弐話。
生まれは日本。
親が死んで、ヤクザに拉致られて、売られて。マフィアの親父から、殺し屋の訓練受けさせられて。さて、そろそろ彼女でも見つけようかって時に。
連れてこられたのは、魔法なんとか学校ですか。
君はハ○ー・ポ○ターに憧れてた、それだけだよねっ?
そう言う視線を込めて足元をチョコチョコ歩く少女を見る。
今、俺は召喚獣専用魔法、「束縛縛呪」と言うたいそうなものを掛けられながら移動中だ。
魔法はいたってシンプル。縄で亀○縛り。しかも、首から出てる縄を少女が持ってる。
「コレじゃあ犬だろ」
「に、似たような物です」
「酷いな」
「な、これが当たり前なんですからっ」
「嗚呼、そう。俺の人権なんてどうでも言い訳ね」
「あぅっ……」
顔を真っ赤に染め上げた彼女はなかなか可愛らしかった。だが、俺は今理不尽な状況下にいる。いや、むしろ常人なら理不尽どころでは済まないだろう。
……あー。昔、仕事で組んだ仲間に「魔法使い」なんて二つ名の奴がいたなぁ。
「つ、着きましたよう」
おどおどと話しかけるな。なんかこっちが悪いみたいじゃないか。
「はいはい。早く案内してくれ」
ここは素っ気無く対応。
「いきますよ。……失礼しますっ!」
ノックを盛大に鳴らして、勢い良く扉を開け……て足を踏み出した瞬間。急に扉が跳ね返ってきて、彼女の顔面にこれまた大きな音を立ててぶつかった。
鼻血出てますよ? 君はドジッ娘でしたか。
「おやおや、大丈夫かね? ミス・ヴェルロット」
おーおー。威厳の在るじいさんだな。マフィアの親父を思い出すぜ。
「やっと従魔の儀式が終ったのかいの? して、その従魔は何処に?」
一応、眼の前に変態プレイ風の男がいますよ、じいさん。これを無視しますか。
「こ、これです」
嬢ちゃん、人を指で指しちゃ駄目って教わらなかったのか? 後、人間をコレ扱いしない。俺だって一応人間なんだから。
「おお、珍しいのぅ。人間を呼び出す者は何年ぶりじゃろうなぁ……確か、四百年ぶりかのう」
「おぉうっ! じいさんが始めてだっ。俺を人扱いしたのは!」
ちょっと感激しちまったじゃねぇか、このじじい。
「そうかい、そうかい。そりゃ周りのものが迷惑掛けてすまんのう」
「や、大丈夫だ。……まぁ、アンタなら話になりそうだしな」
ここが魔法の在る世界だと言うのは、只今体験中だ。だから信じるとしよう。
「ここでは、魔法が在ると言うのは分かった。しかし、何故俺がここにいるのかが分からん」
「答えはいたって簡単じゃ。【偶然】と称されるか【呼んじゃった♪】みたいな物じゃ」
なかなか、お茶目なじいさんじゃネェか。嗚呼、殺りたくなってきたぜ? や、あえてハーフまでに抑えとくってのも在りだがな。
「こらこら、怖い目をするでない。どの道、もう戻れんのじゃから諦めた方が良いぞ」
「え、えと。学園長、私はどうすればいよいのでしょう? 従魔とは何か特殊な力を持って、主人を助ける物なのですよね? 人間に特殊な力があるとは思えません」
まぁ。経歴なら、それだけで映画が作れそうな俺なんだがな。
「案ずるでない。昔に見た人間の従魔は、半獣化の力で竜を素手で殴り殺し、肉を食っておったからの」
色んな意味でデンジャーだな、おい。
ん? 嬢ちゃんが横で震えてるじゃねぇか。やっぱまだガキか。
「って事は。俺は二度と自分の故郷に帰れないと?」
「そう言う事じゃな。向こうに何か残してきたものでも?」
にやり、と気味悪く笑うじいさんは、まるで俺の素性を知ってるように見えた。
「……ねぇよ、んなもん」
俺の発した「向こうの事は聞くんじゃねぇ」オーラが部屋に蔓延する。
「分かった、仕方ない。その従魔って仕事引き受けてやる。ただし報酬は貰うぜ」
ついつい、仕事を引き受けるような口調で言ってしまった。
「え? さ、さっきまであんなに嫌がってたのに……後、報酬ってなんですか?」
「なに、こっちで暮らすに不自由しない金と退屈しない程度のスリル、さ」
新しいご主人様……は学園長に目で必死に何かを訴えている。
「ふむ、スリルとな。それはワシ自らが用意してやろうぞ」
そっちは了承したな。……こっちに銃の弾はあるのだろうか?
「おお、お金は私と一緒に生活するので大丈夫だと思いますっ」
よし、契約成立だな。んじゃいつものいっときますか。
俺は、ご主人様の前で片膝を付き、頭を垂れる。
「汝との契約を承る。我が二つ名は「闇色の黒」汝と血の誓約を交わす」
少女はキョトン、としている。当たり前か。
立ち上がった俺は「なに、ただの癖さ」と付け加えた。
「ま、まだこっちの契約が終ってませんよぅ……」
まだあるのか? なんか色々面倒だな。
今度は逆に、少女が俺の眼の前に立ち、右手を胸に当てながら言い放つ。
「汝と契約を交わす。我が名はエルナ・セルロウ・ヴェルロット。受け入れるなら血を差し出せ」
……小さなナイフを突きつけられた。血を見せろって事か?
俺は指先を軽く切り、滴る血雫を前に突き出した。
更に、今度はエルナが指先を軽く切り、俺の指の切り口に押し当てる。
一瞬紅く光った後、その光は空中に文字を浮かべて消えた。
「終わりか?」
「ハイ、コレで正式な従魔に貴方はなりました」
「スノウ・ベルン中級学校学園長、シャールド・リトマンが見届け人になった。そちらの契約は正しく且つ公平に行われた事を証明する」
じいさん、そんな役割だったのね?
もう、用は無いからといって、ご主人様が部屋を出ようとしたので、俺も付いて行こうと扉を潜った時。
後ろから聞きなれ始めた老人の声が響いた。
「向こうにいる時は、何をしておったのかいの?」
……このじじい。
俺は答えてやることにした。隠しても仕方ない様な気がしたから。
「なに、しがない殺し屋さ」
そう言って扉を潜りきった後で、その部屋からは笑い声が聞こえていたのは誰も知らない。




