城の待遇
大遅刻です!ごめんなさい!!
しかも短いという…本当にごめんなさい!!
慌ただしくルイードたちが去って行くとガルシアは安心したようなため息をつき、ノアに向き直った。
「さて、猫姫。何か、言うことはありませんか?」
そう言われた途端、ピクンッとその耳が動き始めた。それからも忙しなくピコピコと動かし続け、視線が泳ぎ始める。
ノトが隣で小さなため息と同時に『私は何度か帰るように言ったにゃん』と責任逃れを敢行していた。
「えっと…同盟国のみんにゃには、迷惑かけたって…思わにゃくもにゃい…」
ごめんにゃさい、と頭を下げかけた時、ルイードたちが出て行ったドアから誰かが入ってくる気配がした。同時に、幼く聞こえるよく知った声がこの広い部屋に響く。
「へぇ?ねぇねぇ、ノアちゃん?私たちには迷惑と心配をかけたって、思わないの?」
「…あ、あいるぅ……」
一国の姫であるノアは自身の筆頭執事であるアイルに怒られるのが嫌いなのだ。
「もちろん、今回のこと、きっちり説明してくれるんですよね?王様?」
「…も、もっちろんだにゃ!!そのくらーー」
「そうですか!それはよかった!朝の御老体たちがもう大怒りで、私では無理かなって思っていたんですよ」
「…えっ!そ、そんにゃに怒ってるにゃ?」
「…そりゃ、自分たちの主がいきなり何も言わずにいなくなれば、怒りもしますよ。全くもう。ほら、一緒に怒られてあげるから帰りましょ」
「…うぅ、やだにゃあ」
言いつつ、ノアはアイルによって引きずられるようにして出て行った。
「あっ!ちょっと!会談はここであるので国には帰らないでくださいよ!?」
ガルシアのそんな叫びは聞こえたのかどうか…。
「ごほんっ!さてと。では、フレイアさん?アクアさん?に対する待遇についてなんですが…」
ガルシアは場を持ち直すように部屋を応接室へと移動し、向かい合って座ってから一つ咳払いをした。そして、真面目な顔で話し出す。
「いくら俺でも、流石に城内に何日も滞在させることはできないんです。それも、無姓でしょう?王家ってのは体裁が大事なもので…」
「「…あー、なるほど?」」
フレイアとアクアは全く同じ反応をしたのだった。
今、二人の心境は長居はできないという事実に対する困惑とまあ、神だから姓はないよな、という諦めというものだった。
「で、ですね…よかったら、俺の親戚、という形で入ってくれませんか?」
その場合、ガルシアの名を名乗らなくてはならないが、親戚ならどれほどの期間おいていてもおかしくないそうだ。
その条件を飲むと、ルシウスはもう一つだけ、条件を述べた。
「えっと、その顔は比較的隠す方向でお願いしますね?」
「? どうして?あなたと似ていないから?」
フレイアが問い返すとルシウスは首をゆっくりと横に振り、
「そんなに美しいと目立ちすぎるからです」
と言った。
アクアたちがもらった部屋は特別塔の一室で、その中に三つの部屋があった。
そのため、
麗麒、富白、偉澤
莉八、ユニズ、ウンディーネ
フレイア、アクア
という部屋割りになった。
「えっと、基本的には、外出時にこのパーカー?のフードを深く被ればいいんだね?」
「怪し過ぎる気もするけどね。まあ、目を引くのは事実だし、引きこもり過ぎるなとも言われているから仕方が無いよね」
フレイアとアクアはそんな会話をするとお互い今着ている服の上からでパーカーを羽織った。
「ノアはどうしたのかな?また合流できると言いけれど」
「大丈夫じゃないかしら?まだこの国にいるようなことを言っていたでしょう?」
言いつつ2人とも部屋のテーブルを挟むように置かれたソファに腰掛け、向かい合う。
「……」
アクアが少し真面目な面持ちになると、フレイアは微かに微笑んで話を切り出した。
「じゃあ、とりあえず落ちついたし…二千年前の話をしましょうか」
「…うん」
そうして、フレイアは淡々と、何か他人の話をするように、その過去を語り出した。
その頃、隣の部屋では
「ねぇ、報酬わぁ??私がぁ動いてあげたぁ、報酬わぁ?何??なぁにー?」
「……出す、出すからその話し方をやめないか?」
