免罪符
「病気じゃないの。老化現象なのよ」
母は笑った
私も笑った
何がおかしいのかわからずに
わかろうともしないで
母の笑顔の裏に居座る陰から目を逸らして
「どうすることもできない」を
免罪符にして
母の身体からゆっくりと確実に
生がこぼれていた
風のない朝、母は逝った
嘘だと憤る青い心と
お疲れ様でしたと労う心とが二つに割れて
私はどちらの味方にもなれなかった
ささやかな喜び、かなしみを
ひとつひとつ分け合った時が
奥深くに沈んでゆく
母の存在が過去へと落ちてゆく
それはあまりに早く止める術はなく
「どうすることもできない」の
免罪符を破り捨てても変わらず
成す術をなくした心は
ひしゃげた「何故」を叫ぶばかり
「魂は一瞬で好きなところへ行けるそうよ」
いつか聞いた母の言葉が胸の中で
輪を描いて広がり
私は小さな安堵のため息をついた