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Rain  作者: 野暮天
2/3

2nd drop

少女の名はレインといった。背丈は小さくまだほんの子供のようにしか見えない。


そしてなぜだか彼女は俺の家に上がっていた。そこは町の外れにある丘にある小さな一軒家だった。

「親はしばらく帰ってきてないから気を使う必要がない」

「そうですか」


すこし神妙な面もちで答えられると俺も返す言葉がわからない。仕方がないのでお茶でも出す。

「これ飲み終わったら早く帰れ」

「はい」


あのあと傘を差し出す少女は俺の目の前で笑ったのだ。

「相合い傘しましょう」


雨に打たれて寒さに震える俺に差し向けられた優しい手。

それを俺は掴んでしまった。

こんな小さな娘の手を選んでしまった。


「飲み物はコーヒーより甘い紅茶がいいです」

「分かったよ。そこはサービスしとく」

「あとミルクとお砂糖はたっぷりでお願いします」

「了解っと」


意外と要求の多い娘だと一人笑った。

笑うのなんて久しぶりだった。そんな風にふと思った。


「確か冷蔵庫に……」

独り言とともにキッチンを捜索。牛乳を出そうと冷蔵庫の取っ手にてをかけるが、あけるとなかはがらんどうだった。他の場所も探したが結局見つかったのは古ぼけたパッケージの紅茶と、ざらざらした砂糖だけだった。


誰も使っていないせいかキッチンは雑然としながらもある程度の秩序を保っていた。それは俺がものを動かさないからで。なにも変わっていないのだとただ信じたかったからかもしれない。


三ツ口コンロの上にこれまた黒ずんだケトルを乗せて湯が沸くのをひたすら待つ。ぼんやりと考え事を市ながら。


先程濡れていたものは洗濯機にかけて、俺はジャージに着替えていた。向こうは雨に濡れていないと言い張ったがやはり俺といたせいで少し水滴が着いてしまったようだ。タオルを彼女に渡している間紅茶をいれる準備をする。


まず二つのカップ。これは母親が残していったものだ。今はもういない。生きているか死んでいるかさえわからない。だが便りがないということは生きているのだと信じている。


いや、ただ信じたいだけなのだろうか。

自分が捨てられたのだと認めたくないだけなのだろうか。


だとしたら。

自分でも笑ってしまう。


湯が沸く音がした。コンロの火を切りケトルを移動させる。


そして順序通りに紅茶をいれる。かつて母がいれてくれたように。

今はもういない誰かを思って。


「紅茶できたぞ」

「はーい」


タオルを肩にかけたレインの朗らかな声がする。それが妙に嬉しかった。



大体千文字前後を予定しています。

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