兄妹
今回はクリスマス企画最後の番外となります!
月虹さんより頂いたリクエストの、
フレイアと麗麟の出会いを書かせていただきましたっ!
実は、語り部がフレイなので、あんまりそんな気がしない、と思われるのですが…
楽しんで読んで頂けたら嬉しいですっ!
自身の目の色とそっくりな真っ青な夏空が視界の半分を埋める。
もう半分は、新緑に萌える、世界で最も大きく、古く、美しい木の梢。
緩やかに足元を流れる雲を視界の端に収めながら、徐々に視線を上空から前方へと向ける。
そこには徐々にその姿を現し始めた扉があった。
主要神だけが開けるこの扉、これを抜けないとアスガルドから出ることは叶わない。
本来なら誰でも開ける門を使いたいところだが、それだと最高神であり、義理の(数万歳年上の)弟でもある、口うるさいやつにここを出たとバレてしまうため、わざわざ苦手な魔術を使って扉を開いたのだ。
それもこれも、あの口うるさいやつからその妻に話が伝わらないようにするためだったのだが…
「おにーっちゃん!」
「……」
背後から楽しげな声が聞こえる。
是非、幻聴であれ!と願いながら振り向くとーー
「どこに行く気かな?私に聞かせて!!」
「フレイア…」
ーー自分と瓜二つの、世界で一番大切で、今一番会いたくない人物が満面の笑み(しかし、目は笑っていない)で立っていた。
「…今日は旦那様とデートじゃねえのかよ?」
「そんなの、忘れてた(ことにする)に決まっているじゃない?」
「……悪女だ」
「んん、なあに?私の新しいオリジナルの内容が知りたいって?」
にこにこと俺の俯けた顔を覗き込んでくるフレイアに手と首を同時に横に振りながら拒否する。すると、遠慮しなくていいのに、と言いつつもなんとかそれをすることをやめてくれたらしい。助かった。
「で?どこに行く気だったの?」
「…えっと…あれだ、オーディンに頼まれて第二層まで…」
「…ふむふむ、第二層以外は嘘かぁ」
バレッバレ。
びっくりするわぁ…。
「お前…前までは人の隠してる感情がわかる程度だったじゃねえか、意思伝達魔法の精度は…」
「ふふふ。人は成長するものだよー?」
人じゃないけどね、とフレイアは付け足した。
「本当のことを言ってごらん?お兄ちゃん。成人してない神が守られたとこを出てまでしたいこと、気になるなっ!」
「…成人してなくても、もう、主要神だし、外に出ても大丈夫だろ?」
てか、主要神になる前から俺は脱走しまくりだが。
俺とフレイアはまだ成人していない子供だ。
双子だから当然同い年。91歳だ。
神は成長が遅いから100歳で成人を迎える。まあ、成人してからがかなーり長いんだがな。
てか、制限はない。
主要神ともなると、命の危険なところに行くのにも関わらず、死んだものは過去に一人もいないのだ。
元主要神のあの爺さんは、俺らと入れ違いだからどうかは知らねえけど、多分、死なねえんだろうしな。
あれで普通の神に下るとか、マジでチートなんですけど。
まあ、それは今は関係なくて…
「うん、お兄ちゃんは主要神になる前からガンガン出てるとか、私がそれを咎められない立場にあるとか、そんなことは言わないよ」
「…あ、確かに。お前、放浪癖の所為で結婚してんだろ?」
「……私が流した話を蒸し返さないでよ、もうっ!」
ぷうっと頬を膨らませて見せてくるが、何度か適当に謝ると機嫌を直した。
単純なやつだ。
「じゃあ、放っておいてくれよ?…やべ、扉消えるじゃねえか」
そう言って、扉を潜ろうとしたとき、はしっと服の裾を掴まれる。
「ちょっと、待ってよ」
「……なんだよ。俺はいそがし〜んだよ」
これは本当。正直、かなり時間がない。師々でとばすしかねえな。
「…人間界に行くのなら、止めるよ?当然でしょう?」
「……」
やっぱ、バレたか。
いや、はじめからそう思ってたんだろう。
「人間界への干渉不可。主要神の数少ないルールだよ?守らないと…」
「バレるようなミスしねえって」
俺はフレイアの方を見ずに答える。
まあ、すでにフレイアにバレているわけだが。
「…それに、成人前の神が人間に触れたら、堕落するんだよ?主要神やめて堕天使にでもなるの?」
「…そんなミスもしねえって……多分」
これは強がりきれなかった。今日はその可能性がとても高いからだ。
最悪、フレイアにももう二度と会えなくなるかもしれない。主要神にとって、堕天使は討伐対象だから。
当然のことながら、そうなったら俺は全力で逃げる所存だ。
今いる主要神の中で勝てそうもないのはこいつの旦那とむきむきのオッさん、それに大女神だ。フレイアとは絶対に殺り合いたくないし、フレイアもそれは避けるだろうから問題ないが、もう一人の男はどうだろうか。案外、奴が最も早く動くのかもしれないが、動かないかもしれない。それどころか手助けさえしそうだ。
それでも、先にあげた三人には勝てねぇだろうな。
だから、堕天使に堕落のはなるべく避けたいところだ。
そして、それはーー
「…どうしても行って言うなら、私も行く」
「…はぁ、どうせ言い出すだろうと思ったよ」
ーーフレイアには、どうしても避けてもらいたいところだ。
今回だけは、連れて行けない。
「ダメだ。俺だけで行く」
「むっ、なんーー!……へ?一人で行くの?」
ダメ、という部分に反応したと思ったら、一人で行く方に反応した。
