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第1章④

 浅川仁の所属する土竜谷マッドスターズは、新潟県の中部をホームタウンに置くプロサッカークラブであった。

 J2に昇格したのは五年前。最高順位は昇格元年の8位。他チームからも一目置かれたが、それ以降は伸び悩み、14位、16位、14位と、常に残留争いに片足を突っ込むことを余儀なくされている中下位のチームだった。今年もまたそれに違わずというべきか、前節、岡山での敗戦で15位と順位を下げ、苦しい戦いを強いられているのだった。


 マッドスターズの練習場所は、住宅街から少し離れた場所にある2面のサッカー練習コートとプレハブ式のクラブハウス。

 すぐ傍の土手を一本挟んだ向こう側には、日本一の長さを誇る雄大な信濃川が視界の端から端まで広がる、中々に景観の良い場所だ。

 岡山との一戦を終え、夜間バスで戻ってきた選手たちは、翌日午前にミーティング、ジョギングなどの軽いクールダウンを行う。それが終わると、レギュラー組はそのまま帰路に着き、控え組と途中出場組に加え、ベンチ外だった選手は試合感とコンディション維持、そして次節に向けたアピールのため、午後からの練習試合に出場するのだ。

 今日の相手は県内の大学チーム、越後文化大サッカー部である。北信越リーグ二部に在籍中。

 プロ三年目、21歳の浅川にとっては年の近い相手となる。

 午後一時開始のトレーニングゲーム。フォーメーションは4‐4‐2。スターティングメンバーは、


 GK、大崎光太

 RSB(右サイドバック)、池井良太郎

 CB、海野庄平

 CB、泉田誠

 LSB(左サイドバック)、田村純一

 RMF(右ミッドフィルダー)、イムヨング

 CMFセンターミッドフィルダー、酒井拓斗

 CMF、大村大地

 LMF(左ミッドフィルダー)、村越次郎

 FW、『浅川仁』

 FW、近藤正道


 となり、浅川はツートップの右、やや下がり目のポジションに入った。コンビを組むのは、ルーキーの近藤だ。前節岡山戦でも2点ビハインドの場面で起用されている。つまり、現時点で浅川のほうが序列は下と見られている可能性が高い。ここでアピールしなければ立ち位置は変わらないだろう。

 高く張られた緑のネット越しに十数人のファン、そしてピッチの横で監督、コーチ、スタッフが見守る中、トレーニングマッチが始まった。

 スコアは序盤に動く。

 前半9分、相手陣内中央でボールを持った大村からのスルーパスが近藤に通ると、GKとの一対一を落ち着いて決め、ライバルが早速結果を出す。

 浅川はというと、15分、右サイドライン際でボールを持ったイムヨングとの連携から裏抜けを試みるが、これは息が合わず、オフサイドを取られてしまう。

「ちっ、出すのおせえよ……」

 思わず聞こえないように愚痴を零す。けれど監督の喝は浅川の方に飛んできた。

「仁! もっと周りの動きも見ろ!」

「……はいっ」

 何で俺だよと思いつつも、ここは黙って従うしかないのが選手の立場だ。

 両チーム枠を捉えきれないシュートを2本ずつ放った後の33分、ペナルティエリア左すぐ外からのフリーキックをイムが直接決めると、ここから怒涛のゴールラッシュが始まる。40分、45分に1点ずつ、後半も、10分に近藤がこの日2点目を追加する展開となった。

 ノーゴールの浅川にとって最大のチャンスは、相手のプレスが弱まり始めた後半18分。

 CBからのロングフィードに飛び出し、キーパーとの1対1の状況を作り出した。

 上空の風を読み切れずトラップが若干大きくなったが、それでもペナルティエリア内右から、足を振り上げ、思い切りシュートを放つ。

 ゴールのニアサイドを襲ったボールに、逆を突かれた相手ゴールキーパーは反応出来ない。浅川自身も、


 ――決まった!


 ……と思ったのだが、これが不運にもゴールポストを叩き、エンドラインへ外れてしまった。

 思わず天を仰いだ浅川が交代を命じられたのは、そのすぐ後のことだった。結局、決定機は作るものの、決めきることが出来ず、この日のアピールは、4点目の際のアシスト一つのみ。ライバルたちの結果を鑑みても、失敗と言わざるを得ない出来であった。

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