「えー?そんなことぉ、言われたのぉ、初めてぇ」
「だとすればお前の周りのやつらはかなり優しいかかなり鈍いかかなり変わってるな。残念だが私はそうではない。いいから、その話し方をやめろ」
「…無理ですよ、これがこの人の素なんですから、ウンディーネさん?」
二人のやり取りを黙って見ていた莉八がそういい会話に入る。
つい先ほど部屋の窓から入って来たウルズは楽し気にウンディーネに髪の世界まで報告に行ってやったお礼を強請りだしたのだ。
「…そうだな。諦めるか……で?お前は何が欲しいんだよ?」
「大精霊の核!」
「アホか?お前はアホなのか?あ、そうか、アホだったな。ついつい忘れていたよ」
ウンディーネは呆れ顔でそう言い返すが、対するウルズはどこまでも真面目な顔をしていた。
このズレていところが何とも面倒なのだが、ウンディーネの買ってからの友であり、妖精女王でもあるという困ったやつなのだ。
「なんで大精霊の核が欲しい?私に死ねってか?」
大精霊の核とはウンディーネの心臓のようなものだ。とても美しい碧の宝石だから、欲しがるものは多くいるが、それを取られたらウンディーネはすぐに死に絶えてしまう。そのため、奪おうとするものを倒すようになり、そうやって精霊たちは戦いを覚えて行った。
「ちぃがぁうわよぉー!そんなこと、思ってないわぁ」
ウルズは慌ててそう言うが、顔はニコニコと笑っていてどこか信憑性にかける。
「…どうだかな」
ウンディーネもあまり信用していないようだった。
「それで?本当は何が欲しい?」
「だぁかぁらぁ…大精霊の核が欲しいって言っているでしょぉ?」
「……」
「…そうしたら、いつでも一緒に入れるじゃなぁい?私、妖精界ではぁ、結構暇なのぉ。遊んでくれる、友をぉ、側におきたいわぁ」
「…そういうことか、だが、断る!」
ウルズの理由を聞いて、ウンディーネは少しだけ頬を緩めたがすぐに断った。
ウルズもわかっていたようで苦笑する。
「私は今の契約者を守る。その義務がある。お前が私の身を案じてそんなことを言ってくれているのは、わかっているんだが…断らせてもらう」
そう、ウンディーネにはきちんと伝わっていた。長い付き合いの成せる技だろうが、ウルズはウンディーネを妖精界に連れて行くことでロキから離そうとしていたのだ。ここにいると、必ず戦闘に巻き込まれてしまうから。
しかし、ウンディーネがそれをわかった上で断ることも、わかっていたのだろう。
ウルズは残念だわぁと言い、立ち上がると美しく微笑んだ。
「じゃあ、報酬としてぇ、一個だけぇお願い」
「…なんだ?」
ウンディーネの目を真っ直ぐに見つめて、
「…死んじゃ、嫌よう?」
つまり、死ぬな、ということ。
ウンディーネも顔を綻ばせた。
「ああ、全てが終わったら、必ず妖精界に行くよ」
そうして長年の友のいきなりの訪問は幕を閉じた。
「…なんで、同室っすか?偉澤さん?」
富白が居心地が悪そうにソファの上で頭を掻く。麗麒は苦笑をしていた。
「なぜって言われてもな。この部屋割り以外、なんかいいのがあるか?(俺だってお前らよりフレイア神と相部屋とかしたかったわ)」
「ふふふ、昔から心の声がだだ漏れですよ、偉澤さん」
「うるさい麒麟」
白澤と麒麟は元来仲が悪い。
なんでも知っているがゆえにプライドが高く忠誠心に薄い白澤と主から全てをいただくことによって行動できる忠誠心が厚い麒麟では、それもしかながないが。
「まあ、居間にいれば他の部屋の人とも会えるからな。別に、部屋割りとかはどうでもよかったな、うん」
この仲の悪さが富白が居心地が悪い原因なのだが、これの改善は早々に諦めたようだ。
「ああ、そうだな。じゃあ、常に一人はあっちにいるようにするか。そうすれば、フレイア神たちの部屋に入られるのを防げるだろう」
「ああ、いい考えですね」
偉澤の提案に2人はすぐに乗った。そして、
「じゃあ、とりあえず俺が行こうかーー」
立ち上がり出て行こうとした富白の肩を、2人は息の揃った動作で掴んだ。
「「おい、2人っきりにする気か?」」
「…えー…」
その後、どういうローテーションにするか、という話で軽い喧嘩をするのだった。




