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いきる、なう  作者: ねこうさぎ
低レベルパーティー
6/157

出会いールイード側ー

今日も、何も変化のない一日だった。

朝起きて、飯を食ってギルドへ行く。そこで適当に楽そうなクエストをマリと雑談をしながら探して出発。もちろん、楽なクエストだけなので夕方には終わった。今日も今日とて薬草採取。そろそろ飽きた。別のクエでも探そうかなぁ、なんて考えながら家へ向かって歩いているときだった。

前方が、光った。

いや、正確に言うなら光っていた、だ。

俺は魔導師じゃないからよく知らないがあれは確か、転移門の光だ。何処かから誰かが転移してくるのだろう。

適当に考えて、いや、考えもせず、俺はその光を見ていた。

やがて、女の子と40前くらいのおじさんが出てきた。

親子…に見えなくもない。髪色や目の色は生まれ持った魔力で変わるし、色を除いた外見は似てなくもないからだ。

と言うか、美形だな。

親父も娘もだ。もっとも、娘は顔の半分を手で覆っていて目元が見えない。それでもかなりの美少女に見えた。いや、五歳くらいだから幼女だが。

親父の方が娘の頭を撫でて、何かを言った。娘もそれに答えた。そしてーー

親父は、去って行った。

「……え?」

まだ残っている門に帰るでもなく、親父は森に入って行って見えなくなった。

街外れの、夕暮れの、人通りのない場所に女の子が1人、残される。

それはとても孤独に見えて、その顔を覆った手も、泣いているように見えた。

まさか、捨て子…?

自分も同じ思いをしたことがある。捨てられた直後はイマイチ状況がつかめないのだ。だが、なんとなく、わかってしまって、泣いてしまう。

俺の場合は家は残してくれた。だが、あの子は何もない。

手荷物もなければ、近くに人もいない。通る可能性すら薄い。そして、門があったということはかなり遠くから来たのだろう。

あの子は1人で生きて行けるだろうか?

そんな問、子供にだってわかる。

俺は拾ってやることにした。あんな幼子1人くらい今の俺でも少し危険なクエストを受注すれば養える。もしかしたら魔法が使える子かもしれないし。それなら仕事を手伝ってもらえばいい。

そう思って歩き出す。さて、なんて声をかけようか。

「どうした?迷子か?」

気づけばそんなことを言っていた。いや、正確には把握出来ていない。何しろ、自分から人に話しかけるのが久しぶり過ぎてなんて言っていいのかわからず、テンパっていたのだ。

しかし、迷子とは我ながら情けない。自分で捨て子だと判断しておいて。

「ううん」

案の定、女の子は俺の言葉を否定した。いつの間にか顔を覆っていた手を下ろし、辺りを見ていた目を俺へ真っ直ぐに向けてくる。

真っ青な目をしていた。キラキラと輝くように見えるのは錯覚だろうか。まるで宝石のように美しい、大きな目。そして同色のふわふわと触り心地の良さそうな艶やかな髪。

お人形のように美しい幼女だった。

年の頃、五歳と言ったところだろうか。

背は平均より小さいかと言ったところだが顔はとても大人びて見える。それが一層、お人形な雰囲気を醸し出していた。

その蒼い両目には寂しさや不安と言った気持ちは感じられないが当初の予定通り、女の子に話しかけて行く。

「お父さん、お母さんは近くにいるのか?」

幼女は首を振る。これは俺の予想で正解だな。それでも一応色々と聞いて、始めて幼女から予想外の言葉を聞けた。

「2人とも、もうこの世にいないよ。私が殺したから」

幼女は小首を傾げて何かを尋ねるような目で俺を見る。

ーー引いたかな?