背中を嫌な汗が流れる。
やばい、嫌な予感しかしない…
「ふふん、わかった。じゃあ、いいや」
「あ?どういう意味だよ?」
急に強気になったフレイアを軽く睨んで返答を促す。しかし、フレイアはもうすることは終わったとばかりに両手を俺から離してひらひらとした。
「行っても無駄だよ。お兄ちゃんはあそこに入れないもん」
「あ?なんでわかんだよ?てか、いっつも余裕ですけど」
何と無く悔しくなって言い返す。
俺たちの喧嘩の始まりは、いつもこんなものだ。世界を半壊させる勢いで喧嘩をするから、いつもはこの時点で誰が止めに入るのだが、今日はそれをする人もいない。
「最後に行ったのいつ?」
勝ち誇ったように言うフレイアに俺も胸を張って答える。
「二週間前だな。まあ、俺にとってはあんなのチョロい…」
「じゃあ、やっぱりお兄ちゃんには、無理だよ。一週間前に張り替えがあったの知らない?」
俺の台詞に被せるように言ったフレイアの台詞に俺は時を止める。
「……は、張り替え?一週間前に?…まさか、とは、思うけど…」
今度は頬を嫌な汗が伝った。
「うん、まさか、だよ。最近私が作ったオリジナル、何か知りたい?」
初めの会話に戻りつつ、フレイアは満面の笑みだった。
もちろん、聞かなくてもわかってる。最近にこいつが作ったオリジナル。それは、
「絶対防壁って言うんだけど、ここと、人間界の兄妹品で張ってるのよ」
俺には絶対に解除出来ない結界だった。
「********」
俺の後ろから軽やかに歌うような詠唱が響く。
やがて、ポーンと言う高く澄んだ音が聞こえてきた。それと同時に詠唱も止まる。
「できたよ、お兄ちゃん」
俺の腰に左手を回したフレイアが俺の顔を見るように覗き込んでくる。今、俺たちは師々に乗って人間界の上空、アスガルドの真下にいる。
俺は軽く振り返って頭を撫でながらお礼を言った。
「ありがとう、フレイア。じゃあ、帰っていーー」
「お兄ちゃん?約束、守ってくれないとこの結界の防御反応を使うよ?」
それはやばい。俺は笑顔を引きつらせた。
フレイアは攻撃魔法専門だから、この防御結界も素材は範囲攻撃魔法だ。
もちろん、防御としての性能はピカイチ。ただし、それは、解除コマンドなしにこの結界に触れたモノ全てを消し炭にするという方法で成される。
……怖過ぎる…俺は魔法攻撃に耐性が低いから余計に…
「……けど、今回は本当にやばいんだぞ?ガチで堕天になったらどうすんだよ」
俺は帰すことを諦めて言った。
まあ、この命に代えてもフレイアだけは無事に返すけどな。
…人間相手にこの覚悟は無駄かな。
「そのときは、そのときよ。2人で世界中を逃げ回りましょう?」
そんな俺の気持ちなど露ほども知らず、フレイアは眩しいほどの純粋な信頼を滲ませた笑顔を見せた。
…全く…。
この可愛さが、今回は命取りなんだよな…。
「んぅ?人身売買?」
「そ。お前、奴隷って知ってるか?」
俺とフレイアは目的地である、人間界の央都と呼ばれる街にいた。そこで軽く食事を取りながらの会話だ。
まあ、本当はフレイアにこんな言葉を学んで欲しくはないが…
「んー……あんまり知らない…言葉を聞いたことあるかな、ってくらい」
「そうか……説明…」
あんまりしたくないなぁ。
仕方ないか。
俺はフレイアに奴隷の説明と今日ここに来た理由を話し出した。
ことの始まりは、二週間前。
俺がここの街を上空から観察したときのことだった。
「ん?なんだあれ?」
異常なまでに厳重に張られた結界と、多くの人間のいる気配。
俺も一応フレイアの兄だから意思伝達魔法を生まれつきで持っている。まあ、フレイアみたいに磨こうとしていないから人の大体の感情がわかる程度なので、利用方法は少ないのだが。
そんな俺の意思伝達魔法がそこから感じ取ったのは、歓喜と絶望、という正反対の感情だった。
「…ヤーな感じ……」
俺はそれに嫌悪感を覚えて、そこを偵察に行ったのだった。
そこで行われていたのが、人身売買。
10歳にも満たないであろう少年少女たちが泣き叫んで抵抗するものの、次々に買われて行く。
見ていると、少年少女たちは皆、封魔の腕輪をつけられ、手足を縛られていた。
一人一人客が見て、触って、話して選んでいるらしい。
「胸糞悪りぃ…」
母親や父親、時々兄や姉を呼んで泣いている子が多いところを見ると、孤児とかではなく、誘拐してきた子達だろう。
幸せな家庭を取り上げ、人としても扱ってもらえない辛い環境に叩き入れる。
それなのに、辛いのは子供達だけでそれをした奴らは金をもらっていい思いをするのだ。
大人たちの都合で母親と引き離された俺は腹が立っておかしくなりそうだった。
「潰してやる…」
それも、この建物を壊すだけじゃダメだ。徹底的に潰してやる。
そのためにまず、俺はここに潜入することにした。
「ふぅん…それは……確かに気分悪いね。どうやって潜入するつもりなの?」
フレイアは俺に作戦を問う。
昔から、好奇心旺盛で俺がやるイタズラには必ず参加してきた、困った妹。
今も、気分良くないと言いつつ、その顔はわくわくと期待に満ちていた。
もちろん、気分悪いというのも嘘じゃないんだろうけど。
そんな、可愛くて困った妹に俺はニヤリと笑いかけて言った。
「考えてなかった」
「……」
「……」
空気が死んだ!
