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第2章⑥、対水戸スパイダーウォーリアーズ、その二

 土竜谷マッドスターズ・スターティングメンバー、

 GK、犬飼辰夫

 RSB、伊沢勝也

 CB、佐藤大五

 CB、熊沢博

 LSB、多野大志

 RMF、三田和雄

 CMF、中津永治

 CMF、笹木トクマ

 LMF、早坂作太郎

 FW、浅川仁

 FW、ラファエル・ロペス


 控え、

 GK、大崎光太

 DF、海野庄平

 DF、田村純一

 MF、イム・ヨング

 MF、大村大地

 FW、高村剛一

 FW、近藤正道


 水戸スパイダーウォーリアーズ・スターティングメンバー、


 GK、橘武次

 RSB、古賀将一郎

 CB、チェ・ヨングン

 CB、伊東和馬

 LSB、墨田真

 DMF、小金井吹雪

 RMF、安西雄太

 CMF、原貴光

 CMF、野島健太

 LMF、山本卓巳

 FW、佐竹隼人


 控え、

 GK、上野宏樹

 DF、後藤桂三

 MF、村山準

 MF、門田和人

 FW、久米工


 スパイダーウォーリアーズのフォーメーションは4‐1‐4‐1。最終ラインは四枚でボランチは逆三角形。前述したように、メンバーには、学生サッカー界を席巻した新進気鋭の若手選手達が名前を連ねている。

 中でもキーマンになっているのは、今シーズンJ1の強豪、鹿島レオーネFCから期限付きで来た身長188センチのFW、佐竹隼人と、浦和ダイヤモンドブレイズから来た、守備的ボランチを主戦場とする、小金井吹雪である。二人とも現役U‐20日本代表にも選ばれている次世代の有望株だ。

 彼らを筆頭に、スパイダーウォーリアーズの選手たちは、自分の特徴をアピールしようと、我の強い、積極的なプレイを仕掛けてくることが多い。

 だからこそ勢いに乗せてしまうと怖いのだが、一方で、組織的な美しさを持っていない分、空回りすることも間々ある。

 苑田監督からも、相手のその間隙かんげきを突くようにという最終指示がロッカールームで伝えられ、浅川たちはピッチへと送り出された。

 ――まあ、このガムがあればどんな相手だろうと関係ないさ。

 試合開始直前、それぞれの選手が特有の緊張感を湛えているのをよそに、浅川の表情にはどこか、確信的な余裕が滲んでいた。それもそのはず、前回は終了間際の六分弱で2ゴールだ。今日はスタメンということで、その何倍もの時間的余裕があるのだから。

 いったいどれほどのゴールが量産出来るのか……想像しただけで不敵な笑みが零れてくる。


 コイントスの結果、前半は、相手ボールからのキックオフ。マッドスターズは、メインスタンドから向かって右に攻める形。左側のゴール裏を中心に陣取る、大勢のホームサポーターの声援を背に受けながら戦う格好かっこうだ。前節の勝利も影響してか、今日はいつもより、その後押ししてくれるサポーターの数も多いように見える。

 それぞれの選手が定位置についた。

 キックオフの笛が鳴り、歓声と共にボールと人が動き始めたタイミングで、浅川は口の中で転がしていたガムを、右の奥歯で噛み締めた。

 葡萄の甘味と酸味が舌を刺激し、口内の細胞に染み込むと、唾液が一気に分泌され始める。果実をぎゅっと押し固めたような強い香りが鼻に抜けるとともに、視界の色が薄まってスローモーションに変化する。

 チャンスは早々に来た。

 開始2分。相手陣内、ややメインスタンド寄りに位置をとっていた浅川の下に、熊沢からくさびのフィードが飛んでくる。それを胸でトラップすると、相手ディフェンダーを背中で押さえながら、タメを作り、タイミングを見計らって中央へマイナス気味のパス。走りこんできた笹木が受けると、左に展開。これがディフェンスの裏抜けに成功したラファエル・ロペスに渡る。

 位置はペナルティエリアのやや外側。ここから中へは行かせまいとする相手ディフェンスに対し、ラファエルはゴールを窺いつつ、足の裏で小刻みにボールを転がしながら、間合いをジリジリと詰める。

 勝負は一瞬だった。ラファエルのとび色の目が野獣のように鋭く光ると、外国人特有の体格を生かした大きなモーションで縦へのドリブル突破。

 だがそれはフェイントだ。堪えきれず相手ディフェンスの上体が釣られたところで、左足の内踵にボールを当てて中への鋭いカットインを繰り出すと、コースが空いた瞬間を見逃さず、右足をコンパクトかつ、しなやかに振り抜いた。インフロントを使った、ファー狙いの地を這う絶妙なシュート。ニアサイドを重点的にケアしていたキーパーでは手を伸ばしても届かない完璧なコース。


 だがしかし、スローモーションになっている浅川の目には、その次の結果が見えていた。

 ――外れる!

 このボールの回転、コースでは、ポストの根元に阻まれてしまうであろう映像が、脳裏にはっきりと見えたのだ。内側を叩けば、ゴールラインの中へ吸い込まれる可能性もあるが、いかんせんスピンが掛かりすぎている。

 軌道の終着点は、支柱の正面寄り。これでは弾かれる。


 となれば、重要になってくるのは直後のセカンドボールだ。


 ――その跳ね返ってくる位置を予測して、俺が走りこめばいい!

 全員がボールの軌道に目を奪われる中、浅川はすでにそのポイントへダッシュしていた。

 芝の上を低滑空する形でゴールの隅を襲ったボールは、予測どおり右ポストの根元を叩き、ピッチ内に鈍い音を響かせる。

 その瞬間、固まっていた全員の身体が、通電したかのようにビクリと跳ねた。相手ディフェンス陣は、はっとして慌てた表情に変わるが、時既に遅し。

 弾かれたボールは、一人、予測地点に詰めていた浅川の下へ吸い寄せられるかのごとく、転がってきていたからだ。

 もはや外しようもない場面……。呆然と周囲に立ち尽くす選手達が、滑稽にさえ見えた。

「ふっ」

 浅川はニヤリと口角を吊り上げると、足下のそれをゴール中央へ悠然と流し込んでやった。

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