そんな目だった。殺したことを後悔もしていない。する意味ない。しかし、こうして聞いて来た人を不快にさせただろうかという気遣いが伺えた。

「じゃあ、俺のところへ来い」

そう言った俺を意外そうに見て、しばらく考え、幼女は言う。

「よろしくお願いしますね」

顔だけでなく性格も大人なようだ。


結局、予想外だったのはあのおじさんが親父じゃなかったことくらいで俺は深く聞かないことにした。幼女と共に家に帰り、簡単な自己紹介をし、幼女に名を聞く。無いと答えられた。少し悲しそうな顔をする。しかし、名が無いというのもなぁ。俺はしばらく考えてアクアマリンと付けた。幼女は喜んでくれた。

しばらく話していると予想外のことが続く。

まず、彼女には名が無いばかりかこの世界の知識もなかった。ギルドのことも、レベルのこともモンスターのことも。一体どんな箱入り娘だったんだ。

一通り説明をする。俺は説明が上手い訳じゃ無いけれど、幼女はかなり頭がいいらしくすぐに理解してくれた。

それからは、風呂に入ったことが無いというので一緒に入り、一緒に眠りについた。幼女ーアクアの服はかなり血で汚れていたので俺のティーシャツを貸してやった。ぶかぶかでなんだか脱げそうだった。明日には服を買いに行ってやろうと心に誓う。


次の日、ギルドで登録とレベル確認をするとやはり魔導師の才があったらしく水属性の魔導師となった。本人は火属性が欲しいようだが、仕方が無い。レベルも5とまだまだ低いのでしばらくは俺が守ってやろうと思う。

昨日決めたように少し危険なクエを受ける。オーガの巣を破壊するクエだ。オーガは魔法を使わない代わりに力がとても強いので少し苦手。仕方が無いが。


「ね、私にやらせて?」

巣を見張っているとアクアがそんなことを言って来た。えー、俺だって怖いのにとは言わない。子供はなんでもやりたがるものだ。

と思っていた時期が俺にもありました。

ごめんなさい、舐めてました、本当にごめんなさい。

まさか、一発で巣を壊すとは。

魔法を生で見たのは始めてだが…一発……。

俺はアクアにばれないようにオーガに黙祷した。


次のクエストはゴブリン討伐。今回はきっちり殺していかないといけない。ちょっと難しい。俺は今まで受けたことはなかった。

今回はアクアがいるので大丈夫。…と、思っていた。もちろん、大丈夫だったのだが…。

「泡玉、発射〜‼」

そんな可愛い掛け声と小さな細い腕を精一杯に振る仕草。心の底から安らぐ。

目の前に広がるは地獄絵図。ゴブリンがどんどん泡玉の犠牲に。

俺はやはり黙祷を捧げた。

泡玉の効果は泡の中に水を溜め、頭全体を覆うことで息をさせないのだとか。また、水属性の特徴として液体ならなんでも大丈夫なので温度も自由に変えられるらしい。中に溜めた水を熱湯に変えるだけでかなりの戦力になるだろうと俺はアクアに話した。もちろん、五歳児には難しかっただろうから期待は……

「泡玉、熱湯、発射〜‼」

今回の犠牲者は本来水属性には強いはずのリトルリーフ。いやぁ、茹で上がる茹で上がる。

やはり俺は黙祷をーー


そんな風にして俺とアクアは一月あまりを暮らした。だいたいアクアのむちゃくちゃ振りにも慣れ、そうそう驚かないという自信がついて来ていた。

そして、もう一度謝ろう、ごめん、舐めてた。

けど、おい、アクア。お前、昨日ベッドに入るまでは幼女だったじゃねえか!

今日、起きると隣に絶世の美女が眠っていた。

美女というか、美少女だな。俺と同い年くらいに見えるから……え、誰?

その疑問を抱く前に俺は答えを持っていたのだが。

こんな綺麗な蒼い髪がそうそうあってたまるか。

「んんっ…ん〜……おはよ、ルイ」

俺が取り乱している間にアクアはその大きな目を開け、上体を起こし、伸びをした。

……迂闊だった…服、着せとけば良かったよ…

そろそろ暑くなる時期で、昨日は特別寝苦しくて俺とアクアはほとんど裸で眠っていた。

アクアは幼女だったし俺にその趣味は無いので何の問題もなかったのだ。

今となっては大有り。やばい、美少女の裸はマジでやばい。

しかし、ここまで包み隠さずだと不埒な考えよりも先に美しいと言う感動が立つな。

まるで芸術品のようだった。

いや、芸術品じゃないだろうか。

アクアが魔法で動かしてる?