だって、俺は主催者側に入れねえし、売られる子供にしては歳行きすぎだし、そもそも、あいつらに捕まったら絶対に身体触られるから堕天使になるんだよな。
俺はともかく、フレイアを巻き込むわけにもいかない。
俺は魔術もあんまり使えねえしなぁ。
「…はぁ、これだから、お兄ちゃんは世話が焼けるなぁ」
フレイアが呆れたように両手を広げる。しかし、その声は何処か嬉しそうだった。
そう、俺も今、少し楽しい。
幼い頃、母国の友達たちと遊んだ時、イタズラを考えるのは俺、細かい作戦を考えるのはフレイア。
いつもと同じ、長い人生の暇つぶし、娯楽だ。
「いい考えがあるのか?」
俺の期待のこもった台詞に、フレイアはニヤリと微笑んだ。
「もちろん。私を誰だと思っているの?」
自信満々の台詞。
わざわざ飲み物を飲んで一拍入れてからフレイアは作戦を簡潔に言った。
「…ふふ、私たちは、子供に紛れましょう」
不衛生な小屋にびっしりと10歳にも満たない程度の少年少女たちが詰め込まれている。
今日ここに連れて来られた商品たちだ。
「へへ。これでまた稼げそうだな」
「おうよ。まだまだ稼ぐぜぇ……ん、なんだ?」
その光景をニタニタと笑いながら見ていた男2人に1人の男が近づいてきた。
「実は、行く当てがなくなって、今晩だけ止めて欲しいって双子のガキが来まして」
「…へぇ……売れそうか?ゴミか?」
期待するような目でやってきた男を見る男、ゲルドにやってきた男はニタリと笑った。
「とんでもねぇ上玉でさぁ。まだ、7歳ってとこでしょうが、妹の方は絶世の美女になりやすぜ。兄貴の方も、妹と全くおんなじ顔してるんで、ゲイとかの野郎に高く売れやす」
「へへっ!そりゃあ、神様の御恵みってやつだなぁ…すぐにクラス診断とレベル判定しておけ。魔道士なら、レベルに関わらず封魔の腕輪するんだぞ。剣士とかなら…まあ、10以下なら大丈夫だろ。縛り上げて別室入れとけ。ただし、傷だけはつけんなよ」
ゲルドの指示を隣で聞いていたもう一人の男、サシラは怪訝そうな顔をする。
「ん?けど、別室にはこの間のガキ共入れてんじゃねえか?」
「あ…そういや、あいつらまだ売ってなかったな…まあ、いいや。一緒に入れとけ」
この間のガキ共とは、先日誘拐してきた孤児の兄妹のことだ。8歳と4歳の超美形。高額で売ろうと毎回出品しているのだが、いつも望む金額に達しない。その要因は、容姿以外に価値がないからだと、誰でもわかった。クラス診断をすれば、異例のクラスなしという結論が出、レベル診断をすればそれすらないという。魔力もなければ筋力もほとんどない。お陰で、ゲルドはもうほとんど忘れていた。
「了解しやした!」
下がって行く男を見ながら、ゲルドは嗤う。
「今度のは魔力とかありゃいいな」
「筋力はなくていーがなぁ」
商品の管理を任されているサシラとしては、変に力があると困る。魔力は少々なら封じられるのだ。ガキなら問題無い。サシラも一流の剣士なので、多少筋力があってもそこまで困るわけではないが。
「高く売れりゃ、お前の分け前も増える。文句ねえだろ?」
「ふん。まあな」
そうして、2人はいやらしく笑うのだった。
(うふふ、案外チョロかったわね)
(お前の魔法のお陰だな。まさか、自分の身体をコーティングする魔法があるとは思わなかった。助かったよ)
先ほど、主にフレイアが話すことによって無事、俺とフレイアはやつらに囚われることに成功した。しかしそれは、あからさまに触れられることを拒んでいたら出来なかったことだろう。本当に、フレイアが魔法全般をあつかえることは僥倖だった。
その後にあったレベル判定では、俺とフレイアは能力隠蔽を使ったわけでもないのにレベル1と判定されている。なぜかはわからないが、男どもが明らかに残念そうな顔をしていたから、いい方に転んだようだ。
(ところで、なんでお前が戦士なんだよ?)
レベル判定と同時に行われたクラス診断にて、俺はもちろん剣士だったのだが、フレイアが戦士だったのだ。
もちろん、フレイアの正式なクラスは魔道士だ。それも、超一流の、魔道士の上位職、聖魔術師だ。
これにまだ74歳の時になってるんだから、我が妹ながら、恐ろしい才能だ。
(何言ってるの。お兄ちゃんなんか、61歳の時には剣士の上位職、聖魔道剣士になってるくせに)
バッチリ思考を読まれていた。
恐ろしいやつだった。
(私のクラスは、魔力量もその要因になるからね。さっきは魔力を少しも出さなかったから、そのクラスに振れなかっただけだよ。まあ、困ったことに魔力の質も要因だから、少しでも、ほんの少しでも漏れると聖魔術師に診断されちゃうんだけど)
(…ほとほと呆れるよ、お前の才能には)
魔力の質は長年の鍛錬や持っている魔法のランクなどで決まる。こいつは全部ではないが、大半がオリジナルだからな。自然、質もよくなる。
(まあね。封魔の腕輪なんてされたら、気が狂っちゃうからね)
(あー、お前唯一の欠点な)
高レベルの魔道士には間々あることだが、魔力を、一定時間使用しないと気が狂ってしまうそうだ。魔力操作ができなくなり、魔力爆発で自爆。辺りに持てる魔力全てを使って最大限に被害を撒き散らして死んでしまう。
それが、その職を極めたクラスの魔力だ。
最悪、人間界丸ごとなくなる。
俺はそれでもいいけどさ。あいつは怒り狂うよな。
(うん。オーディンは怒るね。怖い怖い…あはっ!)
