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いきる、なう  作者: ねこうさぎ
低レベルパーティー
7/157

火属性

「どうやって使おうかなぁ」

私はルイードの隣を歩きながら呟く。ルイードは気にした様子もなく私の顔や身体を見ていた。なんだろう?買ってもらった服は店員さんも似合ってるって言ってくれてたのに変かなぁ?ルイードの目が少しとろんとしていて焦点があっていない気がする。頬が赤い。風邪を引いたのだろうか?昨夜は服も着ずに眠っていたから、仕方が無いかもしれない。どうやったら元気になってくれるかな?私の身体を眺めてたら元気になるのか、ルイードは不意に少し微笑む。それなら、今日も裸で寝ようかなぁ。そういえば、裸でベッドで好きにしてって言われたら男の人は喜ぶってギルドでお酒を飲んでいたおじさんが言ってた。なら、それを実践してみよう。ちょっと、それが意味するところがわからないけど、ルイードが元気になってくれたら何でもいいもんね。

それにしても、火属性の使い方、どうしよう。

「蒸しパン、焼きたてですよ〜」

不意にそんな声が聞こえた。街の外へ繋がる門のところのパン屋さんだ。これからクエストへ行く人たちへお昼ご飯として持って行ってもらうことを目的としているんだろう。

蒸しパン、蒸す。蒸すって言うのはどうすることだろう。

「おばさん、蒸すってどういうこと?」

「ん?お嬢ちゃんは蒸すも知らないのかい?火で焼くんじゃなくて水蒸気で火を通すのさ」

「水蒸気で……」

「その年になってもわからないなんて、恥ずかしいよ?」

おばさんは馬鹿にするようにからからと笑った。その年って、まだ五歳なんだけど…ああ、今、見た目は12歳くらいなのか。

「ありがとう、お婆さん」

「お、おばっ‼」

さりげなく呼び方をおばさんからお婆さんに変えてやる。予想違わずおばさんは顔を真っ赤にして口をパクパクした。人を見かけで判断するからだ。お婆さん。

それからしばらく歩いて私はクエストのターゲット、ミノタウロスに、会った。まずは挨拶がわりに泡玉をお見舞いする…が、やはり牛は舐められたものじゃない。死んではくれなかった。

どうしようかな、一瞬考えて思わず口角が上がる。たまたまとは言え、聞いておいて良かった。

「泡玉、合成火の玉‼」

両手にそれぞれの玉をつくって手を叩く。それだけで泡玉の中を「蒸した」状態に出来た。あとはそれを発射するだけ。

予想違わず、ミノタウロスは絶命した。傷もついていない。これなら上々の出来だろう。他にも火属性にはいろいろと使い道がありそうだ。しっかり考えて使いこなそう。

ルイードは黙って目を伏せていた。


「ルイ、夕飯はどうするの?」

「ああ、まだ昼にもなっていないのに当たり前のように今日の仕事は終わったんだな」

ルイードがしみじみと言う。何が言いたいんだろう。私たちはレベルが低いから一日一つのクエストをこなすだけで十分のはずだが。

「じゃあ、もう一つクエストをする?私も試し打ちはあと何度かしたいしね。出来れば、植物系のモンスター討伐とかを受注しよっか?」

私の提案にルイードは少し不満気な顔をしたがすぐに頷いた。今日はあまり笑ってくれない。どうしたんだろう、私が何かしたのかな?

「ああ、そうだな……最近、俺は働いてないなぁ」

「え?」

「なんでもないよ」

ルイードが言った言葉を聞き取れなかった。これは本当に何かするべきだ。私がルイードの癪に触ることをしたにちがいないのだから。しかし、ルイードは何をしたら喜んでくれるだろう?本当に裸でベッドで好きにしてって言うだけで喜んでくれるのだろうか?あんまり信用出来ない情報だ。もっときちんと考えよう。最悪、それをすればいいんだし。

そう考えながらギルドの超重量級モンスターのような受付嬢、マリのもとへ行く。マリはなぜか私を毛嫌いしているのでいつもルイードがクエストを選んだりしてくれている。

「…………」

真剣に考えてるルイード。それをとろんとした目つきで見るマリ。なんだか無性に腹立たしくなるのはなぜだろう。ルイードをそんな目で見ないで欲しいと言いたくなる。私が言うようなことじゃないのに。

