が踊り、そして襲い来る激しい嘔気に身を捩る


けれどそれも一瞬。


左の指を咽まで動かす。


右の指先にヌメリと怖気のある感触が纏わりついた。


(いまだ!!)


右の手を一気に引き抜くと赤黒い粘液が右手を覆っている。


それを確認してそばに置いてある、防水処理されたの革袋に右手を突っ込み魔力を開放。


手から気持ち悪い感触の粘液がべちゃりと音をた立てて離れるのであった。


「がっ・・・。げほっ!!はあはあはあ・・・・・・・・すうすう」


空気を求めてククルフィールは荒く息をしたが、すぐに落ち着いた呼吸に戻った。


革袋の口を閉じるとフェインはククルフィールの状態を詳しく観察する。


そして、フェインは何も問題ないことを確認すると、布団を掛け、ドアに振り返り親指を立て笑顔を見せた。



ドアが開け放る。


シルファ、モモ、エリメラが駆けてくる。


3人仲良く、途中転びそうになりながらも、泣きながら、笑顔でククルフィールの元に。



フェインは着替えを手に取ると、嬉しさに彩られた嗚咽の聞こえる部屋を、そっと後にした。









「はあああああ~~~~」


着替えて宿屋の外に出たフェインは大きく深呼吸をする。


「し、しんどかった」


崩落に巻き込まれ、魔獣と死闘を行い、騎馬に揺られて、すでに限界のフェインは宿屋の庭にばたりと転がった。


「しかし、うまくいったなあ」


綱渡りであったことは自覚している。


「けれどまあ、これからが、本番なんだよなあ」


ベルトに付いた、普段は閃光球を入れている本来空のはずの膨らんだポケットを意識する。


(袖振り合うも何とやら。あの子たちを取り巻く悪意と、俺のやり残しを一気に解決しないとな。けど今は――――)


宿屋の2階灯りが付いている部屋からは微かに華やかな少女たちの笑い声が聞こえた気がした。


(疲れた。ああ~眠りたい)


フェインの瞼が閉じようとするその視線の先。


夜空は既に青から藍に変化して、消える月と登ろうとする太陽が混ざり合う一瞬に見せる瑠璃色の夜空がそこにはあった。

第1章終了です。

次は第2章突入です。

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