旦那が怒り、戦うことになるのを想像したのかフレイアが楽しげな声を上げる。
うん、そうだな。お前は狂っても理性は失わず、防御魔法を発動して自爆を逃れるかもな。
反則かっ!!
そんなやり取りをしている間に俺とフレイアは縛り上げられ、暗い部屋に叩き込まれる。フレイアが言っていた通り、俺もフレイアも封魔の腕輪は付けられていない。
一応、俺も魔法を使えなくもないし、何の問題もないな。いざとなればいつでも逃げ出せる。
「これから、どうすんの?」
「…とりあえず、自己紹介からかな?」
発光、とフレイアが呟いた瞬間、部屋全体が明るくなった。
すると、もちろん、気づいていたが、2人の少年少女の姿が浮かび上がる。
『ひっ?!』
『あ、あなたがたは、誰ですか!?』
「「!!」」
小さな女の子が幼いながらもしっかりした感じの男の子の背に隠れる。男の子は必死な顔でこちらにそう叫んでいた。
……天界の言葉で。
(おっとお…流石にこれは予想外だね……)
(あ、ああ。まさか、人間界で天界の言葉を聞くとはな…)
実は、神や精霊、妖精などの第一層に暮らす者は他の言語という概念がない。言葉には力が宿り、その力は相手に意思を伝える。そういうものだからだ。
ただ、人間や巨人にそれは出来ないらしいので、他の言語は存在する、という認識はあるのだが。まあ、それも、第一層のやつらは全員、感覚で聞く方にも力を回せるので、会話に問題はない。ちなみに、文字の場合、下に意訳が載る。
問題は、天界でも滅多に聞けない天界の言葉をこの2人が扱うことだ。
天界のやつらが全員、力で会話するのに何故天界の言葉と言われるものがあるのか。その理由は簡単だ。
産まれたての者が使う言語だから。
誰でも最初から力を使いこなせているわけではない。それに慣れるまでは親役に当たるものは力を切って子役と会話をし、言葉を教えるのだ。そして、それにも例外がある。
(…生まれ持って多少の知識が存在する…俺らはまだ持ってないが……聖獣はそんな存在だったよな?)
(ええ、だけど、聖獣は神の呼び出しに答え、この世に生を受ける存在だよ?生まれてすぐに主を持つはずなのに、こんなところに?)
(…うん、聖獣がこんなとこ、いるわけねえよな…たまたま、神が遊んでやってた子供なんじゃないか?)
神は時々暇だからと孤児の面倒をみたりする。その際に、天界の言葉を教えたのだとしたら、十分に天界の言葉を扱う理由にはなる。
(なるほどね、あり得る)
フレイアは納得したらしい。俺もそれでとりあえずは納得することにした。
(それにしても…かっわいいね……)
フレイアはにこにこと2人を見ている。そんな妹を見てため息をついた。
ダメだ、こいつ、可愛い物好きだったの忘れてた。
確かに、その兄妹はとても可愛かった。
整った顔立ちに真っ白な髪、そして色素の薄いグレーの瞳。
幼いが、綺麗と形容できるほどの容姿を持っていた。
(しっかし、変な色だな?どの属性にも含まれてないだろ?魔力なしか?)
(うん。魔力は少しもないみたいだね。というか、全体の能力値が低過ぎる?)
(ああ、とても剣士にもなれそうもないしな)
白なら治療魔術の色だと言えなくもないが、瞳の色素まで薄くなるほどその魔力を持っているならフレイアが気づかないはずがない。
生まれ持った色がこの色なんだろう。
『『……』』
(うわぁ…めっちゃ怯えてるわぁ…)
(話しかけねえ方が良さそうだな)
(うん、そうだね)
その後、ここに近づく音がしたため、光を消しておとなしく一晩を過ごした。
「…本当、気分悪い」
「…同感だ」
目の前の光景を見て、フレイアは憎憎しげに顔を歪ませた。
腕を縛り上げられ、頭上にくくり付けられた子供達を何十人もの大人達がマジマジと見たり触ったりして選んでいる。
俺とフレイアは奥の方にくくりつけられているので、まだ周りに大人はいなかった。
「…あ、昨日の子……」
フレイアの声にそちらを見ると昨日の兄妹の片割れ、兄の方が大柄な男に連れて行かれるところだった。
首に鎖を付けられ、金と交換にその鎖を渡される。
その顔に悲しさはなく、ただ不安だけがあった。
そして、視線は昨日の妹の方へ注がれている。
ああ、心配だよな…。
俺はあいつの気持ちが痛いほどわかった。
自分だけ売れてしまったから、妹がどんなやつに買われるのかわからないのだ。もちろん、そこでの扱いもわからない。
俺も同じ立場になったら何するかわからねえな。フレイアだけは、絶対に守ると、母さんとも約束してるし。
(心配しないでよ)
不意に、フレイアからそんな意思が伝わってきた。昨日のやり取りでもだが、俺たちは最近に主要神が共通して持つようになったピアスの機能で個人指定の意思伝達を行っている。
隣を見ると、困ったように微笑んだフレイアの顔があった。
(心配するよ。絶対に、堕天になんて堕とさねえから)
(うん。もう、コーティング魔法の魔法道具がないからね)
実は、コーティング魔法には詠唱と魔法道具が必要なのだ。残ってた分のコーティングはここにくくりつけられる時に消費してしまった。
