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第5章①

 最終戦の翌日。朝刊のスポーツ欄には、今シーズンのラスト試合ということもあってか、『来季へ繋がる執念、魅せた!』という題名と共に、浅川のゴールシーン、そしてウルトラクリアのシーンが、なんと見開きの、二ページぶち抜きの形で大きく載っていて、浅川の投入がこの勝負の分かれ目になったという賞賛の文字が大きく躍っていた。

 ローカルの定時ニュースでも、結果を伝えるアナウンサーの表情や声色が、心なしか嬉々としているのを見ると、勝利というのは、やはり見えない活力になるんだということを改めて実感し、感慨深くなる。

 これが須崎の体調をより良くすることに繋がれば何よりと思うし、須崎だけでなく、どこかの見知らぬ誰かすら、もしかしたら元気付けることに繋がったかもしれない。そう考えると、自然と鼻歌も出てきて、浅川は一人、なんだか誇らしい気分になるのだった……。


 さて、そんなふうに重圧が掛かる中で結果を追い求めてきたシーズンが終了した後、サッカー選手がやることといえば、スケジュールに組み込まれている練習最終日まで、リラックスゲームや負荷の少ないトレーニングを和気藹々(わきあいあい)と一~二時間弱こなすだけ。地元小学校の訪問や、ローカルラジオのゲスト出演などが入ることもあるが、それ以外はほぼ自由だ。

 この頃になると外国人選手は一足先に母国へ帰国し、余暇を過ごしたりもする。たとえカップ戦が残っていても、大一番の決勝がクリスマスや元日なら、足に違和感がある等、適当な理由をつけて普通に帰ってしまう者だっている。仕事より家族、恋人と過ごす記念日を大事にしたい、ということなのだろうが……この辺は律儀な日本人からすると、少し考えられないようなラフなメンタルと言えるかもしれない。

 もちろん、最後までチームのためにしっかりとベストを尽くす生真面目な外国人選手も沢山いるということは、補足しておきたい。

 話を戻そう。

 マッドスターズは前述している通り、プレーオフにも届かず、カップ戦も敗退しているため、特段の心配をする必要もなく、十二月の半ば前には、全体練習を止めてチームを早々に解散し、年明けの一月下旬頃から始まる初練習まで、早めの完全オフへと切り替わっていた。

 だから浅川個人のやることは、闘いで疲れた身体と心を休めることと、時折、須崎に会って閑談すること。


 それから、


 忘れてはいけない、この時期の最たる課題。そう……契約の更新に関することだ。


 スポーツ界には、『ストーブリーグ』という言葉がある。これは簡単に言うと、シーズンオフに各チーム内で行われる、監督・コーチの入れ替えや、選手の移籍、来シーズンの契約更新に関する動向のことを指し示す。Jリーグでは大体、十二月の初旬から一月の下旬くらいまでが特に活発だろうか。ここでフロント陣の手腕というものが試される。

 各チームのサポーターにとっては、有力選手が加入したり、逆に主力が他チームに行ってしまったり……あるいは謎の助っ人外国人選手が来たりと、一喜一憂、曖昧模糊とする時期であり、選手個人にとってもまた、自身のプロ生活を大きく左右する季節なのだ。



 それは、リーグ最終戦翌日のことである。病院を訪れ、須崎と暫くの閑談に興じた後だった。別れの挨拶を済ませたタイミングで、浅川の携帯に契約交渉を務める代理人から連絡が入った。

 実を言うと、浅川の元にはマッドスターズからの契約更新話に加え、すでにいくつかの移籍オファーの話も来ていた。今シーズンの後半の活躍は目覚しいものがあり、それに目をつけたJ2の他クラブが、ウチに来ないかと接触してきたわけだ。浅川の場合は、来年の一月末で契約が切れるというタイミングであるため、クラブ間での移籍にかかる違約金は必要ない。いわゆる『ゼロ円移籍』というものが可能であり、このことも、他クラブが積極的に触手を伸ばしてくる理由になっていた。


 そしてこの日、代理人から告げられたのは、更なる別クラブからのオファーの話だったのだ。

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