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Rain  作者: 野暮天
1/3

1st drop

とりあえず前作ににている部分も多くありますが生暖かいめで見てやってください。

昔話をしようか。何そんなに変な話じゃない。身近にあるごく普通のつまらない話だ。


今は昔、昔話は決まった文言で始まる。俺は子供のころはそれが不思議だった。なぜ昔の話と決め付けるのだろうかって。別にそれは今起きてたって不思議じゃないだろうって。

でも年をとってから気がついてしまった。昔話とは体だけが大きくなった人間の語る悲しい夢物語だと。理想を追いかけて挫折した人間が酩酊するために必要な思い出話だと。だから今は昔、なのだ。

多くの人間が語る。だけどそれが本当にあったことなのかなんて誰にもわからない。

だって今となってはすべて過去のことなのだから。


「クソッ」

その日も俺は悪態をついていた。天気は雨だし、傘は忘れるし、何もかもが最悪だった。

「またやられたか」

痛む腹部をかばうように俺はゆっくりと歩き出す。周りの人間も俺には目を向けない。それをありがたいと思う自分が少しだけおかしかった。

「俺なんていじめたって楽しくないはずなのにな」

誰に向かうわけでもなく一人ぼやく。文句を言ったところで誰かが聞いてくれるわけもないから八つ当たりというか憂さ晴らしだ。仮に誰かに話を聞いてもらったところで俺が生きている現実では何一つ変わらないのだから。

「寒いな」

冷たい雫がぽつぽつと俺の頭に落ちてくる。このまま風邪でも引いたらまずい。新しい雨具でも買おうかなと思い立ちすっかりぼろぼろになった財布を開ける。

「ってこの額だと我慢したほうがいいよな」

寒い懐加減を確認し至極当然の結論に達する。まあわかったいたことなのでさほどがっかりはしない。むしろやっぱりな、と自分の間の悪さに笑えたくらいだ。

大丈夫だ。俺の金がなくたって誰も困らない。地球は一日回り続けるし、太陽だって東から西に沈み続ける。ただ俺が困るだけだ。

そして俺が泣こうが喚こうが必ず明日はやってきてしまう。

「随分自虐的になったもんだな」

ははっと力のない声で笑う。思えば遠くまで来たものだ。昔は希望というものを確かに信じていたはずなのに、気がつけばそれとは程遠いものを追いかけるようになった。堅実さ、誠実さ、そんなものを信じていたこともあった。だがいくら堅実でも金を騙し取られれば無意味だと知ってしまった。いくら誠実でも相手にその気がなければただ利用されるだけだと学んでしまった。そういう人間はどこの世界にもいるのだ。

優しい人もいた。だけどその人たちだってただ優しいだけだった。庇ってくれるわけではなかったし、まして助けようとはしてくれない。

別にそれだって当然のことだ。みんな自分の生活がある。わざわざ身の危険を被ってまで人を助ける必要なんてない。それで痛い目にあったらなおのことだ。

結局のところ人は弱い。それは俺も含めての話だ。弱いから罪を犯す。弱いから適当にやり過ごす。弱いから自分の非を認められない。どんなに屈強な男でもどんなに繊細な人間でも、その弱さから人を傷つけ勝手に自分で傷ついていく。

だけどその弱さを認めてしまっていいんだろうか。それを何もしなかった自分の逃げ道にしていいのだろうか。

そんな答えがありそうでないことをダラダラと考えていた。


「大丈夫ですか」

ぼんやりしすぎていたようだ。少女が気遣わしげな表情で俺に声をかけてきた。

「ああ、すみません」

俺は適当に会釈をしてその場を去ろうとする。だが悲しいことに痛む体がなかなか言うことを利かず俺はたたらを踏む。なんだかみっともないことばかりだ。

「あの……傘どうぞ」

少女は小さい折りたたみ式の傘を手渡してくる。模様は花柄で男の俺が持つには不釣合いなものだった。

「いえ…本当に大丈夫ですから」

ここで出会っていつ返せるかもわからない。そういうのは苦手だった。

「気持ちだけいただいておきます」

まずい。体の痛みがひどくなってきた。雨の勢いも増してきて全身が熱を持って燃えるように熱くなってきた。

「ありがとうございました」

なんとか口だけは笑顔を保ち歩き出す。大丈夫だ。うまくいったようだった。

作り笑いなんて下手くそで笑ってしまうほどだけど。

ありがたい親切。だけど時々上手く受けとることができない。

俺は足早にその場を去ろうとしたが。

「あのっ!」

後ろから少女の声がする。彼女が追いかけてきて俺の腕をつかむ。

「もうひとつあるのでこれ使ってください」

「いや……」

「受け取ってください」

曇天の空には似つかわしくないほどその笑顔が眩しかった。



こちらは短めに終わらせる予定です。

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