だから、あの下衆共に触られればその段階で俺もフレイアも堕ちることになる。
(…彼、大丈夫かな…)
フレイアは一切不安を感じていないらしく、連れて行かれるあの男の子を心配そうに見つめていた。
しばらくして、俺らの前に大人達が集まり始めた。主催側だろうか、男が俺らに触るのを規制してくれていて、今の所は大丈夫だ。
「さて、皆様。ここにいる双子は2人とも一千万は下りません。これ以下の資金の方は下がってください」
大体集まってきた頃、主催側の男が言った。それを聞いて悔しそうに何人かの大人たちが去って行く。そのまま他の子供達を見に行ったようだ。
「…もう、諦める方はいませんね?それでは、どうぞ、見聞し、競りを始めましょう」
(うわぁ…とうとう来たねぇ…)
うんざり、と言った顔でフレイアが意思を飛ばしてくる。俺は小さく頷いてフレイアを見つめた。少しでも触れられたらどうしよう、不安でいっぱいになる。
しばらく俺らを眺めていた大人のうちの一人が何かに気づいたように眉を潜めた。
「…ん?この2人は封魔の腕輪をしていないようだが?」
すると、主催側の男はバツが悪そうに答える。
「この2人は2人とも、魔力がありません。クラスは剣士と戦士。この髪や目は自の色のようですね」
それは、俺とフレイアが昨日した行為の影響だったようだ。確かに魔力はないように設定したし、髪や目は自の色だが、魔力がないわけではない。俺も普通に人間の一流魔道士くらいは持ってるし、フレイアに至っては俺の数倍…いや、数十倍は持ってる。
「…なら、もう少し安くてもいいんじゃないのかしら?」
質問をした男の隣に立っていた女が言う。
主催側の男はイラついたような表情をして答えた。
「この容姿の子供を安く売るつもりはございません。このまま育てて身売りさせてもいいんですから。金額にご不満があるのなら、他の子供達をお買い求めください」
「……」
それを聞いていた何人かがさらに離れて行く。それでも、ここに来ている客の半数以上がここにいるだろう。
(意外に固いね、彼。まあ、高く売りたいんだろうけど。でも、触るのを規制してくれるのは助かるよね。お兄ちゃん、このあとどうする?)
フレイアがチラリと俺に目配せをしながら問う。俺は少し顎を引いて、そのあと辺りに視線を飛ばした。
(ここにいる大人ども、全員殺るぞ)
そういう意味で行ったその行動を正確に理解したフレイアは隠しもせずクスクスと笑い、意思を飛ばしてくる。
(ふふふ、そう来なくっちゃ。了解だよ)
タイミングは任せる、とフレイアが言ったので俺は少しだけ頷いて大人の観察に戻った。
フレイアは一心に一点を見つめていたのだが、放っておくことにする。
「確かに、容姿はかなりのものですな。二千万で如何です?」
「…いや、俺は三千だそう」
「…さ、三千…なら、三千五百だ!」
「刻むな見苦しい。五千だ」
「……他、いらっしゃいませんか?五千以下の方はお下がりください?」
すると大幅に減ったものの、未だに何人かが残る。
「どうぞ、お手にとってお確かめください」
そこでようやく主催側が接触許可を出す。
五千と言った男が嬉しそうにフレイアに手を伸ばした。
その瞬間の事だ。幾つかの出来事が立て続けに起こった。
カシャンッ!
まず初めに金属の粉砕する音が聞こえ、
(ごめん、魔法使うっ!)
フレイアの切羽詰まった声が聞こえ、
パンッ!ぐちゃ…
ドゴォンッ!
そんな音が同時に聞こえ、
「その子に何してるのよ!」
「汚い手でフレイアにさわんな」
俺とフレイアが同時に言い放った。
「ひっ!な、何??」
「あ、あ、あ?俺、俺の手が…???」
「………?」
あたり一体には疑問符が溢れかえっていたが、やがて腕を抱えた男が地面に転げ回り、静まり返った空間で一人騒ぎ散らす。
「うぎゃあーー!」
そんな、汚い声を聞きつつ、俺はフレイアの鎖を解きにかかる。
まず、状況を説明しようか。
俺はフレイアに触れようとした男の腕を叩くべく、俺の腕を縛り上げていた鎖を引きちぎった。
本当ははなっからそう出来たのだが。
そして、そのまま叩こうとしたのだが、触れるのはダメだ。堕ちることになる。故に、俺は腕に絡みついていた鎖でその汚い腕を殴った。
軽く振った程度だったのだが、怒りのせいで鎖に魔力を纏わせていたようで、叩いた途端、その腕が弾けて消えた。
そして、フレイアは何をしていたのかと言うと…
「大丈夫っ!?」
俺が鎖を引きちぎるなり、フレイアは俺の方も見ずに駆け出して行く。
そこには大きな焦げ跡と腰を抜かしたあの兄妹の片割れ、妹がいた。
どうやらフレイアはあの子が心配でずっと見ていたらしい。そして、あの子を買い取った男が鎖を引いて連れて行こうとしていたのを、俺の指示があるまでとずっと歯噛みして見ていたのだが、その男が
「トロトロ歩くなっ!」
と怒鳴り少女の頬を叩いた瞬間、限界を迎えたようで魔法を使用したらしい。
少女は無言でこくこくと頷いていて、それを見たフレイアは嬉しそうに微笑んでーー
ドンッ!