「なぁ、アクア。このあとのクエ、別々でやらないか?」

思わぬルイードからの提案。胸が一瞬、ズキリと痛くなる。本当に、私はルイードに何をしてしまったんだろう。

「どうして?私とやりたくないってこと?」

思わず声が震える。やだ、ヤダ、そんなことを言われたら寂しい。寂しすぎるよ。

「そうじゃない。だけど、俺もたまにはモンスターを倒さないと。今日、これから受ける分だけ。別々でやろう?」

「……う〜……わかった…」

ルイードが口調が優しくても実はとても頑固なことくらい知ってる。こう言い出したらもう何を言っても無駄。だったら、我慢するしかない。それに、私にとってもメリットがないわけではなかった。

私の承諾を得て嬉しそうに笑ったルイードは5個ものクエストを受けた。それは言外にしばらくの間は別行動がしたいと私に伝えてきていた。

早速クエストへ出かけて行くルイードを見送ってから私もクエストを見せてもらう。始めてのことだ。ドキドキする。しかも、対応してくれるのはマリだ。いろんな意味でドキドキだ。

「私にもクエスト一覧を見してくれますか?」

「…………」

無視。なんだこの受付嬢。少しムッとして今度は語調強く大きめの声で言う。

「クエスト一覧を見して」

「………どうぞ」

バサリと乱暴に投げ付けるように渡られたリストは全てレベル30以上のモンスター討伐クエストのようだ。言外に死ねっていってるな?

「どうもありがとう。じゃあ、全部受注するわ」

「はぁ?全部?18個もあるのよ?バッカじゃないの?」

「言葉を謹んだらどうなの?仮にも受付嬢がそんなことを言うかしら?」

「………申し訳ありませんでした」

ものすごく不服と書いてある顔で謝られる。私としても不服。なんだこの受付嬢。

しかし、言っていることはもっとも。この束にはレベル56のモンスターも含まれている。レベル5の水属性魔導師が受けるようなクエストではない。ましてや、18個も。

しかし、それでも私はクリアする自信があった。なぜなら、そのクエの中には光属性の宝石を落とすモンスターと火属性のさらに強力な宝石を落とすモンスターが含まれているからだ。これで新たな属性が手に入る。

「とにかく、受注をお願い」

「…はい」

こうして私は無事に18個の難易度の高いクエストを受けた。


おそらくルイードは野営をして家にも帰って来ない。なら、私もそうするべきだ。何と言っても、ルイードの三倍以上のクエを受注しちゃってるんだし。代わりに、ルイードの目がないことで私はやり放題だ。どんな強力な魔法も、グロ過ぎる殺し方も。

「リトルフラワー、生息地はこの辺りのはずだけど……」

はじめにするクエはもちろん植物系のモンスター討伐だ。ここへはリトルフラワー討伐、ラージリーフ討伐など8種類の植物系のモンスターの生息地となっている。しかし、探すのは何とも面倒だ。いつもはルイードといっしょだったから良かったけど、一人でいると気が滅入る。

「森ごと焼き払いましょうか」

思った時にはやっていた。やっぱり人間、身体の方が素直ですね。

「うん。消火も出来るんだし、水属性と火属性の相性はなかなかね」

私は腕を組んで燃え盛る炎を見る。熱いので自分の周りには水で結界を張った。これで私へは火も熱も届かない。

しかし、一つだけ忘れていたこと。

ここは多くのモンスターの生息地だ。そしてそれらのモンスター討伐クエストはずっとある。ゆえに、ここにいる冒険者は私だけではもちろんなく……

「うわぁ‼森が燃えてるぞ‼逃げろ‼」

「モンスターが暴れ出した、無理だ‼」

「熱い、燃える〜⁉」

そんな悲鳴が森のあらゆる方向から聞こえてきた。

やばい、ギルドに怒られる。

私は急いで水をかけ、火を消した。ギリギリ、私が火をつけたと気づいたものはいなかったらしい。しかし、私が火を消したことに気づいたものは多かったようで。

「ありがとう、助かったよ。いやぁ、誰があんなことをしたんだろうね」

「ついでにモンスターも死んでくれたよ、ありがとう。モンスターが火をつけたのかねぇ?」

などなど声をかけてくる人が絶えなかった。ときにはハグをしてきたり肩を抱いて来たり食事に誘って来たりとかなりフレンドリーな人もいて、申し訳なくなった私はその全てを丁重にお断りした。

ところで、今夜どうとはどう言う意味だったのだろうか?

