今際の際
その日、五人を無差別に殺めた男に絞首刑が執行された。
絞首台に立たされた男の首に縄がかけられ、しばらくした後、足元の台が開き、男の身体は重力に従い勢いよく落下し、体は地面に落下しきる直前で止まる。
刑務官達はその様子を粛々と見守っていたが、事態は突然起こった。男の首に巻かれていた縄がブチブチと音を立てて千切れ始め、縄は完全に切断され、男の身体は地面に叩きつけられた。
男は咳き込みながら叫んだ。
「どうだ見たか!! 死刑失敗だ!! ざまーみろ!!」
室内には世の中を嘲笑うような男の笑い声が響き渡った。
死亡時刻を確認した一人の刑務官が言った。
「死刑が執行されたのに笑ってやがる。」
別の刑務官が言った。
「今際の際に、死刑が失敗した夢でも見たのだろう…。」