ーー俺の方をチラリと見たと思ったら、後ろから凄い風圧が来た。久々に幼い身体になってあまり慣れていない俺は容易く飛ばされる。
「っと、大丈夫?お兄ちゃん?」
「…っくそ!」
フレイアに抱き留められて少し悔しく思う。
そして、振り会えるとそこには、
ぺしゃんこになった元人間だと思われる肉塊があった。
「ふふふ、私以外の誰かがお兄ちゃんに触れる?ふざけるんじゃないわ…」
「……」
どうやら、あの男は俺に触れようとして来たらしい。
いや、まあ、正気に戻った人間がいたらいきなり腕を消滅させた子供を捕まえようとするよな。
それが気に食わなかったらしい、フレイアは。
結果的には俺はフレイアのおかげで堕ちずに済んだんだが…御愁傷様、人間。
「何したんだ?」
「別に?無詠唱でできることしかしてないよ?女神の御慈悲だよ。ふふふ」
「……」
やばい。妹がとても怖い。
フレイアが使った魔法は空間切り取りの魔法と爆発系魔法を組み合わせたもの(これを無詠唱、そして同時進行で組み合わせる。一瞬で。マジで引いた)と具現化魔法で重い文鎮のようなものを叩き落とすものだった。
真後ろにいきなりそんなもんが降ってきた気圧で俺は吹き飛ばされたようだ。
「な、なんだ?何なんだ!?お前ら、魔法??えっ?ええっ??」
取り乱す主催側や客どもをフレイアの視線が一線した。
同時に、見られた奴らの身体が燃え上がる。
「残りはお願いしていい?お兄ちゃん?」
「ああ、いいぜ。元々全部俺がする予定だったし」
言うが早いか、俺もフレイアも本来の18ほどの姿に戻る。同時に服装もいつもの簡素なシャツとベスト、ズボンに戻った。
「ひっ!?ば、化け物?!」
「はっ!失礼なこと言うなよ、仮にも俺らはーー」
緩やかな動きで空間魔法を開け、愛刀、キラサギを取り出す。鈍色の光を放ちつつ、恐慌状態の奴らに向けてニヤリと微笑んだ。
「ーー神だぞ?」
さて、久々に暴れるかっ!
「やれやれ、お兄ちゃんはまだまだ子供だなあ」
さっきまでフレイ以上に暴れていたフレイアが自分のことを棚にあげて呟く。
「大丈夫、立てるかしら?」
言って、優しく微笑み手を差し出す。腰を抜かしていた少女はその手を呆然と眺めた。
『何者…なんですか?』
「ふふ、さっき、お兄ちゃんも言っていたでしょう?神だよ」
『神…?』
「ふふ、そうそう、神。あなた、お名前は?」
『……』
「? 気分でも悪い?」
どんどん顔色を悪くして行く少女にフレイアは首を傾げた。
少女はこくんと小さく頷く。
『血が…ダメなんです…』
「…?へぇ、お爺様の聖獣みたい」
『聖獣?』
「何でもないわ」
フレイアは少女の小さな身体を抱き上げる。成長させた身体なら、このくらいは問題ない。
一瞬、忘れてしまっていたけれど、堕天使に堕ちることはなかった。
…やはり、この子は普通じゃない?
「じゃあ、移動しましょうか?」
『あ、あのぅ…』
「?どうしたの?」
『…私やお兄ちゃんが言ってるの、わかるんですか?』
「ああ、うん。わかるよ?」
答えつつ、兄の方をチラリと見る。すると同時にフレイもこちらを見ていて、目があった。
ーーこの子連れて、お兄ちゃんの方助けに行く。残りの子供、お願いね?
ーー了解した。俺もすぐに行く。
目線だけでそんなやりとりをする2人。はっきり言えば、この2人に意思伝達の道具は必要ない。
『みんなわからなかったのに…どうしてですか?』
『私も同じ言葉を使うからよ』
『えっ?』
目を丸くする女の子に私は微笑みかける。
『ふふ、大丈夫、安心してね?さぁ、お兄ちゃんを助けに行こう』
そう言って、私は探索魔法をかけた。
フレイアが少女を抱えて出て行った。
一瞬心配したが、どうやら、堕天の烙印は入らなかったらしい。
もしや、本当に聖獣なのか?
「…いや、まさかな」
チンッと音を立ててキラサギを鞘に収める。帰ったら手入れしてやらないと錆びるな。
「さて、ここにいた大人どもは全員殺ったな?よしよし」
スッキリしたので、次の作業に移る。
「きゃあー!やぁ!来ないでぇー!」
近づいた途端、女の子が悲鳴を上げる。
いやいや、鎖解くだけだから。絶対さわんなよ。
俺は泣き叫ばれつつ、全員の鎖を切ったのだった。
うぅ、なんか、助けたのに無駄に傷つくな。
「うぎゃあーー!」
「あはっ!怖いの?そんなに怖がらなくてもいいんだよー?」
『『……』』
「……何やってんの?」
建物の外に向かうとフレイアが楽しげに地面に悶える男を見て笑っていた。
まだ手をかざしてるってことは闇属性の精神魔法か。あれで悪夢でも見せているのだろうか。
その後ろではあの兄妹が無言で楽しげなフレイアを眺めていた。
てか、引いてね?
「あ、お兄ちゃん!お疲れ様!…うん、堕天の烙印は押されなかったみたいだね?よかったぁ。あの作業が1番その可能性があったから…さっすがだよ、お兄ちゃん!」
「あ、うん。そうだね、うんうん。ありがとう。ところでフレイア?何やってんの?」
「? 悪夢迷宮だけど?」
「っ!?お前っ?!それは酷いだろ??!」
「?なんで?」
悪夢迷宮とはフレイアが作った精神攻撃系の中でも最もたちの悪い魔法だ。術者は何もしない。ただ、相手にその魔法の術式を流し込み、魔力を入れ続けるだけでいい。残りはやられている本人が勝手に、見たくないものを作って頭に流してくれるのだから。
深層心理で本当に恐れているものを見せ続けられるってのは、かなり辛いものがある。
そして、フレイアはそれを使うのが好きだった。
そう、みなさんお気づきの通り。
フレイアは、ドSです。
いや、どうでもいいと思っている相手にだけだ…と思いたい。
「そのくらいにしといてやれよ」
「…ん?んー、はーい」
フレイアが魔力を流すのをやめた。
と、同時に男は生き絶えた。
っておい!