そんな騒動もあったものの、おかげで住処を壊されたモンスターは荒れに荒れて犯人である私に襲いかかって来てくれた。やはり、モンスターには暴露ていたようだ。しかし、その方が好都合。モンスターを探さずとも私は夜通し戦い続けることが出来た。討伐クエスト指定個数は超えただろう。

翌日は水性生物討伐クエストだ。今日はきちんと探して討伐しよう。と、誓ったのもつかの間。やはり飽きてしまった。巣を直接襲おうかと思っていたら先に襲われた。冒険者に。

嫌ににやにやと笑った輩たち。その数、7。ルイードに人殺しはもうしないように言われているから、殺せない。しかし、向こうにその気はないらしくさっきからペタペタとおとを立ててそれぞれの剣を触っている。と言うか、錆びますよ。

「お嬢さん、可愛いね、ちょっとお兄さんたちと遊ばないかい?」

12歳くらいの身体にしてお嬢さんと言うのも少しムッとするところだが、お兄さんたちと遊ばないか、とはどう言うつもりだろうか。私は真剣にクエストに挑んでいるのに遊んでいるように見えると言うことか?とまた少しムッとする。

「遊ばないわ。私、クエストがあるので。そこどいて」

怒りをそのまま乗せたような声と口調で言ってみる。しかし、男たちは笑うのみでどいてはくれなかった。

「お嬢さん、お兄さんたちを舐めちゃいけないよ〜?」

「こっちはストレス溜まってるからね。一日二日付き合ってくれたらいいんだよ」

「まあ、そのあとは俺たちの財布を温めるために使わせて貰うけどね」

などなどを実に楽しそうに話している。財布を温めるとはお金が入ることだ。つまり、私を金に変えるのだろう。奴隷商人への繋がりがあるのか。

「お嬢さんならすぐにご主人様がつくよ。多分、その顔と身体目当てだけどね」

「いいご主人様だったらいろんなプレイが出来るぜ、そんなとこへ連れていってやるお兄さんたちにも感謝しろよ〜?」

ニタニタと笑って私の肩を掴んだりする男たち。これは、殺してもルイードも文句は言うまい。しかも、今はここにいないのだ。何やったって暴露ない。それは、昨日考えた通りじゃないか。

それに、殺す理由はもう一つ。

「おっと、抵抗しようなんて考えるなよ?こっちにはダークハンドの宝石があるんだぜ?」

と一人の男が真っ黒な宝石を見せつけるように出した。あれは強力な闇属性の宝石だ。私が欲していたもの。まさか、こんなところで手に入るなんて。

「私って、ついてるわ」

ぽつりと呟いた独り言を聞いた男が爆笑した。それも気にせず私は手を前、前方の私の行く手を遮るように立つ、宝石を持った男に向けて、再び独り言を言う。

「神様のお導きかしら、ねぇ、オーディン」

言うが速いか両手から火を放ち、男を一瞬で気化させる。宝石が落ちて割れてしまう前に泡玉に入れて守る。そのまま手元へと泡玉を戻した。ここまでやって、こういう使い方もありなのかと気づく。

私が宝石を手にいれる頃には男たちも私の行動に理解が追いついたようで騒ぎ始めた。私は1人づつの顔を指差して行く。私に指差されるとすぐにその頭全てが水に包まれる。もう何度もした泡玉による窒息死。精々苦しんで死になさい。

私は何の感情もなく、いや、宝石が手に入った喜びを抱いてその場を去った。

さて、闇属性はどんな使い方があるのかな?

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