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夏生詩集3

免罪符

作者: 夏生

「病気じゃないの。老化現象なのよ」

母は笑った

私も笑った

何がおかしいのかわからずに

わかろうともしないで

母の笑顔の裏に居座る陰から目を逸らして

「どうすることもできない」を

免罪符にして


母の身体からゆっくりと確実に

生がこぼれていた


風のない朝、母は逝った

嘘だと憤る青い心と

お疲れ様でしたと労う心とが二つに割れて

私はどちらの味方にもなれなかった


ささやかな喜び、かなしみを

ひとつひとつ分け合った時が

奥深くに沈んでゆく

母の存在が過去へと落ちてゆく

それはあまりに早く止める術はなく

「どうすることもできない」の

免罪符を破り捨てても変わらず

成す術をなくした心は

ひしゃげた「何故」を叫ぶばかり


「魂は一瞬で好きなところへ行けるそうよ」

いつか聞いた母の言葉が胸の中で

輪を描いて広がり

私は小さな安堵のため息をついた







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― 新着の感想 ―
[一言] 夏生 さま 何故か胸が締め付けられながらも、最後のフレーズに私も安堵しました。 老いるって 当たり前な事ではあるけれど、何か寂しい気がします。 すみません。上手く表現できなくて…
2014/08/02 16:50 退会済み
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