そんな意味の無い思考だけが俺の脳内を駆け巡る。知ってたけど俺の脳味噌は役に立たん。

「……?どうしたの?ルイ?」

アクアが小首を傾げる。よく見せるわからないことを問うときの仕草。しかし、今はダメだ。首を傾げると柔らかな蒼い髪が鎖骨をさらりと流れ、大きな膨らみに沿って美しい曲線を描く腹部へ、さらに華奢な腰辺りまで行ってベッドの上まで流れて行った。

うわぁ…こ…これは……

「ルイ?どうしたの〜⁇大丈夫?熱、あるの?」

アクアが手を伸ばして来る。それだけで俺はもう限界で……

全身全霊で視線を背けた。

「だ、大丈夫だ。それより、アクア、髪、伸び過ぎじゃないか?」

「…え?……ああ、ほんとだ…」

そこでやっと自身の今の状態に気づいたのかアクアは今更ながら胸などを手で隠し始めた。やはり精神も成長するのか、その身体を見られるのは恥ずかしいらしい。真っ赤な顔がより扇情的で……あ、あぶないあぶない。

「る、ルイ……服、貸してくれないかな?」

アクアもさすがに声がひっくり返っている。俺は慌てて衣装棚へ行きティーシャツを投げた。

着るのを少し待って、着たよとお許しをもらってから振り向く。

「……あーっと………俺、服買って来るよ」

「うん、そうしてくれると助かる」

アクアは目を逸らしながら言う。それらの仕草にいちいち目が釘付けになる。か、可愛い……。

アクアに渡した服は俺が持っている中で1番大きいやつだ。もちろん、もともと平均より少し小さかったアクアに平均よりそこそこでかい俺の1番でかい服は必要ない。だが、それでも身体のとある部分の布が著しく少ない。全然足りてない。一言で言うならぱっつんぱっつん。

で、でけぇ…。

そんなこんなで服を買い求めた。朝から酷い目にあったものだ。

いい意味と悪い意味で。

しかし、俺も成長しないとな。アクアを守れるように。

俺は決意を新たに新しいクエストをもらうためギルドへ向かった。

まさか、このあと行った道具屋であんなに驚くことになるなんて微塵も思っていなかったが。


「ね〜、今日のクエストはなぁに?」

真っ白な膝上までのワンピースに白いミュールを履いたアクアがふわふわと軽い足取りで隣を歩く。それだけでどこか得したような気になるのはなぜだろう。声も少し変わり、幼い声から美しい高く澄んだ声になった。普通に話しているのにどこか歌っているような美しい響きがある。

「今日は素材集めだな。モンスターの皮を多く集めないといけないんだ。傷が少ない方がいい。だから、今日はちょっと任せきりになるな」

悪い、と言いつつ、いつものことだよなと突っ込む。最近のクエ、俺は何もやってないよ…

「全然いいよ〜!今日は…ああ、ミノだね。皮かぁ」

少し面倒そうに前方をみる。そこには二足でこっちへ走って来る二メートル越えの男の姿があった。頭から大きなツノを生やしていなければ全裸の変態男が美少女に襲ってきていると言う最低な状況に。うん。これでアクアが怖がっていたら本当に警備団が来るな。かく言う本人は平気な顔で、

「泡玉よーい‼発射っ‼」

手を振る。ミノタウロスの頭が水に包まれて悶え始めるが如何せん牛だから、息が続く続く。どうするのか。

「うーん…さすがに泡玉じゃダメかなぁ。……じゃ、本気の、いっちゃうよぉ?」

アクアは悪戯をする子供のような笑みを見せて前方に手を翳す。右の手の前にはいつもの泡玉が五個。左の手の前には同じくらいの大きさの火の玉が五個……

「って、それ、火の魔法⁉」

「…?そうだよ?さっき火属性もついたって言ったでしょう?……泡玉、合成(プラスアルファア)火の玉‼発射っ‼」

手をパンっと叩くと二つの玉がくっつく。正確には泡玉の中に火の玉が入り、蒸されたような状態になる。中身、絶対に100度じゃ済まない……それがちょうど一発目の泡玉を脱したミノの頭に直撃、5連発。

俺はミノに黙祷を捧げた。

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