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第4章⑥

 0対0で来ていたスコアが動いたのは、前半28分。

 バックスタンド側、相手陣内の左サイドでの攻防から出たルーズボールを、フォワードのラファエルが拾うと、そのままドリブルで中央側へコースを取り、一人でペナルティエリアラインの手前まで一気に運び上がる。すると、足元からボールがやや前方に離れたと判断した相手の日本人センターバックが、滑り込むようにして横からのカットを試みた。

 だが、ラファエルの足は日本人のそれよりも長い。伸ばした足先を使う巧みなタッチでボールをコントロールして奪わせず、ゴールコースがひらけたタイミングで迷いなく右足を振り抜けば、反り上がるようなシュートが、身構えるキーパーの頭上を抜け、ポストとクロスバーで構成された白枠の、ど真ん中上段に突き刺さる形で、豪快にネットを揺らした。


 待ち望んでいた瞬間に、マッドスターズのサポーターが一気に沸き立てば、浅川を含めたリザーブメンバーたちも一斉にベンチから立ち上がって興奮の雄たけびを上げる。

 きわどいコースなんて狙わない、完全に力任せとも言えるシュートだったが、これを決められるのが助っ人外国人なのだ。

 この勢いのままに追加点を狙おうとしたマッドスターズだったが、鳥取も黙ってはおらず、僅か三分後に反撃を見せる。


 メインスタンド側から、コーナーキックのチャンスを得ると、意表を突くショートコーナーで素早く始め、一度マッドスターズの選手達の目を一手に引き付けてから、内にカーブをかけたボールをファーサイドへと送り込む。

 するとその落下点に、後方からフリーの状態で走り込んで来た相手のサイドアタッカーがダイレクトのボレーシュートで合わせると、クロスバーの角にぶち当たって上空へと高く舞い上がる。

 それを見て、ゴールラインを守っていたキーパーの犬飼が、パンチングでボールを弾き返すべく、前に飛び出した。しかし混戦状態に陥っているボックス内は、進路が塞がっていて思うように前進出来ない。

 それでもなんとかフィールドプレーヤーたちを押しのけるようにして、懸命にキーパーグローブを空へと伸ばす。

 だが――、

 先にボールへ触れたのは、鳥取の選手の頭だった。

 ヘディングで跳ね返されたボールは、守護神不在となったゴールへ誘われるかのように、吸い込まれていってしまった。


 そのシーンをすぐ傍のゴール裏席から見ることになったマッドスターズのサポーター達からは、深いため息が漏れる。得点を決めた鳥取の選手が仲間達からの手荒い祝福を受ける一方で、マッドスターズ陣は消沈を隠せない。一点リードという状況が、僅か数分間で振り出しにされたのだから、通常の失点より精神的なキツさが大きいのも、無理はないと言えた……。


 その後は両チームとも得点の機会が生まれず。ロスタイムの一分が経過したところで、主審が前半終了の笛を鳴らした。



 ……十五分のハーフタイムに入ったロッカールームでは、すぐさま監督やコーチの助言の下、選手同士が話し合って、セットプレー時の連携やマークの受け渡しの修正を今一度試みる。マッドスターズはコーナーキックやフリーキックのピンチに弱い部分があり、今日もそこを突かれた失点になったからだ。そしてそれとともに、攻撃へと繋げるそれぞれのタスクもしっかり確認しあった。

「お前ら、サポーターの応援をもう一度思い出せ! ホームの最終戦を、このまま終わるわけにはいかないぞ。まだ同点だ。気落ちすることはない。前を向いていけ!」

 嫌な雰囲気を消し飛ばすように監督が語気を強めれば、水分補給を済ませた選手達も一様に手や顔を叩き、

「しゃあ!」「いこういこう!」

 と声を上げて、後半のピッチへと向かっていった。

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