第1章⑫
日曜日に行われるJ2のリーグ平均観客数は5~6千人。
しかし、今日はそれを大幅に上回る数が予想された。
マッドスターズのホーム試合にもかかわらず、会場の総合運動陸上競技場観客席には、大勢のマジカル大阪サポーターたちが、首位という勢いを体現するかのように乗り込んできていたからだ。
夕暮れの空の下、アウェイゴール裏周辺は、紫のレプリカユニフォームを着た大阪サポーターたちによって完全にホームジャックされていた。
戦力、勢いなどから見ても、完全に不利な状況……。
それでも、応援してくれるホームサポーターたちに勝利を届けるために、マッドスターズの選手たちはロッカールームで最後の気合いを入れていた。
「相手はパスワークを駆使してくるだろうが、連動したプレスを掛けていけば、ボールは必ず奪える。そのためには運動量が必要になるが、この部分で負けてたら、勝機はないぞ! いいなっ!」
「「「オッス!」」」
監督の叱咤激励に、選手一同が声を張る。
それが終わると、監督や控え組のメンバーは一足先にロッカールームを出てベンチへ向かう。
その中で、浅川はスパイクの靴紐を結び直した後、以前老婆から買ったガムをその手に乗せて見つめていた。
――……一応、コレも家から持ってきたが……。
包み紙を剥がしてみるが……やっぱりどう見ても完全な紫色のキシリトールガムだ。
本当に何か効果なんてあるのだろうか……? 老婆の話では、コレを食べれば結果を残せるというような口ぶりだったが……。
浅川は首を傾げつつも、そのガムを口に運ぼうとする。
――いや、ちょっと待てよ。俺は控えだ。なら、今このガムを食ったって意味がないじゃないか。
もちろん、全てを信じているわけではない。むしろ、どちらかといえば、九割九分ただのガムだとしか思えない。しかし仮にも一個千円もした代物だ。使うにしても、ちゃんと確かめたい。
「おい、仁。何やってんだ、早く行くぞ」
先輩の大村に急かされた浅川は、
「は、はい! すんませんっ」
咄嗟にガムをソックスとレガース(すねあて)の内側に忍ばせると、急いでロッカールームを出た。




