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第4章⑤

 十一月の最終週。

 試合の当日は、どんよりとした雲が空を覆っていた。気温は四度。風は〇・三メートル、湿度三十七パーセント。風はそれほどないものの、空気は冷たく、完全な冬の到来を感じさせるコンディションだ。

 マッドスターズの先発は、ゴールキーパーが犬飼、ディフェンスは四人で右から伊沢、佐藤、熊沢、多野。ボランチは中津と大村のベテランコンビが締める。サイドハーフは右に三田、左に早坂。フォワードはルーキーの近藤とラファエルが組む形である。

 控えは、ゴールキーパーに大崎。泉田、池井、田村とディフェンダー登録選手が三人入り、ミッドフィルダーには笹木と村越。そしてフォワードは浅川だ。

 最終節は全チームの最終的な順位が決定する試合である。状況によっては、昇格降格のラインが他会場の結果でも大きく左右してくるため、全ての試合が同じ時刻にキックオフを行うことになっている。

 現在十二位のマッドスターズの対戦相手は、十六位の鳥取サンドストーマーズ。

 お互いに昇格降格は無関係な試合だし、せいぜい、順位が一つ上がって終わるか下がって終わるか程度の違いしかない。それでも、勝つことで来期に向けた弾みはつくと言える。負けていいと思う心は選手の誰にもない。

 それは駆けつけたサポーターも同じで、試合開始の一時間以上も前から大きな横断幕を張り、いつものようにレプリカユニフォームを着て万全の準備をしてくれている。

 選手にとっては非常に心強いことだ。


 時計の針が試合開始予定の三時に近付いてくると、アンセムのBGMが流れる中、エスコートキッズと手を繋いだ選手たちが、ボールを持った主審を先頭にしてメインスタンドの入り口から入場してきた。その様子を、浅川はリザーブの仲間たちとベンチから見守る。身体を冷やさないようにと、足首まで覆い隠す、丈の長いベンチコートを着込んで。

 握手や写真撮影を済ませてから、両チームのキャプテンが主審のコイントスでコートエンドとボールを決める。それが終わると、互いに健闘を讃えあうように再び握手交わしてピッチに駆けていった。

 この一年の集大成を見せる最後の試合ということもあってか、選手達の表情はいつもより凛々しく感じられる……。

 センターサークルの真ん中にボールがセットされ、全選手達が定位置についたところで、主審が腕につけた時計を見やる。やがて、数秒の沈黙があってから、甲高いキックオフの笛が鳴らされると、堰を切ったようにスタジアムから歓声が沸いた。


 メインスタンドから見て左から右に攻めるのがマッドスターズ、右から左が鳥取サンドストーマーズだ。

 試合は鳥取ボールで始まると、自陣でのパス交換を数回した後、マッドスターズの最終ラインへシンプルに大きくボールを蹴ってきた。センターバックの佐藤が、イージーにヘディングで跳ね返す。セカンドボールの奪い合いになって、それを鳥取のサイドアタッカーが制すと、横パスに走りこんだボランチの選手がそのまま、挨拶代わりのミドルシュートを飛ばしてくる。だがこれもシュートコースをしっかりとマッドスターズのディフェンス陣が塞いでいたため、枠外へと大きく外れていってエンドラインを割った。

 マッドスターズボールに変わると、ゴールキーパーの犬飼からパスを受けたセンターバックの熊沢が、まずは落ち着いてボールを保持しながらピッチ全体を見渡し、センターライン手前のタッチライン際に位置を取る左サイドバックの多野にボールを預ける。相手の陣形が全体的にバックスタンド側へ動いたところで、再びセンターバック陣へボール戻し、今度は右サイドバックへとパスを回すという形を繰返す。

 こうして相手の陣形を左右へスライドさせることで、フォーメーションのバランスを崩そうというのが狙いだ。そしていざスペースが出来たとみるや、サイドへボールを回していたセンターバックの佐藤が意表を突くように、攻撃のスイッチとなる縦パスを送り込む。

 フリーになっていたボランチの中津が相手陣内の中央でそれを受けると、トラップをして前を向き、敵を一瞬だけ引き付けた。ワンテンポ、プレーを遅らせることで、相手がボールに食いつく。その隙に、左サイドバックの多野がサイドライン際を駆け上がっていけば、中津が相手選手の頭上を越えるふわりと浮かせたパスを、その前方へと蹴り出す。二回三回とバウンドするボールに、アタッキングサードの深い位置で多野が追いつくと、一気に歓声が大きくなった。ファーストディフェンスがチェックへ来るより早く、コーナーフラッグ付近からセンタリングのクロスボールを左足で送り込めば、ニアサイドでラファエルが相手と潰れて、中央に流れたボールに、ファーサイドから迂回してきた近藤が左足で合わせる。

 決定的な場面だったが、ファーストチャンスで慌てたのだろう。手前でワンバウンドしたボールが予想以上に足元へ入りすぎてしまい、上手くミートすることが出来なかった。シュートは勢いなくゴールキーパーの正面に飛んでそのままキャッチされてしまうと、近藤は両膝を叩いて悔しがった。

 とはいえ、ゲームの入りとしては悪くない。攻撃の組み立ては非常に良かったと言えた。

 横、縦、斜め、横というふうに異なる角度へパスを繋ぐことで、相手の目線をずらすことが出来る。それによってスペースが開き、マークがおざなりになって、ビッグチャンスが生まれるのだ。


 ――さっきの場面は一度トラップして収めてからシュート? いや、それだと相手ディフェンスやキーパーに寄せられて上手く打てなかったかもしれない。とすれば……身体を投げ出すダイビングヘッドのような形で押し込んでみても面白かったか。

 ワンプレーワンプレー、浅川は自分がピッチに入ったときをイメージしながら、真剣にゲームを見守った。

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