第1章②
岡山サンダーライオンズFCのフォーメーションは5‐4‐1、守備を主体としたプレースタイルだ。1トップにはアルゼンチンから来た、身長190センチのFWが聳え立つ。対する土竜谷マッドスターズはオーソドックスな4‐4‐2。こちらのツートップは昨シーズン、リーグ9ゴールの高村と今シーズン、ブラジル2部から移籍してきた助っ人外人、ラファエル・ロペスである。
前半は、アウェーのマッドスターズがやや押し込むような試合展開を繰り広げた。
16分。
左サイドハーフ早坂がボランチ中津との崩しから鋭いクロスをペナルティエリア内へ上げると、相手CBとの競り合いに勝った高村が、長身を生かした打点の高いヘディングシュートを放つ。しかしこれは精度を欠き、クロスバーの上へと外してしまう。
更に28分、31分と、個人技で突破したラファエル、ミドルが得意な右サイドハーフの三田が続けざまに積極的なシュートを放つが、いずれもゴールキーパーに正面でキャッチされてしまう。
ホーム岡山のチャンスはその5分後。36分にセットプレーのこぼれ球から二度ほどシュートを放ったが、一度目はDFに当たり、セカンドボールを拾った続けざまのシュートも枠をとらえることは出来なかった。
こう着状態のまま後半に入った両チーム。先に動きを見せたのはマッドスターズの方だった。
攻めの手を緩めずにいこうという苑田監督の指示により、フォーメーションが4‐1‐3‐2に変更される。これに伴い、右サイドハーフに入っていた三田と控え韓国人選手のイム・ヨングの交代が後半10分に行われた。積極性のあるドリブルが持ち味のイムを起用することで、相手を翻弄することが狙いだった。しかし、これが裏目に出てしまう。
敵陣地での不用意なトラップミスからボールを奪われてしまい、岡山のカウンターが始まってしまったのだ。
前線で圧力を掛けていたイムの戻りが遅かったこともあり、がら空きのサイドスペースを使われると、右サイドバック伊沢も振り切られ、中央にグラウンダーで折り返される。それを岡山の1トップを務めるアルゼンチン人、カルロスが右足を振り抜けば、キーパーも反応出来ないほどの強烈なシュートがネットに突き刺さった。
『ゴオォーーーーーーーーーーーーールッ!』
巻き舌気味のアナウンスがスタジアムに響き、ホーム側が一斉に沸き立つ。
巨大なフラッグが上下に振られ、ゴールを決めたカルロスはそれに応えるかのごとく、胸で十字を切った後、その人差し指を高く掲げる。
「まだ終わってないぞ! 切り替えろ切り替えろ!」
「顔上げてっ!」
土竜谷サイドのベンチからは、意気消沈する仲間たちを鼓舞するような声が飛んだが、ビハインドを背負い、足の重くなったマッドスターズの選手たちは、暑さも重なってかミスが続き、次第にボールが回らなくなる。すると76分(後半31分)、セットプレーから再びカルロスに痛い追加点を許してしまう。
ここで苑田監督は堪らず、疲労の見えていた中盤の笹木、早坂の2枚替えを行い、中央を経由しないロングボール主体のパワープレーに出る。
結局、ロスタイム直前に混戦からCBの佐藤が1点を返したものの、時すでに遅し。
2‐1の試合結果で、マッドスターズは前節に続く敗戦。九月の頭をいいスタートで走り出したいところだったが、現実はそう理想通りにはいかず、まさに『マッド』――泥のような苦杯を、敵地で舐めることになってしまったのだった。