「なんで魔法やめたら死んだんだ?」
「…魔法で生かしてたからだよ?」
『『……』』
「…そ、そうですか」
フレイアの怖いところ、久々に見た気がする。
いろいろと収集をつけ、子供達の処置をこの世界の奴らに任せ、俺とフレイアはあの兄妹と共に昨日も来たカフェにいた。
『『……』』
「「……」」
空気が重い。
フレイアがにっこりと微笑んで衣服を渡したからか、あいつらに着せられていた服よりもずっとまともな格好になっていた。
「…さてっと、まずは、お前らに自己紹介をして欲しいんだが、お前らは何だ?」
『……』
妹の方が不安気に兄をみる。兄はふぅ、と息をついて言った。
『私たちは麒麟、です。それがどう言った存在なのか、それは、なぜか生まれた時から知っているのですが…私は、生まれた時周りに誰もいませんでした。主に呼ばれるはずなのに…どうしていいかわからず、いるべき場所を求めて旅をしていました。その途中でこの子が生まれました。私は私と同じように混乱しているこの子と共に、旅を続けていましたが…情けないことに、さらわれてしまいまして…』
意外なほどに饒舌に話してくれた。妹と意外だったのか驚いた顔をしている。フレイアは終始にこにこしていた。
(んー、本当にお爺様の聖獣とおんなじだったね…)
(ああ。だが、麒麟なら転変して上がってくればいいものを…あ、いや、転変の方法を知らないのか?)
(うん。その可能性が高いかな…普通、麒麟は生まれた時は獣の姿をとってるはずなのに、人の姿だからね)
(……どーすっかなぁ)
(…お兄ちゃん、私は賛成だよ?)
フレイアは勝手に俺の思考を読んだらしい。
本当、厄介な力を厄介なやつが持ったものだ。
「お前らがよかったら、俺らに仕えろ」
『『!?』』
「私たちは、さっきから言ってるように一応神なんだ。だからね?一応、貴方たちの主になる条件は満たしているのよ?」
本当は、神は成人を迎える時に神器と聖獣を持つ。それに、それだって望まなければ持たなくてもいいのだ。
まあ、俺らは主要神だから、神々のルールなんて基本的にスルーなんだが。
『…だ、だけど…!』
『お兄ちゃん!』
何か言いかけた兄を妹が止めた。初めて聞く、大きな声で。
『私…その人に仕えたい…要るべき場所に、行きたいよっ!』
『……そうだな…』
妹の必死な顔に驚いたのか、暫く黙って目を見開いていたが、やがてそう呟き、椅子から降りて膝まづいた。
『『御身を離れず、永久の忠誠と信頼をここに誓う』』
麒麟が主に使える際の儀式だ。
これをしないと門を通せない。
「「認める」」
「俺は、代償としてお前に俺の持つ全属性の魔力をやる」
「私は、あなたを名で縛ります。麗麟、そう名付けると同時に、あなたに私が持てる治療魔術の魔力全てをあげましょう」
俺とフレイアはにっこりと微笑んでそう言った。
そのときから、2人には色がついたのだった。
本人たちが望む色が。
「で、お前はわざわざ旦那とのデートをすっぽかして何をしてきたんだ?」
「ん?聖獣を助けて来たのよ?」
そして今、オーディンの玉座に至る。
俺とフレイアは面倒そうに立っていて、その後ろではあの兄妹が平伏していた。
立てと言っても立たないのだ。
「…で?フレイ。お前はフレイアを誘って、あろうことか人間界に行って来たのか?」
「そうだが?」
まあ、あれだ。行く前にそんなヘマはしないと言っていたのに、フリッグとオーディンの合同魔法でガンガン暴露てたってのが、この状況の原因だ。
てか、主要神同士で合同とか、ズルすぎ。
「…お前は日常的に行っていたのか?主要神のルール、覚えてるか?」
「まあ、行ってたな。そりゃ、ルールくらい覚えているが…あれだぜ?ルールは破るためにあるんだぜ?」
「知るか!あいつみたいなこと言うな!」
「ああ、お爺様のこと?確かに、お爺様なら言うかもね」
呆れ顔のオーディンと、面倒そうな俺ら2人。
そこに、第三者が入ってきた。
「こんにちは、フレイアちゃん、フレイくんよかったわ。2人が堕天使にならなくて。なっていたら、殺りに行くのは私とオーディン、トールにヘイムダルまで最高戦力で向かうところだったわ?」
「「あ、ははは…こ、こんにちは…フリッグさん」」
俺とフレイアは青ざめながら大女神、フリッグに挨拶をした。
大女神、こっわ!
そんなんで来られたら世界のどこにいても見つかるわ!
それに伴い、それぞれの聖獣も来るんだぞ!!?
主要神に支援魔導師や治療魔術師がいなくて、本当によかった。
もしいたら、それこそ勝ち目がないわ!
いや、既に無理だけどさ!
