第1章⑬、対マジカル大阪、その一
薄味の病院食だって、慣れてしまえばどうということはないものだ。
須崎圭人は、食後の薬を服用し終えると、時刻を確認した。
「そろそろかな……」
ベッド脇の小さな有料テレビを点け、イヤホンを装着する。
チャンネルを合わせると、土竜谷マッドスターズのホーム、県総合運動陸上競技場が、俯瞰のカメラで映し出された。
『美しい夕焼けも日本海へと沈み、夜風の心地よい時間帯となりました。ここ、県総合運動陸上競技場ではJ2第32節、土竜谷マッドスターズ対マジカル大阪の一戦が行われようとしております』
アナウンサーが落ち着いた口調で導入部を語る。
『実況は私、野田克己。解説には、マッドスターズでMFとして活躍されました内村忠則さんにお越しいただいております。内村さん、どうぞよろしくお願いします』
『よろしくお願いします』
『さて、内村さん。マッドスターズは前節、岡山にアウェーで敗れて15位と順位を落としています。苦しい状況の中で今日を迎えたと思うのですが?』
『そうですね……しかも今日の相手は首位のマジカル大阪ですから、少しも気を抜けない戦いになるかと』
アナウンサーは唸るような相槌を打つ。
『そのマジカル大阪なんですが、注目選手も多く在籍していますよね?』
『ええ。ボランチの金城は日本代表にも選ばれていますし、GKは韓国の世代別代表チョ・ソユン。そしてCBには、過去2度、ワールドカップにも出場したことがあるベテラン、沢中大輔もいます。他にもまだまだ……』
『まさに、J2ではもったいないぐらいのスター軍団というわけですね……。対するマッドスターズのほうはどうでしょうか?』
『マッドスターズは、キャプテンの中津がどう中盤を締められるかが鍵になるでしょう。かなり多くの仕事を要求される立場だと思いますから。そして、なにより僕が気になるのはFWですね』
『FW……というと?』
『この試合、実はストライカーのラファエル・ロペスが前節イエローカードを貰ってしまい、累積の出場停止でメンバー入り出来ていないんです』
『ははあ。確かに』
『なので、この選手に代わるFWの活躍が勝利には必要不可欠になると思います』
『なるほど……それでは、改めて両チームのスターティングメンバーを見てみましょう。まずはホームから』
土竜谷マッドスターズ、
GK、犬飼辰夫
RSB、伊沢勝也
CB、佐藤大五
CB、熊沢博
LSB、多野大志
RMF、三田和雄
CMF、中津永治
CMF、笹木トクマ
LMF、早坂作太郎
FW、高村剛一
FW、近藤正道
『スタメンは4‐4‐2、11人中、10人が前節、岡山戦と同じ格好ですね』
ラファエル・ロペスに代わり、FWに入ったのはルーキーの近藤だ。今季、二度目のスタメンである。
控えは、
GK、大崎光太
DF、海野庄平
DF、田村純一
MF、イム・ヨング
MF、大村大地
MF、村越次郎
FW、浅川仁
対するマジカル大阪のスタメン。
GK、チョ・ソユン
RSB、飯塚信地
CB、新宮達吉
CB、沢中大輔
LSB、中林昭雄
RMF、上咲遼
CMF、金城駿二
CMF、小野太一
LMF、万田満
OMF、相田智彦
FW、渡辺知也
控えは、
GK、斎藤和希
DF、田中修平
DF、本橋栄一
MF、坂倉真
MF、越田直樹
FW、中川健吾
FW、水乃翔太
『こちらのフォーメーションは4‐5‐1で、中盤に枚数を割いた格好です』
それぞれの選手紹介が終わったタイミングで選手が入場してくる。
――やっぱり、マッドスターズはちょっと重たい空気かな……。
須崎の目には、全体的に選手の表情が硬く見えた。
この試合のポイントはやはり中盤だろう。
マジカル大阪が誇る技術の高いMF陣。
五色のパスワークとも言われる細かいパス回しを、今日もやってくるはずだ。
マッドスターズの前線は、プレスを掛け続けなければならないし、ディフェンスに回ることも多くなると予想される。体力の消耗は避けられない。けれどそれは同時に、控えメンバーの出番も絶対的に出てくるということだ。
特に、前線の選手……。
――頑張れよ……仁。
『さあっ、キックオフの笛が今鳴りましたあっ!』




