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第2章①

「いやあ、まさか途中出場で2ゴールとはね。しかも相手はあのマジカル大阪。思わず一人で大きい声上げちゃったよ」

 余韻が残ったまま迎えた次の日の練習終わり、浅川は入院している須崎のもとを訪れていた。

 須崎は、童心に返ったような笑みを浮かべながら、今も興奮を抑えきれないといった様子で、昨日の活躍を褒め讃えてくれた。

「だから言ったろ、ゴールを決めてみせるって。それとも、無理だと思ってたか?」

「あははっ。いやいや、もちろん信じていたけどさ」

「嘘付け、おい」

 浅川はちゃかすように言って、須崎を小突く。お互い、まるで学生時代にでも戻ったかのようなやり取りだ。

 しかし、

「――それにしても、沢中さんを振り切ったときの動きは凄かったね」

「え……?」

 その話題になった瞬間、浅川の言葉がどもりかけた。試合中、スローモーションで見えていた一連の動作や場景じょうけいが、克明こくめいに蘇る。一方で、須崎はその裏にあった事情など知るはずもない。

「あの人が、あんなに翻弄ほんろうされる姿って、滅多に見ないじゃん。ていうか、初めて見たかも」

 この鋭さは、須崎が持つ天性の勘の良さから出たものなのか、それとも、単純にゴールまでの流れを評価してくれているだけなのか、浅川にはイマイチ判断がつかなかった。とはいえ、急に黙りこくるわけにもいかない。

「そ、それはたぶん、油断してたんだろうよ。ほら、センターバックはずっと気を張り詰めていなきゃいけない分、緩みが出ることもあるからな」咄嗟にそれっぽくつくろいつつも、「……あるいは――」と、脳裏を掠めた本音が、思わず口から零れてしまう。

「え? あるいは、何?」

「い、いや、俺が、まあその、なんだ……『神ってた』……とか? ははは……」

 ここで浅川は反応をうかがうように、含みを持たせた言い方をしてみた。

 すると、須崎は温和な表情を真剣なものに変えた……が、それも一瞬だけのこと。やはり単なるジョークだと思ったようで、すぐに吹き出し、

「そうかもね」

 と、大きく笑うだけだった。


 病院を出た浅川は、駐車場の車へ戻ると、携帯でマッドスターズのスレッドを覗いてみた。

 先週までは、ほとんど名前すら挙がっていない状態だったにも関わらず、今は、浅川の話題で持ちきりだ。

 流し読みをする中で、目についただけでも――、


『絶対役に立たないと思ってたわ。浅川選手、すいませんでしたあああああ』

『浅川くん、最高や!』

『次はスタメンにするべきだろ』

『ほらな、俺様の言ったとおりだったじゃん。浅川を使え! って』

『いや、いつ言ったよw』


 などなど……。くすぐったくなるほどの盛り上がりを見せていた。

 手のひら返しとは、まさにこのことを言うのだろう。

 しかし同時に、結果を出すということが、それだけ重要だという現れでもある気がした。

 事実、あの試合の後には、普段あまり連絡が来ない知人や仲間からも、多くの祝福メールが届いていたし、病院に来る前に寄ってきたスポンサーのステーキ店でも、デザートのアイスクリームをおまけしてもらった。

 試合の結末を変えるゴールを決めることで、浅川自身、ひいては、マッドスターズに関心を持つ多くの人たちが、そんなふうに喜んでくれるというのは、まさに選手冥利に尽きる出来事だった。

 そして何より、治療を続ける須崎の表情が、今日はいつに無く明るく元気に見えたことも、非常に感慨深く、浅川の心を大きく感化させるものがあった。

 自分のゴールが誰かを救う、という表現は流石におこがましいかもしれないが、たとえどんな形でも、どんな手を使ってでも、結果というものを出す『大切さ』、『重さ』がそこにあると、浅川は前回の試合を通して、身に染みるほどに感じた。

 だからこそ、これを一過性のものにするわけにはいかない。たった一試合の活躍では、またすぐに忘れられてしまうだろう。

 絶対に、流れを途切れさせないようにしなければ。


 ――そのためには、やはり……。


 浅川は携帯をポケットへしまうと、ギアをドライブに入れ、アクセルペダルを踏んで車を動かし始めた。

 次の目的は決まっている。

 あの『老婆』に会うことだ。

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