けど、神器や聖獣がいれば、それでも無理じゃない気がした。
ただ、ヘイムダルは厳しい。
あの爺さんだけはやだな。
ちなみに、さっきから話に出てる爺さんだ。
「…フリッグ?何の用だ?」
「用、というほどでもないのだけれど、下に生まれた聖獣っていうのが気になって…それに、下の病気を2人がもらって来てないとも限らないから」
フリッグは優しく兄妹に触れ、簡単な回復魔法をかけた。それで現在の体調が大体はわかるのだ。
『…あ、ありがとうございます…』
2人が答える。
それに、世界の誰もが見惚れる美しい大人の笑みを見せる。
「とにかく、何もなかったし、行ってきた理由は、私としては好感を持てるわ。お咎めなしでいいでしょ?」
「フリッグ…お前はなんでも勝手に決めるな…」
「けれど、あなたが言い出したのよ?絶対王政は嫌だから、神を裁くのは私。そして、主要神を裁くのはあなたと私。両方の意見が揃わないといけないって」
「…そうだが、成人前の神だぞ?それが人間界に行くだなんて…」
「それについてはあなたにも非があるわ。そういうことをしそうな、悪戯好きの双子にあそこに入る方法を与えていたんだから。だから、時期尚早だって言ったのよ。フレイに金の鬣をあげるのも、フレイアに結界の担当をさせるのも」
「…それは…」
2人が口論を始める。2人は息が合い過ぎて仲が悪い。しかし、フリッグがこう言ってくれて本当に助かった。実質、この世界を運営してるのはフリッグだからだ。
フリッグははぁ、とため息をついてーー
「まあ、確かにフレイアちゃんの魔法なら常時結界を張るための神をつけておく必要もないし、みんなの負担も減ったわ。それに…私たち程度が張った結界なんてすぐに破られるんでしょうけどね?それでも、結界破りを気安くさせたのはあなたのミスよ」
フレイアに後ろから抱きつきながらそう言った。
「「……」」
「あぅ…ふ、フリッグさん離して…」
「うふふ、フレイアちゃん、久しぶりね?いきなりで申し訳ないんだけど、今回の件の罰というか、埋め合わせとして、あなたの涙が欲しいな。ちょっと、とある神器を作ってて殆どなくなっちゃったのよ」
フレイアの涙は神器の素材になる。それは七色に輝く宝石になり、素晴らしい金属にもなる。その理由は、フレイアの大量の魔力が秘められているからだ。
「あぅ…い、いいですけど…とりあえず、離し…」
フレイアは震える声で言い、フリッグの腕を解こうとする。
「そんなに怯えなくてもいいんだよ?ちょっとだけ、ルール違反に怒ってるだけだからね?」
フリッグはフレイアを抱く腕により力を込め、楽しそうにそう言った。
「「……」」
『『……』』
兄が妹の目をさっと隠した。
うん、確かに、気まずいね……けど、隠すほどでもないかな…?
「にゃ…うぅ……い、いいから、離してって!」
「後で私の部屋来るんだよ?あなたの神器作ってたんだから」
「んっ!? 本当!?」
「そうよ。きっと、喜んでくれると思って、あなたたちの神器を作ってたの。あなたの涙だけを使ってね?」
「そ、それは私に馴染みそうだね!ありがとう!」
「んー、本当、フレイアちゃんは可愛いわぁ」
…お前、絶対にフレイアに借りを作っときたかっただけだろ、という突っ込みを俺もオーディンも我慢した。
さて、話を戻そうか。
「オーディン、俺らの処遇は?」
問うと、呆然と2人のやり取りを見ていたオーディンが我に返ったように話し始めた。
…顔赤いな、こいつ
「仕方が無いな、今回は素材提供ということで許してやるよ。フレイ、お前も世界を回って素材集めてくるんだぞ」
「はーい」
「んっ!了解!」
結局、俺らはまだまだ子供で、
「さて、フレイアちゃん?私の部屋へ行くわよ?」
「え?い、今からですか!?」
「そうよ?怪我してたら手当もしてあげないとだし」
「け、怪我なんてしてな…お、お兄ちゃーん!」
「ごめん、無理だ」
主要神に見守られ守られてたってだけの話。
「フレイア…心に傷を負わなければいいな…」
「ああ、少なくとも泣かされはするからな」
まだまだだなぁと、改めて学んだのだった。
あれから、月日は経ち、
「んー、暇ぁ…」
「お前…儀式の間くらい、我慢できんのか」
「お兄ちゃんに我慢を強要するとか、絶対無理だからね?」
俺たちは成人の儀式を迎えていた。
「…はぁ、とにかく、あなたたちにこれらの神器を授けるわよ?」
呆れた様子のフリッグが俺に一振りの剣を、フレイアに単杖を渡す。
どちらもフレイアの涙が素材の最高の一品だ。
「これからも、主要神としてしっかり働くように」
(というか、ルールくらい守れ)
((やだね!))
そんな会話をピアスを使ってやりながら、俺たちは成人を迎えたのだった。
「主上!おめでとうございますっ!」
「ふふ、麗麟。ありがとう」
「主人、この度は誠に目出度く…」
「あー、もう。お前、どこでそんな堅っ苦しいの学んで来たんだよ?」
フレイアは麗麟に抱きつかれながら、俺は恭しく頭を下げられながら祝われた。
「さて、今日はどこに遊びに行く?人間界行っちゃう?」
一通り麗麟を愛でたフレイアが首を傾げながら問いかける。
「あー、それもいいかもな」
俺は色々と考えながら今日の遊びを考えた。
そのとき、麒麟が俺に進言して来た。
「主人、実は、ヘイムダル様より連絡が来ております」
「あ、お兄様。白虎の件ですね?」
「うん、そうだよ」
よしよし、と麗麟の頭を撫でてから兄貴の方は俺を見て言った。
「最近呼ばれて生まれた白虎二体が大変な暴れ者で仕えないそうです。それで、ヘイムダル様のところに送られたそうなのですが…ヘイムダル様もお疲れになったそうで、引き取られよ、とのことです」
「はぁ、あの爺さん、俺らを何だと思ってんだ」
「ふふふ、いい暇潰しじゃないかしら?行きましょ、おにーっちゃん!」
フレイアは俺の後ろから肩に飛びついて、首に腕を回してくる。俺はフレイアを前に回って来させて、抱き上げながら言った。
「じゃあ、今日も元気に遊びに行くか!」
俺たちは、こうして今日もルールを破って遊ぶ。
次回はお正月企画!
けれど、リクエストがあまり来ていないので流れるかもしれません。
よろしかったらまたリクエストしてくださいねっ!
多分、お正月企画するなら、
フレイアと白愛の出会いも書かせていただきます。
どうか、お楽しみにっ!
それでは、皆さん、良いクリスマスをっ!!




