第4章④
ベンチ外となったアウェイの第四十一節は、0対一の敗戦で終わり、チームはシーズン終盤に引き分けを挟んで痛恨の四連敗となってしまった。
一方で浅川自身はというと、須崎と会ってから気持ちを切り替えて練習するようになっていたため、乱れていたプレーの精度も徐々に感覚を戻しつつあった。
ドーピング検査の件に関しても、すでに一ヶ月以上が経っていながら何の連絡も来なかったことで、やはり結果に問題はなかったんだと確信し、すっかり気を取られることはなくなっていた。
挽回のチャンスは、残り一試合。この週末に行われるホームでの最終戦だ。これが今シーズンの終わりを締めくくるラストマッチであり、今日はそのメンバーを決める最後のアピールの場として、十五分のミニゲームが行われていた。
「オーケー! まかせろ!」
スローインの流れからボールを受けた浅川は、チェックに来たディフェンスをキックフェイントで華麗にかわすと、右サイドからペナルティエリア内へ斜めに切り込む。横からプレッシャーをかけに来た相手も、腕を使って巧みに押さえつつ、強引にドリブルで突破。スピードに乗ったまま右足をしなやかに振り抜くと、アウトにスピンを掛けたボールをファーサイドのゴール隅に上手く沈めた。
――よしっ!
得意の形、狙い通りのプレーに、心の中で満足する。
曇り空が運んでくる冷たい風も、ゲームに入ってものの五分もすれば、気にならないどころか、むしろ心地よかった。須崎も言っていたようにポジティブに捉えるならば、出場停止が切り替えの良いリフレッシュになったのかもしれない。身体がリズミカルに動いてくれる。
その後も浅川は何度かチャンスに絡んだ。短い時間だったため、決めたゴール自体は一つだけであったが、退場開け後のアピールとしては及第点なプレーを見せたと言えた。
練習後、監督が全員を集合させて最終戦のメンバーを発表した。浅川は十一人のスターティングメンバーに名を連ねることは出来なかったが、切り札としてベンチには入れてもらえた。
基本的にスタメンの全体発表は、各選手のモチベーションを保つためにも試合当日の朝になることが多いが、それが早い段階での告知になったのは、なんとしてでも勝って終わるぞという監督の気概が見えた気がした。
「いいか。俺達が出来ることは、ただ一つ。ホームで情けない試合をしないことだけだ! ワンシーズン戦ってきたことで、それぞれ疲労もあるだろうが、メンバー入りさせてやれなかった奴らもいる。選ばれた奴らは、魂を込めて最後の一秒までやりきってくれ。それが出来れば、結果もきっとついてくる!」
「「「はいっ!」」」
選手たちの返事が野太い声となって響く。スタッフ、コーチ、監督を含めた関係者全員で円陣を組むと、キャプテンの中津が『やるぞー!』と気合を入れた。
大きな輪がばらけると、
「――仁」
高村が浅川に話しかけてきた。
「今シーズンのラストだ。頼むぞ」
思いを託されたのには理由がある。彼は前節の試合中に、相手選手と接触して太ももを少し痛めたらしく、最終戦はベンチ外の決断になっていたのだ。
「任せてください。ゴウさんの分までやってみせますよ」
出場機会があるかは、その時の監督の判断次第だから分からない。それでも親指をぐっと突き立てて自信満々に嘯いてみせれば、高村も『おっ』と大げさに眉を上げ、
「言うじゃねえか」
ニヤリと笑みを返す。
「俺はスタンドから見ることになるが、気持ちは託すぜ」
「――ウッス!」
寒空の下、大きく空気を吐けば、すっかりと白くなった息が大気に流れて消えていった――。




